「カーイートっ!」

私はカイトに思いっきり抱きついた。
カイトは顔を赤くしてあたふたと慌てる。

「マスター! どうしたんですか!」
「お誕生日おめでとうカイトっ!!」

そう、今日はカイトの誕生日。ヤマハ式の。
まぁ、うちに来たのは別の日だから、うちのカイトには三回誕生日があるってことだけど、本人はそれを知らない。だって三回のうち今日が一番最初だし。

「マスター……」

カイトは頬を染め、俯きながら照れたように微笑んだ。
この表情の豊かさの設定最高。俺得。

「でねっカイト、何が欲しい?」

カイトは突然目を丸くした。

「僕ですか?」
「うん! カイトの誕生日だもの」
「何でも良いですよ?」

私が俯いたのを見て取ったのか、カイトは慌てて私の服の袖を掴んだ。

「そうじゃなくて、その、マスターのくれるものなら何でも嬉しいです!」

どうしてそんな台詞をご存知なのだカイトよ。
萌えるヤバい萌えるこれは萌える!!!!!

「うん、でも、そう言われても、カイトが本当に喜ぶものをあげたい」

カイトは首をちょこんと傾げた。
それから、私の目をじっと見る。
『マスターが欲しい』なんて……うん、私、自重しようか。

「僕は、マスターの……マスターの、一番好きな曲が欲しいです」
「へ?」
「マスターの一番好きな曲、僕に、下さい」

私の一番好きな曲。
それをカイトに与えるということは、私は自分の一番大事なものをカイトに与えるのと等しい。カイトにとって。
今までは私がカイトを好きだから、カイトを家に迎え入れた、それだけの認識しか無かったけれど。そうじゃない、違う。
今彼の唯一の主人であり、身内であり、友人であり、よりどころであり、愛する人であるのは、私なのだ。
嬉しさで身震いがした。

「……わかった、いいよ」

カイトの顔がぱっと輝いた。



一番好きな歌。
あれも好きだしこれも好きだし、っていうのがありすぎて、自分でももうどれが一番なのだかわからない。
でもカイトにあげるにはどれもふさわしくない気がした。

「……作ろう」

ならば、作れば良い。
つぎはぎだらけかもしれない。下手で耳障りかもしれない。伴奏だってきっと作れない。ただの自己満足と言われればそれまでだ。
でも自分が一番好きな歌を、好きなコードを、好きな音を、カイトにあげたい。



ただひたすら、ピアノのコードを押さえ続けた。
自分が心地いいと思う音や、背筋をぞくりと震わせるような音を紙に書いていく。
もう何年も使っていないエレクトーンの電源を入れ、胸が躍るリズムを、ドラムパターンを。
コード進行のパターンをいくつか作って、それをただ繰り返すだけ。一小節に一つのコードを当てるだけ。
歌詞なんて、今まで言われて来て嬉しかった言葉のつぎはぎで、ストーリー性とかなんてまるでなくて。
でも、カイトとの思い出の詰まった言葉のつぎはぎで。

「……でき、た」

知らない人が聞けば耳障りだ。カイトにとってもそうかもしれない。
でも、私だけの歌。私の一番好きなものが詰まった歌。
今日ぐらいは、自己満足を許して欲しい。
胸にかき抱くように譜面を持ち、カイトのいる部屋を開けた。

「……待ってました、マスター」



カイトは歌い出した。
たちまち、伸びやかな声が響く。
愛しそうに、味わうように、胸に手を当ててカイトは歌い出した。
ベタ打ちだからカイトの声も拙い。曲だってそう、一言で言うなら耳障り。
でも、私の唇には笑みがこぼれ、目からは雫が滴り落ちた。
買ってよかったなぁ。幸せそうなカイトを見ているとそう思う。

「マスター、ありがとう。僕に歌をくれて」

カイトは歌い終わった後、私に微笑みかけた。
涙でびしょびしょになった私の頬をその手で拭う。

「これからもよろしくお願いします、マスター」

おめでとう、カイト。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい
  • 作者の氏名を表示して下さい

KAITO's birthday!!

兄さんお誕生日おめでとおおおおおおおお!!
ヤマハ式兄さんおめでとおおおおおおおお!!

注:ボカロは現実には持ってません。

閲覧数:235

投稿日:2013/02/14 22:24:52

文字数:1,608文字

カテゴリ:小説

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