マスターの家にリンがやって来た。
リンが来てからというもの、マスターは、リンにだけ
歌を歌って貰っていた。
「どうして歌わせてくれないの?」
何度もそう聞きかけた、だけどマスターの事だから、
そのうち歌わせてくれるだろうと思っていた・・・・・
だけど、数日立ってもその気配は無く。ミクは不安になって、とうとうマスターに聞いてみた。
「どうして歌わせてくれないの?私の事嫌いになったの?」
「え?・・・・・馬鹿だなぁ、そんな事ある分けないだろ?」
そう言ってマスターはミクに笑いかけた。
だけど不安に駆られたミクは気づかない。
「じゃあ、どうして最近歌わせてくれないの?」
「えっと・・・・・・それは・・・・・」
途端にマスターは口ごもる。
もう、ミクには耐えられなかった・・・・
瞳から大粒の涙がこぼれ出す・・・・・
「もういいよ・・・・・・」
「え?」
「マスターなんかもう知らない!」
そう言ってミクは、マスターの家を飛び出した。
「ちょっ、ミク!待って!待っててば!」
行く場所なんて何処にも無かった・・・
ただ悲しくてマスターの家から飛び出した。
どれだけの時間、彷徨っていたのだろう・・・・
気が付いたら、丘の上の公園の前に立っていた。
そこは昔、マスターに連れて来てもらった思い出の公園。
あの時はまだ何も知らなかった自分を、マスターは色々なところに連れて行ってくれた。
この公園もその一つである。
ただ、他のところと違うのは。そこはミクにとっても思い出の公園だということ・・・・・
初めてマスターの夢を聴いた場所、そして、マスターのために歌いたいと思った場所・・・・・
二人で並んで座った、公園のブランコ。
あれからずいぶんとたった気がする。
最初の頃は上手く歌えなかったけれど、少しは上手に歌えるようになったはずだ。
なのに、どうしてマスターは歌わせてくれないのだろう?
嫌な考えばかりがミクの脳裏を掠めてゆく・・・・・
その時、目隠しをされると同時に、鈴の音のように澄んだ声が、ミクの話かけてきた。
「だーれだ?」
「え?え?」
ミクは、驚きと戸惑いを隠せず、躊躇いがちにその名を口にした。
「り、リンちゃん?」
なぜ、リンがここにいるのか?
そのことを聞こうとしたミクを、リンは先回りするように答えた。
「共鳴だよ」
「あ」
それは、ヴォーカロイドに備わった特殊能力。
ある、一定の音を媒介に、互いの位置を確認でき、どんなに離れていても、お互いの居場所が分かるのだ。
それをたどってリンはここまで来たのである。
「でも、どうして?」
普段、それはめったに使わない機能のはずなのに・・・・
「それがね、マスター、ミクが居なくなったって大慌てで・・・・頼まれちゃったの」
「マスターが?」
「そう、マスターが」
ミクは、何も言えなかった。
そこまで心配してくれていたのだ・・・・・
「マスターったらひどいんだよ」
沈黙に耐えかねたのか、リンは急にしゃべりだした。
「私と一緒にいると、いつもミク姉の話しかしないの!
ミク姉はこんな風に歌ってたなぁ~とか、嬉しそうに、ホントやんなっちゃう!」
そう、一気にまくし立てた後、誰にも聞こえない声で静かに、「私の気も知らないで・・・・・ばか」
その声は、風に溶けてミクの耳には届かなかった。
「私、もう行くね」
「え?」
「ホントは、見つけたらすぐに連絡するはずだったんだけど・・・・・もう近づいてきてるみたいだから」
そう言って、リンは立ち去ろうとする・・・・・
だが、何か思い出したのか、ミクの方を向くとリンは少し寂しそうに言った。
「マスターのこと、怒らないでいてあげて。ミク姉の為に、新曲を書いてたんだって。でも、出来上がるまでは恥ずかしいから・・・・・ミク姉には秘密だったんだ・・・・」
それだけ言うと、リンは走って行ってしまった・・・・
リンが去った後、なんともいえない感情が、ミクの中に巻き起こった。
マスターを信じられなかった自分、それでもなお、自分を探してくれたマスターへの感謝。
全てがごちゃ混ぜになって、瞳から涙が零れ出す。
どうして顔を合わせればいいのか?
もう、何も考えられない。ただただ涙があふれ出す。
「ミク!」
マスターの声が聞こえる。
もう近くに来ているようだ。
最初に言う言葉は、もう決まっていた。
end
二次創作 素人が小説を書いてみた 「君だけの歌」
完成しました~
何とか形になるように、努力したつもりですが・・・・・・・
難しいです
誤字脱字があればご指摘お願いしますm(_ _)m
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