空は薄暗くなり、夜空と夕焼けが混ざり合う。
校舎の裏、グラウンドの中心にはキャンプファイヤーの
為の木のやぐらが四角く組み合わされて、その中心や周りには
本年度使われていた文化祭の看板や小道具などが置かれている。
一部の来年以降にも役立ちそうな小道具などは体育館の倉庫に
保管されるが大半の物はこのキャンプファイヤーで
燃やされてしまう。校門に飾られた大きな看板はそれなの中
でも象徴的な物で、火にくべられるのを見守るのは
文化祭のエンディングとしては相応しいのかもしれない。

教師が火を点け、やぐらの中や周りにある
看板、小道具、大道具は次第に赤々と燃える
火の中に溶けてゆく様子をボカロ学園の生徒達が見守り
何となく、センチメンタルな気持ちになる。

グラウンドのトラックに
学年、クラスごとに生徒たちは並び終わると
調子はずれのメガホンスピーカーからは文化祭員会から
感謝の言葉。生徒会長であるメイコも労いのスピーチ。

ここからは最後のイベントである
『学園のキング&クィーンコンテスト』発表と
『フォークダンス』で幕を閉じることになる。

クィーンには昨年に続きミクがダントツの優勝。
壇上で文化祭委員長がミクの頭に小さなティアラを
乗せた。生徒達はまだ、文化祭で活動した格好でいて
ミクも浴衣姿のままであった。キングには今年の
ルーキーであるリンが選ばれた。嫌々そうに
壇上に昇るとメイド服姿でキングというこれまた
いつもと違う感じが面白かったらしく生徒たちは
皆、リンを冷やかした。

キャンプファイヤーを囲み
生徒たちはグラウンドのトラックを輪になって
フォークダンスが始まる。

「フォークダンスなんて、ちょっと古臭いじゃん」

なんて声もたまに聞くが
誰一人として本格的に「辞めよう」とは言わない。
古かろうが、この伝統的なイベントは男子と女子が
公然と手を繋ぐことが許されるのだから。

しかし、災難続きのカイトには、不服であるようだった。

「ちくしょー……、なんだよ!この罰ゲーム!」

カイトは女子と踊る事無く
次々と男子生徒と代わる代わる手を繋ぎ踊っていた。

背の高い男子生徒の宿命なのだが、女子の数が少ない場合
列からはみ出た男子の背の高い者が女子役になるのである。

ごつい、いかつい、男子の手にカイトは
ダンスが始まって早々に、うんざりしていた。

「おや、これはカイト殿、ご機嫌いかがでござる」

聞き覚えのある声の主は先ほどまで一緒にいたガクポ。
ガクポと手を取り踊るカイト。二人とも背が高いので
はたから見ると中々の迫力である。

「う~~、全く……、何だか今日は災難続きだよ」
ガクポにターンさせたれるカイト。

「わははっ!、まったくでござるね。でも……
きっと良い事もあろうかと思いますぞ」

「ほんとかよ……、つ~か、この曲、長いよ」

「我が学園名物のロングリミックスバージョンでござる」

「うえ~~~~~ッ……」

「カイト殿」

「ん~~?」

「正直、うらやましいでござる。なんだかんだで
お主とあの方は……、運命的に繋がってるのでござるね……」

「……何のことだい?」

「―――ほれ、数人先をご覧下され」

「……え」

数人先の男子の列にメイコがいる。
何故、メイコが男子の列に?と疑問が浮かぶと
ガクポが察したようで答えた。

「何故かキヨテル先生が女子役を買って出たのでござる。
こっちとしては大迷惑なのでござるが……、まあ、お祭り
見たいなものなので良しとしたでござる。その穴埋めに
メイコ殿が男子役として急遽入られたワケで」

遥か先だがキヨテル先生が男子と立て続けに踊ってる。
何だか嬉しそうに見えるのは気のせいだろうか?と
カイトは思った。

「なんか、ややこしい」

「全くでござる。しかし得てしてこの世の中、ややこしいこと
ばかりに見えますが、結果的にはシンプルな結果になる―――
事が多いような気がしますぞ……」

「意味、わかんないよ!」

「わはは。つまり、運命なんですな。貴公が女になれば
あの方が男になる……。やっぱり運命なんでござるね。
それがわかって……、拙者はやっと……
あきらめる事が出来たでござるよ」

