ミクが家に来てからというもの僕の生活は一変した。あいつ僕の親とすげー仲良くなってやがる……おかげで、食事の葱率が一気に上がった。
僕は葱だけは嫌いなんだよ。ホント勘弁してくれ。
――そしてその夜。
深夜2時。僕はいい気分で寝ていたんだ。それなのに、いきなりあいつがやって来た。
勢いよくドアを開けるもんだから、僕はその音で目が覚めた。
「やあ! 眠れない夜には子守唄なんかどうだい?」
無視だ、無視。
「おやぁ? あんな所にネズミが」
「な、何だと!!」
「やっぱり起きてるじゃないか。狸寝入りとは何事か」
こいつ、僕がネズミ嫌いなの親から聞いたな。
「お前のせいで目が覚めたんだ。いいから寝かせてくれ」
僕は再び布団に潜った。
「ほう、眠れないようだな」
だから、今起こされたんだっつーの。
「私が子守唄を歌ってあげよう! このミク様の美声が聴けるなんて君は幸せ者だな!」
そう言うとミクは歌い始めた。
下手じゃないけど……まぁまぁ、いい声だけど……おい、その歌は何だ。
「おい! 子守唄って言ってただろ! 何だその歌は!」
「演歌を知らんのか」
「いやだから、寝る時に何で演歌聴くんだよ? おかしいだろ!」
「おかしいものか、君は演歌の良さを知らないんだな? 日本人として失格だぞ」
ああもう、無視だ無視。
「おい、また狸寝入りか」
「ぐーぐー」
……いびきしたふりでもまだ疑うか?
「へったくそな寝たふりだな。ネギは演技力ゼロだな」
余計なお世話だ!
「じゃあ、お次はこれで」
また歌いだした……って、これ。
「何でヘビメタなんだよ! おかしいだろ!」
「うむ。ちょっとテンポが速かったかな。やっぱり演歌の方が……」
「ちっげーよ! っていうか、寝るの邪魔すんなよ! 安眠妨害だろ!」
「君は人の親切を無駄にするのか」
「そういうの親切の押し売りって言うんだよ! 睡眠不足になったらお前のせいだ!」
そう言った直後、またあのネギバトンが僕の頭を直撃した。
「ってぇな!! 何すんだよ!!」
「この大馬鹿者が! 言うに事欠いて何て事を……!」
「事実を述べただけだろ!」
「もういい。君は色々覚えておくといいよ。ふふ……」
な、何だよ? 嫌な笑いだな……!
とりあえずミクは諦めたのかその後部屋を出て行った。つーかもう3時じゃないか。今日も朝からバイトだってのに。
――朝、僕は気持ちよく目が覚めた。
いや、ちょっと待てよ……?
あんなに遅く寝たのに何だかやけに目覚めがすっきりしてる。
恐る恐る携帯を開く。そこには何も映っていない。待ち受け画像が表示されてないという事は電源が切れているという事。何でだ? 電源切った覚えは無いぞ?
良く見たら充電器のコンセントが抜けている。昨夜は電池残量がギリギリだったのに。
という事は――だ。
壁の時計に目をやる。そこにはとんでもない数字があった。
「11時25分……だとぉぉぉ!?」
バイトは朝9時から。完全に遅刻じゃないか……!
携帯の充電器をもう一度ちゃんと差し込み電源を入れる。そこには着信の文字が。バイト先からだ。
「ああああ……怒られる……」
そうか、あいつの言ってた覚えてろってこの事か……くそお。
僕は諦めてバイト先に電話した。
「もしもし、根木です。すみません寝坊しちゃって」
『ちょっと困るわよ。人手不足でめっちゃ忙しいんだから! 早く来てよね』
「あああ、すみません! すぐ行きますから!」
先輩が僕のいない分仕事してくれてたんだ……早く行ってちゃんと謝らなきゃ!!
僕はいつものバイト先の飲食店に向かった。
そこには――
「お、おい何でいるんだよ……」
「やぁ!」
ミクがいた。
「ちょっと、根木君、遅いじゃないの! 今日からこの子がバイトに入ってくれたから助かったけど、次からは気をつけてよ」
「す、すみません……っていうか、その子」
「ああ、初音さんよ。すごく物覚えが良くて助かるわ~」
ミクは僕のほうを向いてあっかんべーをする。こ、このやろぉ。
――そんな訳でバイト先にまでミクが来やがった。どこまで付きまとうつもりだよ。
家に着いても落ち着く暇が無い。何歌ってんだミクは。葱の歌? まったく作詞のセンス最悪だな。
「おいミク」
「何だ」
「お前いくらなんでもやりすぎじゃないのか? 僕になんか恨みでもあるのか?」
「嫌だなぁ。そんなの無いよ。ただちょーっと驚かせてやろうという、おちゃめ心だよ」
「そんなものはいらん」
まったく……こいつが来てからろくな事がないじゃないか。
「あ、そうだネギ、言い忘れてたんだが」
「何だよ……」
「明日妹と弟が来るからよろしくな」
「はぁ!?」
ちょっと待て。これ以上こんなのが増えるのは困る……だいたい妹と弟って何だ。そいつらも魔法使いとか言うのか?
