「ビバ☆体育!」
両腕を振り回しながら、リンは声高らかに叫ぶ。
「リンちゃん、体育好きだねぇ」
「うん、音楽の次に好きっ」
うれしそうに笑うリンを見て、ミクもくすくすと笑う。
今は体育の授業の休憩時間で、水のみ場から体育館に戻るところ。男子は校庭で1500メートル走の計測をしているが、女子は体育館でバスケットボールの練習である。背の低いリンにはあまり有利とはいえない種目だが、リンはすばしっこく動き回り、よく点を取る。
ダンクシュートなど到底出来ないが、それでもリンの得点率はすばらしいものだ。
「よっし、今日も大量得点だ!」
「頼りにしてるよ、リンちゃん」
「まっかせなさーい!」
ぽんと胸をたたいて見せた。
自慢げに胸を張り、リンは笑った。
「私がいる限り、うちのチームが勝てないわけがないんだから!」
「そのとーりっ!」
ジャージの袖がだぶだぶなので、リンが腕を振り回すと、ジャージの袖が思わぬ凶器になったりする。
「――痛いっ」
脇のほうから幼い子供の声が聞こえてきて、リンは腕を振り回すのをやめ、そちらに目をやった。
小さな黒髪の少女が、こちらを大きなかわいらしい顔で恨めしそうににらみつけていて、手で頭を押さえている。どうやら、ジャージの袖が当たってしまったらしい。
「ご、ごめんね、大丈夫?」
「大丈夫だけど…。お姉ちゃん、気をつけなきゃ駄目だよ!」
「え、あ、は、はぁ…」
「そういう気の緩みが、大事故を招くんだからね!」
「あ、はい、ごめんなさい…」
ずいぶんしっかりした女の子だな、と思っていると、少女は、
「それじゃあ、気をつけてね」
といって、リンとミクの後ろの階段を上がっていった。
リンがぽかんとしていると、ミクがくすくすと笑い、二時限目の予鈴がなったのだった…。
終始あきれた表情で、レンはリンの話を要約する。
「――それで急いで走って、転んだ、と」
「はい、そのとおりです」
うつむいて、レンの話を聞くリンの足首には湿布が張られていた。
「で、足をくじいて一人じゃ帰れないから肩をかせ、と」
「はい」
「…バカ?」
呆れ顔に、苛立ちが混ざったようだった。
あの後、リンは予鈴がなったことにあわてて走り、結果、思い切り転んで、足をくじいてしまったのだった。勿論、体育には出られるわけもなく、保健室でどうにかやり過ごし、放課後の今、レンが保健室に来て『事情聴取』が始まったのであった。
「運動得意なのはいいことなんだけど、そういうドジなところはどうかと思うね」
あえてわざとらしい口調にして、レンはいやな言い方をした。
「だって、驚いちゃって…」
「大体、そんな子供に気をとられてるのが悪いんだろ」
「妙にしっかりした子供だったんだもん」
「知るか」
ばっさりと切り捨てられ、リンは軽くショックを受けたらしい。
「だって、だってぇ…」
と、何度も繰り返している。
しばらく困ったようにしていたが、すぐに仕方ないというようにため息をつくと、レンは立ち上がって自分のかばんとリンのかばんをリンに持たせた。
「なによぅ、けが人をパシリに使うの?」
「違う。それ、持ってろよ」
言われて、素直にぎゅっとかばんを抱えたリンを、お姫様抱っこで軽々と持ち上げた。
「わ、わ、わぁ!」
「あーもう、暴れるなよ、落ちるぞ!」
「だって、高くて!」
「…じゃあ、降りる?」
「ヤだ!」
じたばたと暴れるリンをどうにか落ち着かせて、レンは保健室を出た。保健室の先生はニコニコと笑いながら、「青春ねぇ」なんていっていた。
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