20XX年、人々は産業発展による効率化のため、遺伝性のICチップを埋め込まれていた。それはマッドハニーに含まれる毒が利用されるため「ハニカムゼーション」と呼ばれていた。
その内容を知っている者は一部の上流階級のみであり一般人が知ることはない。18歳になった時点で体に埋め込まれたICチップが作動し、人々は苦を忘れ感情のないロボット同然の生き物になってしまう。

 とある16歳の少年、ツツジは、そんな世界で生きていた。普通に生まれ、普通に育ち、普通の暮らしを営んでいた。そんな彼にも自分の将来について考える時が来てしまった。
 両親ともども普通の会社員、自分もそうなるのではないかという想いは昔から常々芽生えていた。奇をてらう必要性はない、それが親と先生からの言葉だ。

「誰もが前を向いて社会のために奉仕をする。」
先生から何度も何度も言われてきた。大人は、この世界の子どもにとっての憧れであった。
 
 ツツジは交差点を歩いていた。いつもと変わらない風景、だが横切る風が心をサワサワと揺らす感覚がしていた。虚しい、そんな感情が少年にはあった。四方八方見渡してもいるのは、カバンを持った会社員である。
 何か、忘れているのでは?とツツジは街を見渡しふと気付いた。繰り広げられる挨拶、会話、どれも皆楽しげである。だが、どこか異様な何かを少年は感じた。別に楽しいことが悪いわけではない、だが皆「「幸せに溢れすぎている」」のだ。確かに仕事が上手くいって喜びを感じることはあるだろう、だけどもその前の苦労があったからこそその幸せがあるのでは、そんなことを少年は考えた。そんな辛い表情を周りの大人たちから、ツツジはこれまで感じていなかったことに思い当たってしまった。それが「大人だから」という理由で片付けられても良かったのかもしれない、だが自分もそうなってしまうのではないかという一抹の不安がツツジの頭をよぎった。別に仕事が楽しいと思えるのは良いし、そもそも大人になること自体素晴らしいことであり、歓迎されるのがこの世界の常識だ。何もおかしいところはない、ないはずなのにツツジはとてつもないほどの悲しさを覚えてしまった。
 「「夢を追ったその後があるからこそ人生が楽しいのではないか?」」
今、ツツジは周りにいる大人たちが全員アンドロイドのように見えた、見えてしまったのだ。ツツジはこんな思想を持ってしまった自分を恐ろしく思ってしまった。知られたらまずいと感じつつ、日に日にその不信感を積もらせ、とうとう17歳の誕生日を迎えた。
 
 この世界では、0〜16歳までの子供に義務教育が行われており、17歳の1年の間で自身の勤める職業を決めなければならない。その1年間は資格を取るなどの大人になるための準備期間でもあった。

 少年はまたその交差点にいた。今日もあの日と変わらない風景である。皆、とても楽しそうな生活をしていた。ツツジは1人だけ浮いているな、と感じ自分に対しての居た堪れなさを抱いた。もう一年経ったらここに加われる、それが幸せなのか1人の少年が抱え込む問題にして大きすぎた。社会のために奉仕する、というのが夢で良いのか、他に何かなければならないのではないか、社会のために人生を捧げて良いのか、そんなことも何度も何度も考えているうちに頭の中を占有していった。

 ツツジの小さな反抗は、虚しくも誰にも届かず日に日にタイムリミットは迫っていった。

 そして、18歳の誕生日2日前、ツツジはいつものように街中を歩いていた。もう諦めよう、もう諦めよう、もう諦めよう。ツツジはずっとずっとその言葉を連呼した。本当に自分はどうなってしまうのか、恐ろしいものが迫ってきているのをツツジはひしひしと感じていた。だが、もう時間がない。誕生日を迎えた瞬間、大人になってしまう、大人という扱いを受けてしまう。大人は憧れだ、なのに素直に喜べない自分がいる、なんでなんで、ツツジは街を見渡し、楽しげにだが寂しそうに見える群衆を見た。もう選ぶ道は一択しかなかった。
ツツジはそのまま群羊の方へと向かっていった。


 それから2年後、またある16歳の少年がいた。少年は、自分の将来をとても楽しみにしていた。早く大人になりたいな、と常々心を弾ませていた。街を見渡すと皆、楽しそうに生活をしていた。早くその一員になりたい!!、そんなことを思っていた少年は虚ろな目をした青年を見つけた。少し怪しげな風貌の彼は、また群衆の方へ溶け込むように消えていった。その一連の行動を少年は不思議な目で見つめた。

おしまい

少年:4〜17歳 青年:18歳〜25歳

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道の果て ストーリー

道の果ての小説です!
ツツジくんは、蛍見さんが命名してくれました。その他周辺設定の補足も蛍見さんが考えてくれました。
拙い文章ですが、是非読んでいただけたら幸いです。
よろしくお願いします!

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投稿日:2023/07/07 20:30:25

文字数:1,912文字

カテゴリ:小説

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