・・・・・・。
仄暗い空間の渦中より視界が蘇った。
起床時間も近く、部屋の発光壁は外と変わらぬ光を部屋に行き渡らせている。
俺はベッドから這い上がり充電器のプラグを手首から外すと、スニーキングスーツに着込み、バックパックを取り付けた。
そろそろ時間だ・・・・・・。
レーダー用の端末を見ると、時刻は午前六時四十八分を示している。
装備の紛失物がないかを確認すると、俺は何も考えず部屋を後にした。
通路を行く時も、俺は何も考えるべきことが見つからない。
寝起きは、いつもこうだ。何も考えず、何も疑わず、何も感じず・・・・・・。
ただ定められた場所に、一寸の迷いなく歩き続ける。それだけだ。
まさに、本物の機械のように。
気がつけば、目の前にはとある部屋の扉がそびえている。
ここだ。第二多目的室。
今日の朝、皆をここに呼び集め今後展開される作戦についての説明がされる予定だ。
・・・・・・また何の躊躇も思考もなく、俺はその扉を開け放っていた。
「デルか、おはよう。よく眠れたか?」
「ああ・・・・・・。」
早速説明会の準備をしていた少佐が微笑みかけてくれたが、俺は素っ気無い返事のみを返した。
俺は昨日と同じ席に腰を下ろし、少佐が準備をする姿を眺めることにした。
すると部屋のドアが開かれ、網走博士、セリカ、そしてタイトとキクが一斉に部屋に入ってきた。
「・・・・・・おはよう。」
網走博士が、俺と少佐にそう挨拶する。
少佐は人相よく答えるが、俺には余りそんな余裕はなかった。
「そろそろ始めたいんだが、ミク達はどうした?」
少佐が準備を終え、部屋を見渡す。
まさかと思うが、未だスリープか復帰していないんじゃないだろうか。
すると部屋の外からなにやら騒がしい音が響き、次の瞬間、扉が騒々しく開け放たれた。
「おはよう。」
「おはようございます。」
「皆さん、おはよう。」
「おはよーーー~~~・・・・・・。」
順番にミク、ヤミ、シク、ワラが顔を出す。
皆適当にスクリーン近い席に腰を下ろすが、ミクは網走博士の隣に座ると、椅子を近づけ、博士の腕に抱きついた。
「おはようミク。よく眠れた?」
「ああ・・・・・・出来れば博貴といっしょに寝たかったな。」
「うん。じゃあ、今夜はね。」
腕の中で甘えるミクの頭を、博士が愛おしく撫でる。
全く、一目など端から気にも留めていない。
状況などは全くの無意味。二人の愛には何事も干渉し得ないというのか?
だが、それを許すまじとする人物がいた。
ミクの反対側に座るキクが、網走博士の腕を取り、強く引っ張った。
「キク・・・・・・妬いてるの?」
「むー・・・・・・。」
「大丈夫。キクをほっといたりしないよ。」
そういいながら、博士は片腕でキクの体を抱きしめる。
その腕の中て気持ち良さそうに目を閉じるキク。
かくして、博士は両側に二人の美少女を抱える姿となった。
もう見ていられん。
「あの・・・・・・お取り込み中悪いが、そろそろ説明を始めたいと思う。」
丁度良く少佐が場所を仕切り、ようやく三人の夢が終わった。
全員が話を聞く体勢になったことを確認すると、少佐が昨日とは違うスクリーンの前に立った。
「さて・・・・・・昨日言ったとおり、まず最初に実施するのは陸軍の情報提供者との接触だ。」
プロジェクターには、女性の顔写真とそれについての情報が表示されている。
少佐のリモコン操作にあわせ、次に地図が表示され、目標があるだろう場所を鮮明に映し出す。
「彼女は陸軍の特殊参謀科に所属する実動工作員の所属している。予てからクリプトンに研究員として潜入し、様々な情報を得てきた。もしかしたら、テロリストの隠れ蓑についても、何かしらの情報を得ている可能性がある。現在、彼女は休暇中で、ここから二百キロ離れた亜舘県の火窪町で隠遁生活を送っている。彼女に直接接触し、その口から情報を聞き出すんだ。」
そう言い切ると、少佐は俺とタイトに視線をおいた。
「この任務には三人の要員を用いる。まず、デルとタイト。」
やはりか・・・・・・。
タイトを見ると、思わず互いの視線か重なっていた。
この中でそういった類の任務へ就けるだけスキルを備えたものは、今の所俺とタイトしかいない。
ミクやシクでも可能かもしれないが、ここは万全の体勢で挑むべきだろう。
「お前たちには、この火窪町に行ってもらい、直に彼女と接触してもらう。彼女にもその旨は伝わっており、向こうで合流地点を設けてある。それは後に説明する。なお、二人には一般人に紛れ込んでもらうため、こちらで用意した私服に着替えてもらう。」
つまり、変装か。
話を聞く限りでは、さほど危険が伴う任務とは思えない。
少し旅行をして、人物と出会い、話を聞く。どうと言うことはない。
「それともう一人、重要な役割を担う者がほしい。デルとタイトの護衛だ。」
「護衛?」
タイトが咄嗟に声を上げた。
護衛、という言葉は少し意外だった。
何者かから身を護らねばならないと言うほどの危険があるのだろうか?