「みかんとバナナ用意しとけよネギ」
「何で……」
「あいつらの好物だ。いやー久しぶりに会えるのが嬉しくてな。あいつらいい奴なんだよ」
ミクに比べれば誰だっていいやつだろうよ。
「じゃ、私は疲れたから今日は寝る。ネギも遅くならんうちに寝るんだぞ」
「お前に言われたくないわ!」
ミクがやっと僕の部屋から出て行った。
しかし妹と弟って……どんな奴らだよ……?
そんな訳で、次の日。
今日はミクの妹と弟が来るらしいが……ったく、冗談じゃない。これ以上迷惑かけられてたまるもんか!
僕は朝からイライラが溜まっていた。
だけどバイトから帰る途中、天使を見たんだ。
家の近くの公園の前を通った時、一人の少女が歌を歌っていた。何て可愛らしい……天使の歌声とはこの事か。
彼女は僕に気づくと歌うのを止めてしまった。ああ、もっと聴きたかったのに!
僕は我慢出来ず彼女に話しかけた。
「ごめんね。邪魔しちゃったかな。すごく綺麗な声だね」
「あ、あの……ありがとうございます……」
「もっと聴きたいな。君この辺の子?」
「いえ、今日来たばかりで……」
「引っ越してきたの?」
「お姉ちゃんに呼ばれて……」
その時僕は思ったんだ、今日来る子がこんな子だったらいいなって。
ん? お姉ちゃん?
「まさか君のお姉ちゃんの名前ミクじゃないよね?」
「ミクお姉ちゃんを知ってるんですか?」
こ、これは……!!
「君、あの魔女っ子の妹さん?」
「は、はい。リンです。ミクお姉ちゃんに今日からこっちに住めって言われました」
おおおおおおおお!!
こんな事があるのか……!!
目の前の天使があの極悪非道娘の妹だと!?
しかし、似てない。見た目も性格も。
「まあいいや、家まで案内するよ。僕の家にミクがいるからさ。あれ、そういえばあいつ今日はバイト来なかったな」
そんな事を思いながら家に到着した。玄関の前で僕達を待っていたかのようにミクが出迎えた。
「やあネギ。妹を連れてきてくれたんだな。っていうか良くわかったな」
「偶然だよ……お前とはぜんぜん似てないのな」
「何を言う。そっくりではないか!」
「そーか……?」
しかし……このリンちゃんって子は本当に可愛い。
まるで天使のようだ。さっきの歌声もまた聴きたいな。
「あの、ネギさん」
「何だい?」
リンちゃんが僕を見てもじもじしてる。
うぐぐ……何て可愛さだ。
「えっと、ネギさんの事はネギさんってお呼びした方がいいですか? 苗字なのでご家族の方と紛らわしいかもしれないと思ったのですが……」
「お、お兄ちゃんって呼んでくれないかな?」
「お兄ちゃん……ですか?」
「おう!」
リンちゃんは満面の笑みで言った。
「わかりました。お兄ちゃん」
ああああああ、やばいやばい、可愛すぎるだろ……!!
「おいネギ」
「何だミク」
「私の時とは随分態度が違うんじゃないか? 何だそのにやけた顔は」
「それはお前に原因があるんだろ……もっとこう、女の子らしくしろよ」
「この私の魅力がわからんとは君はアホだな」
「うるせー」
あれ? そういえばリンちゃんは無事来れたからいいけど、弟の方はまだ来てないみたいだな?
「なあミク、お前の弟はまだ来てないのか?」
「ああ、レンか。あいつならもうすぐ来るはずだな」
「レンって言うのか。リンちゃんと名前似てるんだな」
リンちゃんがこちらを見て言った。
「双子なんです」
「ああ、なるほどね」
その時だった。ドアが勢い良く開いた。そういえば鍵かけるの忘れてたな。
「姉貴!」
「おお、レンか、遅いぞ」
「だってよぉ、リンとはぐれて……って、リン!?」
「あ、レンくん。ごめんね、先に来ちゃった」
「な、何だよ……すっごい探したんだぞ!」
この子がレンか。確かにリンちゃんに似てる……けど、何か生意気そうなガキだな。
「……あんたがネギか?」
「へっ? あ、ああそうだけど。君がレンか。リンちゃんに似てるな」
「おい、人の事呼び捨てにすんな」
「いや、だって君も僕の事ネギって」
「下の名前気安く呼び捨てにすんな! オレだってあんたを名前で呼んでないだろ」
「えーと……じゃあ何て呼べばいいんだよ……?」
「レン様」
「あほか! レン君でいいだろ!」
「仕方ねーな。それで許してやるよ」
こ、このガキ……リンちゃんの弟とは思えないな。
しかし、まさかこの二人まで一緒に住むとか言うんじゃないよな?
