カイトの手は、大きくて長い。

横目に妹たちと戯れる年近い弟を見て思った。

子供の頃はまだ小さくて、私が手を引っ張ってあげていた。
転んで泣いたら、背負って家まで帰って。
小さくて、泣き虫で(それは今も変わらないけど)、いつも私が面倒を見てあげていた。
成長期になると、早くに身長が伸び出したのも私で、得意になってはしゃいだりした。
13歳ごろから、カイトも身長が伸び出して、おいつかれていく背に、もっともっとと牛乳を飲んだり。
でもその頃にはもう私の成長期は終わりに近づいてて、結局カイトに背を越されたのを覚えている。
くやしくてくやしくて、数週間はカイトを睨んでいたかもしれない。
でも本当は知ってた。
女は男に勝てない。
男はでかくなっていくものなんだって。
女の私は越されて、男のカイトはでかくなっていく。
これは自然なことなんだってしってた。
知ってても。くやしくて、たまらなかったんだ。
丸みを帯びていた顔も、だんだんと骨格がしっかりしてきて。
ああ、もう昔みたいにはならないんだ、なんて頭のどこかで思った。
私の胸も大きくなっていって。
ざまざまと現実を見せられていく。
私はもしかしたら、カイトに憧れていたのかもしれない。
男として生まれてきたカイトに、嫉妬していたのかもしれない。

男なら大きくなれる。
男なら力も強くなれる。
男なら、大好きな子を守れる。

男なら男なら男なら。

いつも守ってあげてるのは私なのに、カイトはそれになれて、私は"それ"になれない。

それでも私は守られてばかりじゃ嫌だから、頑張って背伸びして、カイトの頭を撫でてあげる。

"私がお姉ちゃんよ、だから私に頼ってね"

そういう想いを籠めていたのだと思う。

ある日、カイトが手を合わせて来た時があった。

『めーちゃんの手、小さいね』

ちょっと笑って言うカイトに、何故か私は手から目が離せなかった。
カイトの手は、筋張っていて、大きくて、温かかった。
いいな、と思うよりも先に、何故か鼓動が速くなったんだ。
ドキン、ドキン、ドキン、

『女と、男だもの、あたりまえじゃない。』

そっかー、と言いながら手を離したカイトだけれども、その瞬間、詰めていた息を吐きだした私に、今でも気づいていなければ良いと思う。

ドキン、ドキン、

ドキン、ドキン、ドキン、

繰り返すこの鼓動を、気づいてなければいいと、思う。
頬の赤らみを隠すようにうつむいた。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

手のひらから始まる。

たとえばこんな恋模様。
これ以上はちょっと書ける気がしなかったので強制終了。

閲覧数:94

投稿日:2010/08/25 03:01:44

文字数:1,026文字

カテゴリ:小説

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