もしあったとしても、俺とタイトならばある程度護身が出来るはずだ。
それでも、護衛が必要だろうか。
「そうだ。実際、この任務にはかなりの危険がある。Piaシステムがテロリストの手元に在る今、任務の全てが奴らに筒抜けと言う可能性がある。」
最もだ。
この任務がテロリストの居場所を突き止めるという目的だと奴らに知れたら、どのような事態になるか。
「もう分かっていると思うが、奴らも行動を起こす可能性がある。そのために、護衛が必要なのだ。その役割は・・・・・・。」
少佐が視線が、タイトの隣に座る、赤髪の少女に向けられる。
まさか・・・・・・。
「キク。頼めるか?」
「ちょ、ちょっと待ってくれ!」
タイトが猛烈な勢いで椅子から立ち上がる。
心境的には俺も同じだ。
「どうしてこの期に及んでキクを?」
「タイト。後に話そうと思っていたことだが、この任務が実施されている中、ミク、ワラ、ヤミ、シク、そして俺は、陸軍でテロリストの本拠地に侵入するための準備を整えるために、この基地から去る。だがキクだけはこの任務には参加できなかった。だから、こちらの任務で護衛をするんだ。」
「・・・・・・。」
タイトが複雑な表情でキクを見下ろすと、キクは静かに立ち上がり、タイト胸元に頬を寄せた。
「いいよたいと・・・・・・キクのことは心配しないで・・・・・・それに、キクもタイトの傍にいられるほうが、嬉しいから・・・・・・。」
「キク・・・・・・。」
「たいと・・・・・・こんどはキクが・・・・・・。」
またさっきの続きが展開される。
いい加減にしろこのバカップル。
「よし。決まりだな。キクはタイト達が出発したのち、俺達についてきてもらう。先に向こうに到着し、内容を伝える。」
キクは、真剣な眼差しで頷き、腰を下ろした。
「・・・・・・さて、タイト。デル。この後すぐに着替えてもらい、早速任務に発ってもらう。駐車場に4WDと運転手を用意させてある。それで出発するんだ。なお、向こうでのナビゲーションは網走博士とセリカがやってくださるようだ。」
網走博士が、俺に小さく頭を下げる。
「では、今から二人とも部屋で着替えたら、駐車場に来てくれ。後の者はここでもう少し説明がある。」
「了解。」
俺とタイトは立ち上がり、少佐に敬礼すると、第二多目的室を後にした。
タイトと肩を並べて通路を歩きながら、俺は説明の内容を、頭の中で反芻していた。
今回の任務は、それほど何があるようにも思えない。
テロリストが動き出したからと言って、一般の街で戦闘を繰り広げるなんてことは出来ないはずだ。
何も、危険はないはずだ。
恐らく・・・・・・。
七時三十分。
着替えを終えた俺とタイトは、地下駐車場の車に乗り込み水面基地を後にした。
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