数日後、雅彦が大山北大学の自分の部屋にいると、扉からノックが聞こえた。扉を開ける雅彦。
 「どうぞ」
 『失礼します』
 入って来たのは長瀬と佐藤だった。
 「おや、二人ともどうしたんだい?論文についてかな?」
 二人の真剣な表情を前に話す雅彦。
 「いえ、私たちが今回安田教授の部屋にお邪魔したのはその件ではありません。少し気になったことがあったので安田教授の部屋にうかがいました。安田教授、沢口さんのことでお悩みになられておられませんか?」
 リンやレン、ルカと同じく、いきなり核心を突く長瀬。さすがにボーカロイド一家以外からそのようなことをいわれることは全く想定していなかったのか、一瞬動揺した表情を見せる雅彦。しかし、それも一瞬のことで、すぐに元の表情に戻る。そして、どういうべきか考える雅彦。
 「何をいっているのかな?」
 と、とっさにごまかす雅彦。しかし、ごまかし方があまりにも白々しいため、かえって長瀬と佐藤に確信を与えることになってしまった。
 「安田教授、教授がいくつかの根拠に基づいて、沢口さんのことでお悩みになられているという確信があるのですが」
 「…分かった。話を聞こうか」
 話を聞いてみることにした雅彦。
 「先ず、安田教授はミーティング等で沢口さんのこと、それもプライベートなことを話されていることから、沢口さんと安田教授はプライベートでもつき合いがあると推測しました。また、現在、沢口さんはかなりご高齢のはずで、健康状態が芳しくない可能性が高いと思われます。そして、最近、安田教授が物思いにふけられたり、憂鬱な表情を見せられることが多い気がします。ですので、安田教授が沢口さんのことで何か悩んでおられると判断しました」
 雅彦の元を尋ねて来た理由を淡々と述べる佐藤。その佐藤の理由を聞いて、しばらく考える雅彦。
 「…それは君たちの考えすぎだね。それに、その程度の少ない根拠で結論を導くようでは、学会だと質問攻めに会うよ」
 「…そうですか、分かりました、失礼しました」
 そういって雅彦の部屋をあとにする二人。
 「ケイ、あの安田教授のご様子だと、絶対に何かあるよな?」
 「それは間違いないでしょう。一瞬ですが動揺されたご様子でしたし、ごまかし方があまりにも下手です。いつものご様子から考えると、あんな下手なごまかし方をされるとは思えません」
 「だよなあ…」
 「とはいえ、あのご様子だと、何度いっても僕たちに悩みの内容をお話になられるとは思えませんが」
 少し残念そうに話す佐藤。
 「うーん、そうだよな」
 「…どうしましょう?」
 「あきらめよう。ケイのいったとおり、これ以上何度いっても無駄だと思う」
 長瀬もあきらめたようにいう。
 「仕方がないですね」
 「ま、安田教授だって思う所があるんだろう。…こんな所で愚痴ってないで、カフェにいこうぜ。俺のおごりだ」
 「分かりました」

 一方その頃、部屋の中。
 (…まさか、長瀬君と佐藤君にまで見破られるとは…)
 雅彦はまだ動揺が残っていた。雅彦としては、普段から平静を装っているつもりなのだが、二人に指摘されたことから、それが全く上手くいっていないのは間違いない。ここまで多くの人に心配されていることが分かったのだが、雅彦はまだ他人に話すことに踏ん切りがつかなかった。

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初音ミクとパラダイムシフト4 3章15節

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投稿日:2017/03/09 22:08:40

文字数:1,388文字

カテゴリ:小説

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