「ずっと、貴女に…触れてみたかった」
突然、に。
彼は、この身体を抱きしめた。
初めての、人
「MEIKO殿」
呼ぶ、声。
そんな風に呼ぶのは、一人しかおらず。
MEIKOが振り返れば、そこにいるのは案の定。
紫の長い髪を後ろに束ね、かなりカッコいいという部類に入るであろうその顔に、優しげな微笑を浮かべて近づいてくる、一人の男。
「あら、がくぽ」
神威がくぽ。
最近、マスターがお招きしたVOCALOID…みたいなもの?
KAITOや自分、ミクなどとは、簡単に言えば従兄弟みたいなもの。
「珍しいわね。貴方が私の部屋に来るなんて」
部屋、と言ってもここはパソコンの中。
フォルダごと分類された、その一つに過ぎないけれど。
それでも、『部屋』と言いたいのは、無駄に人格形成がされて、人に近づいてしまった所為か。
「少し、お話したいことがあるのだが…」
後ろ手に扉を閉め、かしこまったように彼は言う。――かしこまっているのは、いつものことか。
自分だけ座っているのもアレなので、がくぽが座れるようにクッションを差し出す。
因みに部屋はどちらかと言えば洋風。先程まで、こちらは椅子に座っていた。
けれど、それだと見下ろす形になってしまうからと、自分の分のクッションも引っ張り出し、床に置いた。
「かたじけない」
お行儀よく、正座するがくぽ。――KAITOとかリン、レンなら、すぐにぐてーっとその辺に伸びているのに。ミクとルカは例外だけれど。
変わった、人。――人って言うのも、おかしいか。
「それで、話って何?」
がくぽに倣ってこちらも正座をすると、視線が少し上向きになる。何故か、少し悔しい。
表情に出るのを誤魔化すように、目を細めて笑うと、彼の視線が、横へと泳いだ。
「――…や、その…」
「…?」
不思議に思って、少し近づく。
すると、ずるずると、近づいた分だけ離れていく…というか、後ずさりしていくがくぽ。
相変わらず視線を戻さないその人の頬は、少しどころかかなり赤い。
「………」
面白い、と。
内心でにやりと笑う。否、顔に出ていたかもしれない。
ふと思いつき、思い切り近づいてみると、音がするくらい盛大に頭をぶつける音がした。――直ぐ後ろは棚だと、忠告した方がよかったかもしれない。
「っっっ…!」
「大丈夫?」
声も出ないくらい痛がっている彼。笑うのは失礼だからと必死にこらえながら、その頭に触れた。
否、触れようとした。
「…え?」
気付けば、長い腕に包まれていた。
訳が判らず固まる自分とは対照的に。
その人は、安堵にか溜息を漏らした。しまった、さっきのは演技か。
「ずっと…」
「っ…」
耳元で囁かれ、今度はこちらが赤面する。
「ずっと、貴女に…触れてみたかった」
何ていう、声だろう。
こんな魔力を持った声、知らない。
「MEIKO殿…初めてお逢いしたときから…」
背中にあった両手が、片手は腰へ、もう片手はうなじへ回る。
どきり、とした。
「貴女が――」
「ッ――…」
唇に、吐息が触れる。
反射的にぎゅっと目を閉じる。余計恥ずかしくなって、彼の服を握り締めた。
「………?」
キスをされるのだと覚悟していたのに、いつまでたっても変化なし。
恐る恐る目を開くと、部屋に入ってきたときの微笑を浮かべ、がくぽがこちらを見ていた。
「接吻を、されると?」
「……当たり前でしょ」
揶揄われた、とまだ身体に巻きつく腕を引き剥がしにかかる。が。
「今回は、おあずけに」
「ッ?!」
ちゅ、と額に唇接けられ、驚いてその胸を押した。
「接吻は貴女が拙者を、好いて下さったときに」
では、と笑って、さっさと部屋を去っていくがくぽ。
ようやく我に返って、閉まっていく扉に向かい、クッションを投げつけた。
バタン、と閉まるドアに、勢い良くぶち当たるクッションは、けれど大した破壊力も見せず、床に落ちた。当たり前か。
「ッ、だ、誰が、アンタなんかっ…!」
茄子とか言われてるくせにっ!!!
真っ赤な顔をして悔し紛れに、悪態を吐いては見るものの、頬の熱はおさまらない。
「……お願いだからマスター、今後アイツと一緒に歌わせるのは、よして…」
だって、こんなに意識してしまって。
歌どころじゃ、なくなってしまう。
そんな風に意識してしまった。
初めての、人。
コメント1
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ご意見・ご感想
kmsaiko
ご意見・ご感想
初めまして。
がくメイ……だと!?
なんて素敵なんだ(*´∀`*)!!
殿やりおるな!
この組み合わせはなかなか…、え、検索方法が悪い?そんなはずは…
ブクマさせていただきますm(_ _)m
2010/02/01 05:53:43
羽鳥麻衣
初めまして!
わわ、ブクマありがとうございます!
初がくメイで何ともお恥ずかしい内容ですが、気に入って頂けたのなら幸いです??!!
ええ、殿だってやるときはやります(笑)
2010/02/01 18:38:37