……いや、でもさっきリンちゃんがそんな事を言ってたような。
「お兄ちゃん」
「ん、何だいリンちゃん」
「こんなにいきなり押しかけてすみません。わたし、ちゃんとお家のお手伝いとかしますね。これでもお料理は得意なんです」
リンちゃんの笑顔が眩しい。可愛いよぉ。
ん? 何だか嫌な視線を感じるんだが。
「おい、てめぇ」
「な、何だレン君……怖い顔して」
「オレのリンに変な事したら殺すからな」
「な!? 物騒な事言うな! つーか、変な事なんてしないって!」
「ホントか……?」
こ、こえぇぇ。何だこのガキは。シスコンか? そうか。そうなんだな。
「レンくん、だめ! お兄ちゃんにそんな事言わないで!」
「リン……でもこいつリンの事にやけた顔で見てやがったんだぞ? 危ないじゃないか」
「お兄ちゃんはいい人だよ。だから仲良くして」
リンちゃんがレン君をじっと見つめると、さっきまで怒ってたレン君の怒りが治まったようだ。やっぱりリンちゃんは天使だな。
そんな訳で、ミクの妹と弟が一緒に住む事になった。相変わらずミクの不思議な力でうちの両親はすっかり丸め込まれてる。
でもいいや。僕は天使を見つけたんだ。リンちゃんの顔見るだけですごい癒されるなぁ。
つづく
魔法のシンガー♪ネギっ子ミク 第二話 「黄色コンビがやってきた!」
という訳で2話です。
かなり間が開いちゃいました;;
すぐ投稿するつもりだったのに><
相変わらずミクさんが腹黒ですみません!!
この作品では、あえて私が普段キャラに抱いているのとは全然違うイメージで書いてます。
つまりミクさんは天使→腹黒キャラになってしまったというね…!
愛情の裏返しです。ごめんなさい~!
元気なリンちゃんは大人しい子に、ショタキャラ認定されがちなレンくんは俺様キャラにという感じで!
とりあえず、次の話はもう出来てるので近日中に投稿したいと思います!
コメント4
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ブクマつながり
もっと見る今日は両親の結婚記念日で、2人ともレストランに出かけてしまった。
だから食事の支度はリンちゃんがしてくれるという話になったんだけど……目の前に並べられた見た事も無い様なごちそうの数々に僕は目が丸くなった。
これ、全部リンちゃんが作ったのか!?
「お兄ちゃん、ごめんなさい。張り切って作りすぎちゃ...魔法のシンガー♪ネギっ子ミク 第三話 「リンの手料理」
ぎんこ
僕と王子、ミクとレン君の4人で早速王子の家に来た。
だが中に入ると突然驚かされる。
何だこれは……!?
廊下の壁に大きな穴が開いている。しかも中はまるで光が乱反射してるようにユラユラして見える。
「あの、王子。それは……?」
「ああ、これかい? 魔法の国に繋がっているんだけど、ボク以外は通れ...魔法のシンガー♪ネギっ子ミク 第十話 「メイコの思惑・後編」
ぎんこ
バイトに行っても、あれ以来ミクが来る事はなかった。
先輩に聞いても「そんな子知らない」って言われたじゃないか。
あの時のミクの行動は何だったんだ!
そんな事を考えながらバイトから帰ると、家の前に若い女性が立っていた。
ロングヘアで、かなりの美人。スタイルもめちゃめちゃいいその人は、何故か...魔法のシンガー♪ネギっ子ミク 第四話 「ゴスロリ美人にご用心」
ぎんこ
メイコさんが家に来て1週間が経った。
彼女は一言で言うと頼りがいのあるお姉さんって感じで、サバサバしてて話しやすい。
そして懸念していた問題点も何も無い。
ミクやレン君、ルカさんがああだから今回も僕はすぐには気を許さなかった。
だけど蓋を開けたら本当に良く出来た人で逆にびっくりしたよ。
...魔法のシンガー♪ネギっ子ミク 第六話 「リンの想い人」
ぎんこ
最近どうにも家の中が騒がしい気がする。
いや、ミク達が来てから人数が多いのは確かなんだが、それ以上に人がいる気配がするんだ。
怪しいのはミクの部屋なんだが、ここにはリンちゃんもいる以上勝手に中に入るのも気が引ける。
しかし今日はミク達の部屋がいつになく騒がしい。
気になる……すっごい気にな...魔法のシンガー♪ネギっ子ミク 第八話 「ルカの失敗」
ぎんこ
メイコさんを部屋に送り届けて自分の部屋に戻る途中、レン君の部屋から拍手が聞こえた。
楽しそうな話し声も聞こえる。
そういえばリンちゃん、朝からずっとレン君の部屋に行ったままだな。
何してるんだ……?
