マスターは、私に優しくしてくれた。

キクという可愛い名前をくれた。

大好きだった。


寝付けない私のために、彼はいつもホットミルクを作ってくれた。

コップに注がれた暖かなホットミルクはとてもおいしかった。

彼は喜ぶ私を見て、よく笑っていた。

その笑顔が大好きだった。


歌を上手く歌えない私を責めることなく、彼はいつも応援してくれたね。

その言葉がすごく嬉しかったんだ。


そんな、ある日。

私を連れて、マスターは公園を訪れた。

途中、商店街にいたお兄さんが私に風船をくれてね、すっごく嬉しかったの。

でも公園に来たとき、風船が割れちゃった。

そのとき、風船のなかからね、小さなICチップが出てきてね。

それがきれいな歌を歌ってくれたの。

すごくきれいな歌だった。

今でも忘れられない…。


その日から、一生懸命がんばって歌を歌おうと思ったの。

マスターの笑顔が見たかったの。

マスターのことが大好きで、大好きで、大好きでしかたないから。

それを伝えるすべがわからないから、私は歌うことにしたの。


でも―。

ある晩突然、マスターは泣き始めた。

好きだった人にフラれたんだって。

「かのじょのココロがどこにあるのか、わからない」

そんなことを言っていた。

…………なんだか、よくわからなくなった。


私はマスターのことが好きなの。大好きなの。

でもね、これがなんなのか、わからなくなっちゃった。

ボーカロイドに「こころ」なんてないって。

機械に「こころ」は宿らないって。

そんなことを、テレビで偉い人が言ってたから。

じゃあ、私の思いはなに?

マスターを愛するようなシステムが組まれているからって。

だから、ボーカロイドは人に疑似恋愛をするんだって。

ねぇ、教えてよ。

私の胸にある、「好き」って気持ちは偽物なの?



それ■ら わたしは わか■なくなった。

ぜんぶ ぜ■ぶ ■■ぶ わか■ない。

わから■いから ぜ■ぶ きょぜ■することに■た。

きょ◆つしたら まっかな せか● から ぬけだ▲る きが■た

ぜ■ぶ しらな■

■んぶ みえ■い

ぜ■■ わから■■




さいご に きれいな あの おんがく が きこえる の

い ま なら わか る よ

あ   の きょ   く  の   な ま   え  


「                          」





               ま


            す

                 た

            ー



             ご

                   め

            ん


               な


      
                  さ


           い

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

優しい傷跡 第16話「記憶」

【登場人物】
呪音キク

【コメ】
イメージ的には、ひぐらしの「you」かな。

最後は、キクの内側が崩壊していく、といった感じです。
この物語で、一番の被害者なのはキクかもしれません。

閲覧数:991

投稿日:2008/12/03 15:24:00

文字数:1,225文字

カテゴリ:小説

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