一応閲覧注意
『Pとはプロデューサー、ボカロ曲に関わる制作人のこと。
ボカロとはボーカロイド、歌う電子の歌姫』
「……記事が甘い!」
「いたっ!」
頑張って書いた今話題のボカロ特集記事。その記事は今、編集長の手によって丸められ、ハリセンとなって僕の頭を叩いた。
「僕はボカロという言葉すら知らないのに…」
「知らないからこそ見えるものがあるってことでしょ?さぁ、私のために頑張りなさい!」
「……」
いわゆるジト目というやつで、僕は編集長を見つめた。
「不満なら、今話題の呪いのボカロ曲について調べて記事を書きなさい!」
「無理無理無理無理絶対無理です!怖いのは…苦手です……」
「実質私よりも年上の男が何言ってんの!さぁ、調査よ!」
「…はぁい」
断れる雰囲気でなはい、そもそも僕にはノーといる勇気がない。
「でも、編集長も一緒に…」
「嫌よ。その曲最後まで聞いたら死ぬんですって。あたしまだ死にたくないから、よっろしくー☆」
「ええー!」
なんだか最後に重要なことを言われた。
けれどもこれも仕事なのだと、家に帰り半泣きでその曲を検索した。
「えっと…へー、作詞作曲絵動画全てPって人なんだ。作品名はnotitleか」
静かな自室にカチカチという検索音が響く。
「あ、見つけちゃった…」
それは以外にも、あっさりと見つかった。
聞いたら死ぬって言われて、クリックしたくはないけれど…。
「11分12秒!?ボカロ曲ってこんな長いものなの!?……でも…取材のため…えい!」
ヘッドフォンを装着して、再生をクリック。
『…………』
「…なにこれ…無音?」
その曲には歌といえるものがない、ただ静かというか狂気的というか、そんな感じのイラストと曲が延々と流れている。
『…………』
「でも…この後ろの音楽自体が何かの声に聞こえるような…」
『………て』
「ん?なんか…聞こえたような……嫌だけど、超最大音量!」
『…………』
そもそもこういう音楽は苦手だ。なんというか…鬱になるというか、気分が不安定になるというか、不安を誘い込むというか……。
『………さい』
「あ、やっぱり小さな声が……」
『…すけて、助けて』
「え?」
『嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ』
それはまるで人のようにも聞こえた。
『ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい』
小さな声、かなりの大音量じゃないと聞こえない。
『ごめんなさいいい子にするから殴らないでください怖いのは痛いのは嫌なんですごめんなさいごめんなさい』
そのせいか、周りの狂気的な音楽が大きくなる。
『嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ!助けてよ!』
こんなのは曲じゃない、ただの子供が殴られているような、悲痛な叫び声。
『ああああぁぁああああああぁあああ!!』
怖いのに、体が動かない、手が動かない、ヘッドフォンが取れない、どうしよう、死にた
プルルルルルルルルル!!
大音量で響き渡る電話の音、それに反応したカラダは一瞬動き、その隙に再生を止めた。
「……うぇっ…」
何とも言えない絶望感、哀しみ、苦しみ、でも誰も助けてくれなくて、死にたくなる。
『おーい、生きてるかーい?』
気持ち悪いのを押し込めて電話に出ると、あっけらかんとした陽気な声……。
「いや…無理です……すみません」
『は?』
そこで僕の意識は途切れた。
……しばらくして、目が覚めたら知らないビルの屋上。頭がボーっとする。
そんな時、編集長からの連絡が来た。
『あ、もしもし?大丈夫?いや、その曲がボカロ代表じゃないからね。戻っておいで、次はいい曲聴かせるからさ』
「……編集長…僕、わかりました。アノ曲は…人の精神をゆさぶり鬱にさせ死へと導く。僕は元々弱い人間だから…でもあの子は?」
『あの子?』
「声が…聞こえたんです。女の子の。あれは…実際に殴られている子供の音源を、初音ミクにカバーさせているのではないでしょうか?忠実に、人のように」
『私はさ、ボカロが好きなんだよね。ミクとかリンとかレンとかさ。だから、ボカロ曲が原因で人が死ぬとか、馬鹿な奴がボカロのせいだとかボカロ撲滅とかいってイラッとくるんだよね。だから、この謎を解きたい』
「…もしも本当のことならば、11分12秒は、時間か日付だと思うんです」
『ふむふむ…』
「あの歌が頭から離れない……あの子が…泣いてる……でも僕は助けられない、ごめんなさい」
歌が…聞こえる。これは…notitleだ。
数日後。
彼は死んだ。彼が最後に握りしてめいたスマホの画面は、notitle。
「本当にこの曲で死んじゃうのね。このノーテンキな性格のせいか、その女の子の声つーのは補聴器には聞き取れない周波数なのか、どちらにしろ、私は聞いてもなんともなかったんだけどね」、
スマホの未送信のメール画面はびっしりとごめんなさいの文字だけが綴られている。
「ま、死んじゃったものは仕方ないか。今回はだいぶ情報が集まって一歩前進だし」
私は大きく深呼吸して、背を伸ばした。
「さーってと、次は誰にこの曲を取材させようかな?」
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