8 茜
ある日のこと、母の帰りが遅くなったので私とレンは近所のチェーン店で買ったお弁当を食べていた。この日はめずらしくレンの部屋で一緒にミスティさんの実況動画を見ながら食べていた。
「すげーよなミスティさん、動画投稿して3日で再生数5千超えてるぜ。」
「うん。人気あるよね。レン君はリアルでミスティさんに会ったことあるの?」
「いやーまだない。俺はセシルさん、ジャスティスさん、キリさん、かるでさん、メルさん、あとはお前の知らない他のギルドの人と会ったことはある。」
「そうなんだー。実際のミスティさんってすごい美人そうだよねー。」
「そうかなー?」
「いや、絶対美人だよ。こんな色っぽいしゃべり方する人は美人だよ。」
「そうかー?リアルのほうなんてわかんねーけどなー。」
その時私はターナカさんとmisakiちゃんについて話したことを思い出し、少しムッとした。
「絶対美人だよ!」
「あーわかったよ。もーうるさいなー。」
「misakiちゃんだって絶対かわいいよ!」
「えぇ?何のことだよそれ。」
「あっ、別に・・なんでもない。」
そういえばとふと私は気になっている人を思い出した。茜さんという同じギルドのメンバーがいる。ちょっと子供っぽいとてもかわいらしいキャラクターを使っている人である。
「あのさ、茜さんの使っているキャラってすごいかわいいよね。」
「あーそうかー?」
「私もあんなキャラでゲームしたいなー。今となってはホント今の男キャラやだ。」
「じゃ、変えればいいじゃん。」
「そんなこと言ったってあれだけ苦労して育てたのを捨てられないでしょー。ギルドのみんなも困るだろうし。」
「じゃ、あきらめろ。」
興味なさそうに漫画を読みながらレンは言っている。元はと言えばあんたの余計なお世話のせいだろと私は言いたくなった。しかし、ゲームを始めてから数ヶ月いろいろなことを知ったり情報を手にしてみるとレンの考えはバカにはできない。自分が女性プレーヤーだと言うと態度を変える男の人も多いらしい。リアルで会おうと頻繁に誘われて迷惑をしている女性プレーヤも結構いるみたいで、2ちゃんねるに書き込みがある。しつこく誘ってくるという男性プレーヤーの名前が晒されていた。
「いいもん。サブで茜さんみたいなかわいいキャラ作るんだー。」
「あそう。」
「メインはギルドに貢献してがんばって、サブは好きな装備集めて楽しもーっと。茜さんってもしかして女の人?」
「いや、男だよ。」
「あ・・そうなんだ・・がっかり。」
「キャラ女で中身が男なんて腐るほどいるだろ。」
「ま・・そうだけど。なんか茜さんって見てるとかわいいんだよね。ほら、会議とかしててもあんまり話さないでいつもちょこんって座ってる感じでしょ。なんか見てて和むのよねー。」
「あそう。」
「なんか私よりすごいおとなしいけど、結構歳若い人なのかなー。周りが大人ばっかだとあんまり発言しずらいしね。」
「さー俺らみたいにガキではないと思うけどなー。たまに仕事が忙しいからどうたらこうたら言ってるときもあるよ。」
「じゃ、20歳前後くらい?」
「さーしらね。つーかもう出てけ、今日はもう寝る。」
今度聞いてみようかなーと私は空になったお弁当の容器を片付けながら思った。しかし、なかなか本人に直接聞くことが出来なかった。普段から茜さんはおとなしく、ゲーム以外のことはあまり話さない。ただ何かとギルドの重要なときには必ずいて貢献している。そのいかなるときも、戦いの中でピンチのときも、ギルドで会議のときも、食事に行って放置状態のときも、にこにこと笑っているキャラクターは私にはツボにくるものがあった。
本人には内緒で私は茜さんのスクリーンショットを撮っている。
9 オフ会のお知らせへ続く
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