「……、なあ、ガクポ君、それって……」

「あの方の手を―――
離さないで頂きたい。
大事にして頂きたい。
優しくして頂きたい。
それが拙者のお願いでござる……」

「……」
「カイト殿の想いが伝わると……良いでござるね。でわでわ」

それから数人の男子と踊る間、カイトの耳に
音楽は全く聞こえなかった。

自分の気持ちなんて、本当はとっくに気づいていたのだ。
いつも側にいてくれたのは彼女。
いつもカイトを心配してくれたのも彼女。
照れや、気恥ずかしさもあったが
そしてこの距離感をバカ正直に守っていたのは
自分なのだと気づいたカイト。

(メイコに自分の誠意を伝えたい)

カイトは覚悟を決めた。


ごつくて無骨な手ばかりの感触が
急に柔らかで小さなものに変わった。
聞こえていなかった音が急に耳に流れ込む。

気がつくとメイコがカイトの手を取っていた。
メイコが男役で、カイトが女役である。

「おっす。あべこべだね!」
照れた顔で、カイトに声をかける。

「やあ、ガクポ君から大体の事は聞いたよ」

「ほんと!キヨテル先生には参ちゃう」

カイトが身を屈め、メイコがターンさせる。
柔らかくてほっそりしたメイコの指が離れそうになると
カイトは少しだけ強く手を握り直した。

「―――ねえ、メイコ」

「ん、なあに?」
頭ひとつ分、背の低いメイコが顔を上げる。

「君の事が好きだ」

カイトはメイコに告白をした。








「本っ……当に、お主はバカででござる!」

「め、面目ない……」

校舎の裏、体育館の外壁にカイトとガクポは
しゃがみ込んでいた。
カイトに至っては頭を抱え込こみ、ガクポは何だか
怒ってるようである。

「ムードもタイミングもあったもんじゃないでござる!
拙者は、もっとこう……、あーーーー!!」

頭を掻き毟るガクポ君の怒りはもっともである。

「両思いなのは鉄板で!拙者はかっこ良く引き下がり……
あーーーーー!!。かっこいい事言ったワケで……
あーーーーーー!!、思い出すと至極恥ずかしいでござる!
もういいでござる!切腹する、今ここで!」

「あ、いや……、ほんと、ゴメン……」
本当に切腹はしないだろうが、カイトはペコペコと
頭を下げるよりほか、無かった。

フォークダンスは終わり、片付けも大体終わった。
空はすっかり暗くなり生徒たちは解散したが
まだ文化祭が名残惜しい生徒たちは
それぞれキャンプファイヤーの燃えカスの周りで
おしゃべりしていた。

レンはフォークダンスが気に入ったようで
嫌がるリンを無理やりつき合わせてまだ踊っている。
ちなみに、まだ二人ともメイド服のままだ。

そんな様子を傍目で見つつカイトとガクポは
先ほど唐突にしてしまった
恋の告白の反省会をしているのであった。

あの後、カイトが唐突な告白をした後
メイコは目を丸くして首をかしげ
「あはは、何言ってのさ~……」
なんて笑顔で言っていたが、その動作は明らかに
ギクシャクしていた。

「バカネ、カラカワナイデヨー」
変な口調になったかなと思うと踊りもカクカクと
ロボットダンスのように
なってしまい、明らかに動揺している様子だった。

それを見ていたガクポ。

「なんと!会長自らおどけて、面白ダンスを!
流石会長!最後の最後で盛り上げようとは……。
この余興!我ら運営も付き合わせて頂きますぞ!」

ガクポは腰元にぶら下げていた角笛を思い切り吹いた。

それが、ぶおおおぉぉん~、と鳴り響くと
生徒会、文化祭運営に関わる生徒達が一斉に
ロボットダンスを始めたガクポの方を見て、頷くと
ロボットダンスを真似た。それを見た生徒達が
面白がってどんどん真似をし始めて最後には
全生徒がフォークダンスをロボットダンスに
に変えて踊りだす。

そして、この年の文化祭は伝説となってしまい
数年後も語り継がれることになる。

閉会の声もロボットのようにカクカクした
口調でメイコは宣言して、生徒たちは大爆笑。
本年度の文化祭はこうして幕を閉じた。

「もうヤケでござる!拙者も告白する!」

「いや、あの、こういう事態を招いた身で言うのも
何だけど、ややこしくなるからやめて~……」

「あたりまえでござる!!ふん!!」

クールでいつも優雅な振る舞いを見せていた
ガクポであるが、こういう感情を表に出すことも
あるのだなとカイトは思った。
気分的には落ち込んでるが、どこかすっきりした
部分もあり、後の問題はメイコにどんな顔して
明日は話をすればよいのだろうと考えていた。

