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 テト達が遅い昼餉をのんびり食らっている頃、VIP統合軍の総本営で欲音ルコが携帯電話を耳に当てていた。部下達の前で、不機嫌な顔を隠す気は全くない。

 「ああ、良く分かったよ。桃音参謀長にしてやられたね」

 不機嫌な理由は、例の艤装を脱走兵としてスケープゴートにする目算が外れてしまった事だ。VCLP仕様「VOCALION」ワークステーション40の作戦が二度立て続けに失敗した為に、UTAU連合内でのVIP統合軍への信頼が揺らぎかかっている。それを単なる運用失敗ではなく、兵士の悪意によって引き起こされたという論調で上辺を繕って思想取締り強化の口実も得るという、次善の策を目論んでいたが、今の報告ではっきり水泡に帰したのは間違いない。

 「ええ。重音閣下が責任を持つというのであれば、なるようにしかならないね。この件からは手を引く」

 もう一つと、電話の相手が健音テイの報告をする。

 「さあ?クリスマスも近いし、またクリフトニアでカップル狩りでもするんじゃない?」

 殺しても死ななさそうなテイである、全く心配はしていなかった。だが、今回は事情が違うようだ。

 「えー?運命の人を探しに行った?へー、あの子に彼氏ができるなら皆許すんじゃないかしら。ほら、去年から明けにかけて全軍がすごく士気落ちたじゃない。あれあの子の所為だからね」

 昨年、伝説と化した「クリスマス中止戦争」を健音テイがクリフトニアで実施したのだ。

 「そうそう、失踪してる1ヶ月の間にクリフトニアで仲間集めて不倫暴いたり別離工作したりで。当日なんかタダのパフォーマンスで、それでもすごかったけど。スパイの報告だと1万人もクリフトニアの独身集めて6000組位を不和に追いやったらしいじゃない。天才だよね」

 電話の相手はドン引きしている。聞いていたより、もっとひどいという感想を素直に漏らした。

 「ねー。それで終わらずにUTAUでも恋人持ちとか既婚者とか疑心暗鬼に陥っちゃって、ほんと3ヶ月くらい休戦状態よ。独断専行だけど効果ヤバかったし、誰もテイを処罰できなかったからねー」

 結局、テイはUTAUとクリフトニア両方で、少数の熱狂的な信者と多くの敵対者を得た。

 「だから今年は警戒されてたんじゃない?バレンタイン中止戦争とかはテイかんでないけど、そりゃテイの所為になるよ」

 クリフトニアでは被害を訴える者が殆どおらず、かなりの割合で泣き寝入りしたそうだ。当然クリスマス中止戦争を乗り越えたカップルもいたので、尚更惨めだったのだろう。

 「ま、大好きだった父親の不倫で家庭崩壊してるから。攻響兵になってそれが出たんじゃない?あはは」

 さりげなくヘビーな一言の後、相手は短い口上を述べて電話を切った。

 「切りやがったなコノヤロー。折角面白いところだったのに」

 噂話の好きなルコは、同僚のプライベートですら楽しく話せる。それさえなければいい人であると評判であるが。

 「情報部もぬるいねえ。この程度で引くなら、普段の仕事ぶりもちょっと興味があるわー」

 実際は、もっと陰湿である。興醒めしたように舌打ちすると、ドアの向こうに呼ばわった。

 「ねー、お茶まだー?ねーねー」

 向こう側で何か返事があってちょっとしてから、副官の根音ネネが紅茶の一式を持って入ってくる。

 「失礼します」
 「もしかして今の話聞いてた?」
 「聞こえてましたね」
 「あなたはどう思う?」
 「感心しませんね。ある種のセクショナリズムがある証左かと」
 「……いや、そっちをコメントする?私も同感だけど」

 情け容赦ないルコでも、少し鍛え過ぎたかも知れないと思った。最初の頃は忠実な良い子だったのに、時を経て怖い部分が見え隠れするようになった。

 「どうせ、トラブルが発生して対処するのは私ですから」
 「ひどい言い方するね。まるで俺がねねに厄介事を押し付けてるみたいで」
 「元々厄介な仕事ですよね。瑣末な話は私達で対応します」
 「そ、そっか。ならいいや」

 同僚のゴシップを華麗にスルーされて、ルコはあまり良い気分がしなかった。もしかしたら裏切りの予兆かもしれないと、疑心暗鬼に駆られつつある。

 「で、行方不明のテイ様の動向の話でしたっけ」
 「そうそう、それ!!!」

 カラスの如く鳴いては笑うルコが、ネネにペースを持っていかれているのも気付かずに笑う。一方、ネネはそんなに裏切りを考えてはいない。

 「不確定情報ですが、テイ様はエルメルトに向かった模様です」
 「マジで?テイが初音ミクに単独凸とか、そんなキャラじゃなかったでしょ?」
 「例の、鏡音レンと同じ行程を辿って向かったようです」

 はあ、とルコが呆けたため息をつく。そして、即座に、

 「鏡音レンかよ!」
 「はい」

 3日前に重音テトが激戦を繰り広げたエルメルトで、唯一負傷したという「VOCALOID」鏡音レン。奴は直接には見た事がないが、ここ三ヶ月で覚えるくらいに名前が上がっている。

 「そいつ、何者なんだよ!夏までタダの一般人だったんだろ!エルグラスの!」
 「はい、エルグラスの生き残りで攻響兵を志願した模様です」
 「そんなの書類で何度も読んだよコノヤロー!調査は掛けたのかよコノヤロー!」
 「はい。鏡音レンに防諜が集中しているという事までは判明しています」
 「本当何者なんだよーーーーーーーーーーーー!!!!!」
 「全くわかりません」
 「だろうね。良く分かったよコノヤロウが……」

 エルグラスと言えば、重音テトがぶちかました都市である。本来は艤装攻響兵の誰かが選抜される筈だったのを、長期的戦略策定に不可欠という抽象的な名文をごり押しして大将閣下直々のお出ましとなったのだ。

 「で、重音閣下から情報は引っ張ったのかな」
 「これからです。健音閣下の救出に向かわなくて、少し助かりました」
 「だろうけどさあ、テイの奴マジやばくね?マークされてる鏡音レンに向かって行ってるんだろ?」
 「最悪ですね」
 「3日かあ……。クリフトニアもバカじゃないからなあ……」

 最重要機密指定されてる戦況に、蒼音タヤ元帥による直々の援護作戦があった。公式には偽装攻響兵が「VOCALOID」神威がくぽを押し返したとされて全く流れてないが、神威なら絶対に蒼音タヤの参加に気づいた筈だ。元々健音テイ本人が迎撃しないのは有り得ないと読まれているので、十中八九健音テイの不在、失踪、潜入は見抜かれていると思って間違いない。

 「最悪だな……」
 「最悪ですね」
 「……うん。テイが吐きそうな情報、全部洗い出しといて。全部だよ」
 「手配はしていますので、いつでも」
 「うん。助かる」

 余計な事は言わない根音ネネが、こういう時に本当に助かる。あいつが何もかも吐かないとは知ってはいるが、職務上知りたくもない話も知らなければならないのが、辛い所だバカヤロー。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります

機動攻響兵「VOCALOID」第5章#4

欲音ルコの貴重なインターミッションフェイズ_(:3」∠)_.

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投稿日:2013/05/04 22:43:54

文字数:2,898文字

カテゴリ:小説

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