「お疲れ様でしたー」

店長たちに声をかけて、ラーメン屋の裏口から出ていく。もくもくと夜空に上がる湯気から、煮詰めたスープのにおいがかすかにした。
いつものように、裏の駐車場を抜けて帰ろうとしていると、車止めに座っていたらしい人影が立ち上がって、こちらに歩いてきた。

「しーしょおっ」

弾んだ声で私を呼びながら、豪奢な黒づくめの少女が手を軽く上げて振ってくる。
いや、一応相手の方が一つ年上なのだけれど、背が低いのと人形みたいに顔が愛らしいのとで、つい少女と呼びたくなるのだ。レースとフリルを非日常一歩手前まで使った、ドレスのような衣服が良く似合っている。
そして、もう片方の手に提げた紙袋がひどく浮いている。今朝、私が持ち出したやつだ。

「何か問題でもありました?」

紙袋をさして聞いてみる。

「ううん、まだ合わせてないんだけど、師匠が作ったんだから大丈夫だと思う。そっちじゃなくてさ……」
「ああ、また終電逃したんですか」
「えへ」
「かわいこぶらなくてもシャワーくらい貸しますよ。いつも通り布団はないですけどね」
「わーい、ありがとー。お礼にちゃーんと朝ご飯、用意するからね」
「それはどうも。うち今食材ないですから、買い物行かないとですね」

言いながら足の向きを変えて、24時間スーパーへと向かう。

「えー、またー? もう、師匠はちゃんと食べなきゃだめだよっ」
「……それ作るのにほぼ不眠不休だったおかげですけど」
「あー、……ゴメンナサイ……」
「慣れましたよ、もう」
「でもでも本当に助かったんだよ? おかげで無事アイスも間に合ったし」

アイス?

「あ」

忘れていた。
部屋の片隅に置いた段ボールのことも。
その中にアイスを入れていないことも。

「あー……」

思わず頭をかいてしまう。

本当に、すっかり忘れていた。
バイトの前に一度帰って食べさせるつもりだったのに、最後の講義が長引いて、そのままバイトに行かざるを得なかったんだ。

「ん? どうかした?」
「その……もしかしたら、うち、今やかましいかもしれないんですが」
「別に気にしないけど、何かあるの?」
「ええ、ちょっと。歌とアイスが好きな小さい寂しがりが」
「なぁに、それ。前半まるでKAITOじゃない」

まるでKAITOなんです、はい。



買い物をして帰る道々、私は少女に事の経緯を説明した。
少女は驚いたり呆れたり苦笑したりと忙しかったけれど、全部を説明し終わると真剣な顔になっていた。
こう見えて、少女は非常に頭が切れる。気難し屋の教授でさえ、彼女の知能を認めて、可愛がっているというくらいだ。こんなばかばかしい話でも、彼女は私が気づかないような点を拾い上げて目を開かせてくれる。
その少女が、口を開いた。

「何でその種、私のところに来なかったのかしら」

……急に買い物袋がずしっと重くなった気がするんですけど。
半眼になった私の様子も素知らぬ顔で、少女は小首を傾げ尋ねてくる。

「ねーえー、どうやって手に入れたのー?」
「知りませんよ。私だっていつ手に入れて植えたのか、よく覚えちゃいないんですから」

むしろ、私の方が知りたいくらいだった。
一応種KAITOのことを調べた時に、『配布所』とされているウェブページは見つけたけれど、どうもネタっぽかったし。
本当に、どうやってあの種KAITOが私の前に現れたのか、よくわからない。
わかるのは――

「まあ、生えちゃったものはしょうがないですし。責任とって、面倒見るしかないってだけですよ」
「おお、師匠かぁっこいー。でも生き物苦手なんじゃなかったっけ」
「……善処します」

答えたところで、アパートに着いた。
ああ、やっぱり。見事に予想通り。

「すみません、先に片づけてきます。二重の意味で」
「はーい、終わったら携帯鳴らしてねー」

かすかに、でもはっきりと、末代まで祟られそうな声が響いている中を、私は全速力で自分の部屋まで駆けて行った。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい
  • 作者の氏名を表示して下さい

【亜種注意】やってしまいました5【KAITOの種】

土下座がめり込むくらいごめんなさい。いやむしろめり込ませてください。
言い訳はなくはないですが潔くないのでやめます。
本当に待ってくださった方には感謝と謝罪が尽きません。
しかも肝心の本文、間が空いたせいで書き方忘れてるって言うね……!
すみませんすみません次回はもうちょっと早くできるよう頑張ります。

新キャラ登場です。詳細書いてませんが常にゴスロリ風です。名前はまだありません<おい
いや、「師匠」も実は名前ないので……なぜ師匠なのかは今後わかります(予定)。


ウェブページのモデルになっていただくつもりの本家様
http://piapro.jp/content/aa6z5yee9omge6m2

感想なかなか書きに行けないけど、よその種KAITOも全部読んでますよ!


7/12追記 ごめんなさい、別コラボのためにちょっと停滞しそうです……
必ず書きあげますので、忘れたころに更新するとでも考えていただければ幸いです。
すみません、ホントに。

閲覧数:307

投稿日:2009/06/01 03:06:49

文字数:1,658文字

カテゴリ:小説

  • コメント3

  • 関連動画0

  • ちはれ(花見酒P)

    ちはれ(花見酒P)

    ご意見・ご感想

    お返事遅くなってごめんなさい。あちこち手を出してバタバタしています。ふう。


    >霜降り五葉さん

    彼女は正直、書ききれるか不安になるくらい頭がいいです(汗)
    今後いろいろ役に立ってもらう予定です。
    師匠の設定は後一つ二つしか出ない、はずです。

    現在師匠は泣声を素早く止めることしか考えていません。
    躊躇するところを「ご近所迷惑だから!」って駆り立ててる感じです。たぶん。



    >モカ氷さん

    バイト先は私が以前働いていたところと同じにしましたw
    双ダイトが寂しがりなのは、他の種KAITOには当たり前にあるものが欠けているせいなのですが……秘密ですv
    あと今回はお腹がすいているせいもあるかと。

    師匠をぺちぺちしていたくらい人見知りはしない方なので、大丈夫じゃないかなぁとは思っていますが、どうでしょうね。


    応援ありがとうございます。
    更新早めに……! 目指してはいます、すみません。

    2009/06/05 16:48:50

  • モカ氷

    モカ氷

    ご意見・ご感想

    こんにちは。

    マスター、ラーメン屋さんで働いてたんですねw
    どんどん世界の輪が広がってどんどん面白くなっていきますね!
    それにしても双ダイト君が寂しがり屋なのは最初マスターが怯えてしまったからなんでしょうか。


    この先知らない人が家に来たことで双ダイト君は大丈夫なのか・・・
    次回も楽しみです!



    2009/06/02 15:14:19

  • 霜降り五葉

    霜降り五葉

    ご意見・ご感想

    マスターの設定が刻々と明らかに…!
    お友達さんまで出てきて、これは今後に期待ですね!
    書いてある通りお友達さん凄く頭が良さそうで、勘も鋭そうです。何も言わずに察してくれる人って中々いないですよね。
    あー…自分もマスターの設定考えなきゃなぁ……。

    …………自分ならドアを開けるのにかなりの時間を要しそうです…。
    心配なんだけど、自分のしてしまった事の大きさに怯えてしまいそうです;
    マスター頑張って!!

    2009/06/01 07:03:45

オススメ作品

クリップボードにコピーしました