UVーWARS
第三部「紫苑ヨワ編」
第一章「ヨワ、アイドルになる決意をする」
その25「実技試験その1~自由テーマ~」
「それでは」
モモさんのおごそかなひと言で、それが始まった。
「ただいまより、実技試験を始めます」
〔キターーーーーーッ!!〕
モモさんが試験の内容を説明した。
「試験は課題部分と自由テーマ部分に分かれます。課題部分は、指定した曲に合わせて踊っていただきます。自由テーマ部分は紫苑さんがこれまで練習してきた中でもっとも自信があるものをここで披露してください」
モモさんは読み上げた書類から、目線をわたしに戻した。
「紫苑さんは、課題と自由テーマのどちらを先にしますか?」
「自由テーマ部分を先に、お願いします」
「では、紫苑さんの自由テーマは何ですか?」
「落語です」
みんな、意表を突かれたような顔をしていた。
ウタさんもパッチリ目を開けてわたしを見ていた。
「ジャンルに制限はありませんけど、時間は10分以内とさせていただきます。よろしいでしょうか?」
「はい」
わたしは、床に腰を下ろし、正座した。痺れないように若干腰は浮かせた。
「お題は、『馬の田楽』と申します」
「おお、古典だ」
そう言ったウタさんの目が輝いているようだった。
ここで床に両手をつき、土下座ではなく、一礼する。
顔を上げたら本番スタート。もう引き返せない。
覚悟を決めて、目一杯の明るい笑顔を作る。
「今日も雪の、寒い日和となりました。子供は風の子と申しますが、中学生といえども寒いものは寒い。学校の帰りに、コンビニに寄って買い食いは校則違反となりますが、我慢できない子を叱らないで頂きたく存じます」
とりあえず周囲の雰囲気は悪くなさそうだ。
「大人はよくおでんを買ってお酒のおつまみにするそうです。中学生もおでんは買いますが、お酒は買えません。校則違反ですから」
わたしは周囲の空気を掴みながら話しを進めた。
「そのおでんに浸けるのは、辛子が基本だと思っていましたが、味噌、信州の合せ味噌を浸けるコンビニが増えて参りました」
その後は無我夢中に練習した通りに噺を続けた。
気が付いたら、もう終わりが近付いていた。
途中、一度も周囲に気を配っていなかった。
〔只のひとり言じゃん〕
噺の流れを止める訳にもいかず、わたしは勢いだけで話し続けた。
「お、おい、う、馬、見なかったか? 味噌を、付けた馬だ」
「馬の田楽ですか? 美味しそうですけど、買い食いは『校則違反』になりますので」
そこで深々と頭を下げ、間を空けて、締めの挨拶をする。
「以上、お後がよろしいようで」
少し溜めてから立ち上がり、挨拶をする。
「以上で終わります」
もう一度最敬礼する。
「今のは、エンショウじゃないな。五代目エンラクか?」
「ウタさん!」
すかさずモモさんがウタさんを嗜めた。
「まだ試験中です!」
しまったというような顔をして、ウタさんはぺろっと舌を出した。試験中というより、モモさんに怒られたのを気にしているようだった。
モモさんが説明を始めた。
「今から、五分間、休憩にします。楽にしてください」
わたしは近くの椅子に座った。
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