『ねぇ、何で「そら」は「空」って漢字何だろう?』
それは、彼女からの唐突な疑問だった。
自分の黒髪を、くるくると巻いている。
僕は、飲んでいたオレンジジュースを机に置いた。
「そんな疑問…その頭のどっから沸いてくるんだ?」
彼女の頭をコツンと叩いた。
でも彼女は、不思議そうな顔をする。
「ねぇ、何でだと思う?」
手をゆっくりと退けながら、僕の茶色の瞳を覗き込んだ。
「…うーん…何でだろうな…?」
何か、真剣に僕も疑問が浮かんできた。
…何で…だろう…??
「…って!!ぁ、もうこんな時間!!」
時計の時間は、午後8時…
もう外は真っ暗。
空は表情を、変えていく。
―――--…
彼女と別れ、一人…空の下の、無機質なアスファルトの上を歩く。
ふっと立ち止まり、上を見上げた。
「…星……?」
…久しぶりに見たなぁ。
こんなにゆっくりと見たのは、本当に久しぶり。
「子供の頃以来か…」
一人、呟いてみる。
それを咎める者は誰もいない…。
ましてや肯定する者もいない…。
ただ、星空だけが聞いている。
咎めず…肯定せず…
ただ…吸い込むだけだった。
「……ぁ…」
分かった。
やっと分かった。
…彼女の質問の答えが。
僕は、来た道を急いで引き返した。
「…ハァ…ハァ…ッ…音葉!!」
彼女は、びっくりした様に振り向いた。
「な、何!?」
愛らしい黒目を、丸くさせて言った。
「分かったんだ…答えが…」
僕は、笑った。
君は、驚いた。
「落ち着くからだよ」
「…は?」
素から彼女は、本当に驚いていた。
「空はさ…『空く』って漢字と一緒だろ?」
僕は、空を指差した。
彼女も上を向く。
「空を見ると、心の隙間が出来るから『空』なんだよ」
僕は、笑った。
君も、笑った。
この綺麗な空の下で…
嗚呼、ようやく分かったよ。
君に残せるものが…。
もし、僕がいなくなっても…
「空を見ていてね」
そしたら二人、笑いあえるから。
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