部屋のドアをノックしてみる。
「はーい」
出て来たのはリンちゃんだ。
「あれ? お兄ちゃ...魔法のシンガー♪ネギっ子ミク 第九話 「メイコの思惑・前編」
ぎんこ
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ご意見・ご感想
nai☆
ご意見・ご感想
今回も楽しく読ませていただきましたw
ネギ君、ドンマイ! 俺らが楽しく読んでいるから、引き続き耐えてくれw
お、双子の登場ですか。いつも描くレンとちょっと違う!?雰囲気で、きっとぎんこさんは、
。゜(゜>ヮ<゜)゜。ノシ 彡★バンバン★
と机を叩きながら、身悶えして書いているに違いない! ←
リンは清楚な天使で、ようやくネギ君にも心の癒しが…って、いやいや、ぎんこさんのことだから、リンにも何か裏があるような気がしないでもありませんw
2011/04/06 21:29:09
ぎんこ
>nai☆さん
読んで下さりありがとうございます!!
楽しんでいただけたようで嬉しいです(*´▽`*)
ネギ君の苦難はまだまだ続きそうですww
身悶えして書いて……?wwww
いやーん(ノ´∀`*)
レンくんは、私が本能の赴くままに書くとめちゃくちゃショタキャラになるので、ここはぐっと我慢して俺様キャラにしてみました!w
大丈夫です!
リンちゃんは天使!
……のつもりで書いて行こうと今の所は思ってます。
今の所はw
嬉しい感想をありがとうございました♪
2011/04/06 23:03:44
NAV
ご意見・ご感想
前半は歌詞2番の展開ですね。
レン君は『ずっと傍に』とは正反対なキャラで
今後それぞれがどうなっていくか楽しみですね。
2011/04/05 00:14:28
ぎんこ
>NAVさん
読んで下さりありがとうございます♪
2番の歌詞部分が最初はまんま2話だったのですが、リンレンの登場を早めたかったので3話もくっつけちゃいましたw
レンくんは自分の中のレンくん像とは真逆な感じで書いてますー
ずっと傍にのレンくんは、「こういう感じだったらいいなぁ!」という理想ですw
楽しみにしていただけると励みになります!
ありがとうございます(*´▽`*)
2011/04/05 21:04:58
enarin
ご意見・ご感想
今晩は! 第2話、お待ちしておりました♪
いやー、リンちゃんマジ天使!! しかも主役を”お兄ちゃん”!!!!!!
*** 暫しお待ちを ***
ふぅ、危なかった・・・。いやー、極悪ミクさんに下克上レン君だったので、リンちゃんが本当に天使に見えました! でも、しっかりした”キャラ分け”がされているので、凄く読みやすかったです。というか、一気に読んでしまいました!
これからのお話がとても楽しみです! blogとかの情報からすると、既に第3話は出来ているとのことで、公開が楽しみです!
ではでは~♪
2011/04/03 19:53:53
ぎんこ
>enarinさん
今回も読んで下さりありがとうございます!
リンちゃんは描いてる自分でも可愛いなぁと思ってます(*´▽`*)
お兄ちゃんって言われたらきっと男性は嬉しいだろうなぁと!!
ミクさんとレンくんはかなり黒いですけど、今後も主人公を悩ませると思います><
次回も楽しんでいただけると嬉しいです?♪
3話もちょこっと手直ししたら投稿したいと思います!
ではでは?
2011/04/04 19:44:23
是久楽 旧HidetoCMk2
ご意見・ご感想
第二話キタ━━━(゜∀゜)━━━!!
面白くって、思わず一気に読んでしまった
ミクさん相変わらず腹黒いwww
これからリンちゃんとレン君が、どんな風に話しにからんでくるのか・・・
楽しみにお待ちしております♪
2011/04/03 16:45:22
ぎんこ
>HidetoCMk2さん
読んで下さりありがとうございます!
面白いと言っていただけるとすっごく励みになります(*´▽`*)
ミクさんの腹黒は相変わらずですww
リンちゃんとレンくんは次回もいっぱい出てきます?♪
次回も楽しんでいただけると嬉しいです(*´▽`*)
2011/04/04 19:39:30