居酒屋「たまかね」の席は、ほぼ満席だ。あちこちで、声高に話す声、談笑する声がさざめいている。
その、ちょっと奥まった場所のテーブルに陣取っている一団。
「キステン」の、スタッフとメンバーの打ち上げの飲み会が、行われていた。
さっきまで、大勢の観客の歓声で、にぎわっていたライブハウス「マルクト」、
そのライブの中でも、いちばんの大盛り上がりを見せたバンド...。
それが「キステン」だった。
バンドのベース担当の、りえちゃん、そしてキーボード担当のしいちゃんが、
テーブルの真ん中で、スタッフと楽しそうに会話をしている。
2人とも、なかなかの飲みっぷりだ。
そのテーブルから少し離れた席に、2人の女の子が座って、
小さな声で、話しをしている。
「キステン」の残るメンバーの、みおちゃんが話している相手は、リンちゃんだった。
●打ち上げ会で、相談
さきほどまで、ライブハウスで行われていた演奏は、大成功だった。
みおちゃんのいるガールズ・バンド「キステン」と、リンちゃんのバンド「シグナル」が出演し、
どっちのバンドも、大盛況となった。
その打ち上げ会なので、雰囲気も上々だ。
楽しそうに話している、仲間の2人の方を、ちらっと見て、みおちゃんは言った。
「ふうん。その、“絵本”に、私たちを、登場させたいんだね?」
「そうなんだって」
リンちゃんは、うなずく。
さっき、ライブが始まる前に、楽屋でリンちゃんが「ちょっと相談したいことがある」と、
みおちゃんに持ちかけた。
...そう、コヨミさんから聞いた「絵本」の件だ。
みおちゃんは話を聞くことにして、リンちゃんを、打ち上げの席に呼んだのだった。
●ミクさんの絵本なの?
コヨミさんから聞いた、絵本の出版社が出したアイデアの話を、
リンちゃんはみおちゃんに相談した。
「そっか。この前のライブで、私たちを見たの?絵本の出版社の人が」
「うん。そうなんだって。で、すごく気に入って」
うなずくリンちゃんを見ながら、彼女はうなずく。
「うーん、絵本って言っても、あんまし、イメージわかないなぁ」
「うん。でもね、4コマ漫画みたいな絵本なんだって」
「4コマで、絵本?不思議な感じね」
みおちゃんはそういって、目の前にあるキスの天ぷらを、お箸でつまむ。
タレにつけて、口に運んだ。
「ウン! たまかねのキスの天ぷらは、うまいなぁ。リンちゃんも食べてよ」
「うん。いただきます」
リンちゃんも、お箸でつまんで口に入れる。
もぐもぐと食べながら、つぶやく。
「キスの天ぷらってさ、味がちょっと薄いよねー」
みおちゃんは、ちょっと微笑みながら言った。
「高校生のリンちゃんには、味気ないかな? オトナになれば、わかるわよ、美味しさが」
「そうかなあ。あっさりしすぎてる、って感じだけど」
ちょっと笑ったが、真顔に戻って、みおちゃんは聞いた。
「絵本、ね。でもさ、それ、作るのはミクさんなんでしょ」
「うん」
みおちゃんは、丸い目を大きく見開いて、言った。
「ちょっと、楽しそうだね」
そして、向こうにいる「キステン」のメンバーの方を見ながら、言った。
「あいつらにも、相談してみようか!」ヽ(・ω・; )
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