希望なんて無い、ただあるだけの世界。
間違いだらけの正しくない世界。
こんなものもう必要ないだろ?
久しぶりに“箱庭”を歩く。
上では大きな画面の中偉い政治家か何かが必死で話している。
周りの人は何も知らずに忙しなく歩いていく。
口論しているのか、怒鳴り声も聞こえる。
「うるさいな……」
周りの雑音で溢れた空間に嫌気がさす。
ポケットからiPodを取り出して、適当な曲を選んで、イヤホンを付ける。
流れ出した曲は、愛をテーマにした曲。
僕には『愛』なんて分からない。
色々研究したり、本を読んだりしたけど、僕にはまだ分からない。
まぁ、知る必要なんて無いのかもしれないけど。
目の前の道路をトラックが通る。
………忘れていた。
僕が“箱庭”に来た理由を
何年前?何ヵ月前?
どのくらい前だったか忘れたけど、ある公園前の道路で事故があった。
一人の少年が少女を庇って死んだ。
トラックに轢かれたせいで、グチャグチャになってて酷い状態だった。
少女は死体の側で泣きじゃくっていた。
僕はそれを見て、イイコトを思いついた。
『人は愛する人の為なら、どれだけ犠牲になるんだろう?』
僕は少女に近付き、話しかける。
「彼を生き返らせたくないかい?」
いきなりの僕の提案に、少女は驚いたような顔をしていたが、僕の目を真っ直ぐ見つめながら口をゆっくり動かした。
「……本当に、そんなこと、出来るんですか?」
急に怒り出さないし、少しは賢いかな。
騒がれると面倒だしね。
「あぁ、出来るよ、僕ならね。」
「…………どうすればいいんですか?」
「それはね……『君が彼の代わりに死ねばいい』んだよ。…どうだい?簡単だろ?」
少女は目を見開いて固まっている。
そんな少女を見て、僕は自分が興奮していることに気づいた。
少女の中でどんな思いが渦巻いているのだろうか?
少女はどんな動きをするのだろう?
少女の答えが楽しみで仕方ない。
そんなことを考えていると、少女は震えた声で言葉を紡ぎ始めた。
「私が死ねば彼を救えるんですよね?」
少女の言葉に口元が上がりそうになる。
「そうだよ。……何回死ぬことになるか分からないけどね。」
少女は一度だけ死体を見て、はっきりと言い切った。
「彼を生き返らせてください。」
「分かった。」
僕は一言そう言うと、その場を後にした。
「…………楽しくなってきたなぁ。」
僕は完全に口元を歪ませながら少女の願いを叶える為、部屋に向かって歩き出した。
……それで、僕は少女と少年の様子を見に来たってこと。
時計を見る。
そろそろ時間だ。
荷物をたくさん乗せたトラックが目の前を横切ろうとすると、少女が飛び出した。
自分から何回も死ぬなんて滑稽だとしか思えない。
しかも、他人の為に。
このまま、いつも通り少女が死ぬはずだった。
しかし、トラックが少女に当たる直前、少年が飛び込んだ。
これは予想外だ。
少年は僕は見て、
「ざまぁみろよ。」
と、笑った。
どんなに長い間死に続けても、結局結果は変わらない。
急に今までの興奮が冷めてきた。
もうその二人には興味を失った。
帰ろうと周りを見渡すと、見覚えのある姿を見つけた。
“偽物”がいた。
トラックを鋭い目付きで睨み付けていた。
姿は似ているのに何か違うように感じられて、不思議に思うと同時に笑えてきた。
僕にとって特別な存在を真似した“偽物”。
そいつはあまりにも周りと同化し過ぎていた。
「この世界はもう必要ないかな。」
雑音の中で呟いた言葉は、誰にも届かなかった。
昨日と変わらない“箱庭”。
今日はこの“箱庭”を壊す為に来た。
オリジナルである“君”がつまらないことを言ったから、楽しいことが無くなってしまった。
「…全部壊してしまおうか。」
世界の破滅を発表した時から、人々は何処かに逃げようと騒いでいる。
その様子が馬鹿らしくて、口元がニヤッとしそうになる。
それを隠すためにフードを目深く被る。
目隠し完了。
僕は、人々が向かう向きの逆方向に歩く。
目指すは、この“箱庭”が見渡せる丘の上。
たどり着いたその場所には、既に他の科学者が集まっていた。
此処にいる科学者は、この世界から逃げてきた人たち。
初めて見る人もいた。
この組織に入るのは自由だし、特に驚かない。
募集人数無制限。
無論、途中参加も歓迎。
募集要項無条件。
服装は自由。
これがこの組織のルール。
合言葉を言えば即加入出来る。
実際僕はニジオタコミュショーヒキニートだけど、問題ないし。
誰が入ろうと僕には関係無いし、興味も無い。
丘の上から見える風景は、なんだか馬鹿らしく騒ぐ人がたくさんいた。
見たことの無い動きをする“箱庭”。
科学者の一人が
「素晴らしい。」
と、手を打った。
確かに素晴らしいかもしれない。
………でも、もう必要無いよな?
「もう不必要だ。」
科学者は爆弾を“箱庭”に落とした。
激しく燃え広がる炎を見つめていると、聞いたことのある声が聞こえた。
振り返ると、“偽物”の姿があった。
「まぁ、つまらなくはないな。」
口元を大きく歪ませながら呟いた言葉は、科学者たちの手の音の中に消えていった。
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