「ふん……、少し、すっきりしたでござる。
拙者はここで失礼つかまつるが、カイト殿。
次は―――ヘタを打たないで下され。
ほれ、おぬしの後を見るでござる……」

遥か後でキョロキョロと不安そうな様子で
メイコが誰かを探してる様子が見えた。

「当然、お主を探してるのであろうね……。
ささ、女性をあんなふうに一人にさせるなんて
男子の風上にも置けないでござる。
早く行った方が良い―――」

ガクポが言い終わる前に
カイトはメイコの元に駆け出した。

「全く、拙者が告白してもあんなに不安そうに
拙者を探してくれるのであろうか……?
ちと、悔しいのう……」

ガクポは独り言を言うと、立ち上がり
一人、帰ることにしたのだが、腰に巻いている
メイドエプロンとカチューシャもそのままである事は
自宅に帰るまで気づかなかった。


学園を出て、メイコとカイトは一緒に歩いていた。
高架下を潜り、市街から住宅街に向かうその間
一言も会話がなかった。

街灯は時折点滅しながらも辛うじて自宅に続く道を照らし
近づかず、離れる事も無く二人の
歩く靴の音だけが、お喋りしている。

カイトは突然、歩くのを辞めて、意を決し言葉を発した。

「あ、あの、さっきの……」

「―――、まず、謝って」
メイコの視線は、まっすぐに進む先をみている。

「え?」

「……、謝って」

「……ご、ごめん」

ぷはぁ~、と息を漏らしメイコは半分笑いながら
半分困った顔でやっとカイトの顔を見た。
「んもう、大失態だよ~。まさかあんな事になっちゃうなんて……」
文化祭のラスト、ギクシャクと緊張してしまった事を
反省しているようだ。

「ごめん……」
やっと話してくれた事にカイトは少しホッとして
ポリポリと頭を掻く。
メイコに恥をかかせてしまった事に、申し訳なく思ってる様子だ。

大きく一度、深呼吸をしてメイコが言った。

「もう一回、言って」

「え?」

「……ちゃんと、もう一回……、言って欲しいの。
私、初めてなの。そういう事言われるの。
それに、私、悪い返事はしないと思う……」

街灯に照らされるメイコの顔は
ほんのりと赤く染まっていた。

「あ……、うん。メイコ」
「……」

「君の事が好きです」
少し、カイトの声が震えた。

メイコはこくりと頷く。

「私も大好きだよ」

恥ずかしそうに、メイコは笑顔で応えた。

「そ、そうか!あは、あは、あは……」
カイトの緊張は一気に解け
心の中で花火が打ち上げられたような気分だ。。

「ちょっと!もっとしっかりしてよね!
私の彼氏になるんだったらもっとこう―――」

緊張が解けたのか、興奮しているのか
分からないがメイコはしゃべり続ける。
この調子だと二人のイニシアティブは明らかにメイコに
奪われそうだ。

カイトはうんうんと頷き、メイコのお喋りに
付き合い、今後もこのお喋りに付き合うのかと思うと
手ごわそうではあるのだが―――
それは、とても嬉しい災難ではある。

しゃべり続けるメイコに頷きつつ
カイトが手を差し出すと、メイコは口を閉じ
照れながらゆっくりと手をきゅっと、カイトの指に絡めた。

「ねぇ、明日も……告白してくれる?」
イタズラな表情でメイコは舌を出す。

「この調子だと……、毎日、告白させられそうだ」
半分本気で困った顔をするカイト。

メイコはクスクスと笑い、目尻には涙が滲んでいた。

一緒に帰るこの道が、ずっと続けば良いのになと
カイト、メイコは心から願うのであった。


【おわり】

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

青い草 9話⑦

改訂しました!
トークがちょっと代わってます。


書いてて恥ずかしいわww。
きゃー!

ボカロ学園学校祭編終わりです。

次回は第10話で生徒会選挙編。
グミとミクの対決。

第11話は最終回卒業編で、各登場人物のエピローグ。

閲覧数:258

投稿日:2019/02/05 08:47:48

文字数:5,133文字

カテゴリ:小説

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  • ya-mu

    ya-mu

    ご意見・ご感想

    かゆかゆですねー><
    でもほんと気持ちを表現するのが上手で、少女マンガみてるみたいでした。

    2012/08/10 22:41:54

    • kanpyo

      kanpyo

      いつもありがとうございます!
      今回は長文だったので読んでいただけて嬉しく思います。

      と、いうか……、読み返すと顔が赤くなりますね。ぎゃーー(><;)>

      ガクポが大活躍の回でしたが、一番面白いキャラになっちゃったようです。
      やんなるくらい長くなってきた「青い草」ですが
      もう少しで終わらせることが出来そうなので
      また、お付き合い願いマス!

      2012/08/11 00:00:12

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