UV-WARS
第二部「初音ミク」
第一章「ハジメテのオト」
その4「彼女が初めて来た日」
開け放たれた玄関の向こうは海があり、沖には白いクルーザーが一艘浮かんでいた。
「それにしても…」
テトは辺りを見渡してため息をついた。
「玄関なのにこれほど涼しいとは」
もう一度ため息をついた。
「相変わらず、地球の温暖化に貢献しているようだねぇ」
尻餅をついた態勢のまま、テッドが反論した。
「うちはソーラーパネルで大体賄ってますよ。残りは潮力発電で」
テッドは起き上がって尻を少し払った。
「テト姉なら…」
「知ってるよ。まあ、サービスだ、お客さんへの」
〔お客さん?〕
テトは玄関を振り返って手招きをした。
「入っておいで」
見ると、小豆色のサマードレスに、白い麦わら帽子を被って、紙袋を抱えたテトより少しだけ背の低い女性が立っていた。
その女性が玄関に入ったとき、足音が全くしなかった。二歩目の左足が、玄関に微かに残った砂粒を踏みしめなかったら、彼女の体重は紙のように軽いものに感じられた。
「お邪魔します」
わざと声を低く抑えているように聞こえた。
彼女は紙袋を片手で抱えると後ろ手に玄関のドアを閉めた。
彼の視界の中でテトが睨んでいる気がした。
テッドはテトからツッコミが入る前に突っ込まれそうなところを探した。
〔あれか〕
テッドは紙袋の端を摘まんでから言った。
「持ちます」
「あ、ありがとうございます」
最初の「あ」が少しためらいがちだったが、テッドが紙袋を掴んだところで、彼女は手を離した。
少しずっしりした感触と袋の口の少し開いた隙間から、中味がマスクメロンだと分かった。
彼女は、麦わら帽子を両手で取って胸の少し下で抱えた。
麦わら帽子の中から栗色のストレートヘアがしなやかに肩まで降りてきた。
高級なシャンプーの香りが微かにした。
細い足首に始まって全体に華奢な印象のスタイルもスパイスというか、彼女の一部だった。
それよりも彼女の顔にテッドは釘付けになった。
清楚で深窓のお嬢様といった美少女が彼の目の前に立っていた。
彼の視線の圧力に負けたのか、美少女は、頭をさげた。
「は、初めまして」
彼女は綺麗に腰を曲げて会釈をした。
しかし、彼女はテッドと視線を合わせないようにうつむきながら元に直った。
「こ、こんな朝早くからお邪魔して、すみません」
少し上擦った声が餌を欲しがる子猫の鳴き声を思い起こさせた。
〔わりと可愛い声なんだな〕
その時、カイトの声がした。
「マスター」
テッドは慌てて靴箱の上のモニターに手を伸ばして、画面左上の赤い丸のアイコンを押した。
モニターの中でカイトの視線がテッドの指先をトレースした。
赤いアイコンが押されたのを見て、カイトは右手でOKサインを作って画面から消えた。
それはすべての端末から、ミクたち、ヴォーカロイドを消すコマンドだった。
テッドはほっと一息吐いて振り向いた。
〔テト姉がいない?〕
ぽつんと残された彼女は手持ちぶさたで戸惑っていた。
「テト姉、じゃなくて、彼女は?」
「い、今さっき、中に」
他人に見られて困るものは何もないつもりだが、テッドは異常に鼻の利く従姉妹が気になった。
テッドが一歩を踏み出したとき、飛び降りるようにテトが戻ってきた。
テトは右手親指を立ててテッドに向けてつき出した。
「OK。クリアーだ」
あまりにも至近に突き出されたので、テッドはよろめいて靴箱の上に手をついた。左手に抱えた紙袋は、絶対に落とさないようにした。
「危ないな。もう。クリア、ってなんだよ」
明るく微笑んで、テトは口を開いた。
「とりあえず、台所や、リビングに、テッド君の評価を下げるようなものは置きっぱなしにはなっていなかった。お客さまを上げても困らない程度に掃除はされているようだね」
テトは彼女を手招きした。
「こんなところで立ち話もなんだから、上がって。上がって」
「あ、はい」と短く答えて彼女はサンダルを脱いで自然な動作でそれを揃えた。
対するテトのサンダルは、右足が裏返り、左足は離れたところであらぬ方向を向いていた。
「まったく」とつぶやいて、テッドはテトのサンダルを揃えた。
テトは彼女の先に立って、リビングに入ろうとしていた。
「くすっ」と忍び笑いがテッドの背中に投げかけられた。
振り向いたテッドには見えなかったが、控えめな笑顔が頭の中に浮かんだ。
〔でも、今、笑われたのか?〕
彼女の背中を追うように歩き出したテッドに、遠くからテトの声が投げつけられた。
「テッドくーん、レイコー、二つ」
まったく、と心の中でつぶやいて、テッドは廊下をリビングとは反対に曲がった。
台所に入って冷蔵庫を開けると無糖のコーヒーが入ったペットボトルを取り出した。
グラスを二つ、コースターも二つ、フレッシュとガムシロップとストローを二つずつ用意して、グラスにアイスコーヒーを注いだ。
丸盆を取り出してそれらをきちんと並べ、テッドはため息をついてから、リビングに運んだ。
リビングではテトの明るい声が響いていた。
「ついうっかりテレビのリモコンを踏み潰しちゃってさ、彼が作ってくれたのが音声リモコンソフトなのさ」
「へえ。すごいですね」
「風邪をひいて声が出なくなったときは、キネクトでリモコンを作ってくれて、助かったよ」
テッドはもっさりした動作でリビングに入った。
「はい、レイコー、お待ち!」
テッドはゆっくりと盆をテーブルの上に置いた。
それを見てテトが顔を曇らせた。
「工夫が見られない」
その一言でカチンとくるほど、テッドは短気ではなかった。彼のテトに対するベクトルは他人と向きが違っていた。
少し考えて、「ちょっと、待って」と言い残し、テッドは台所に戻った。
くすっと笑ったのはテトだったが、テッドもテトの意図が分かっていたので気にしなかった。
台所に戻った彼は、ホットケーキの素を取り出して、生卵とボールの中で混ぜた。
数分後、彼は、パンケーキを四分の一にカットしたものを皿の上にのせて現れた。
彼女はそれを見て、目を丸くした。
「はい、合格」
テトがニッコリと微笑むと、テッドも微笑んだが、すぐに疲れたような表情を見せた。
「テト姉、朝早くから、なんだよ」
「うん、そうだな…」
テトは真顔になって言った。
「紹介します。テッド君の新しい彼女です」
テトのこの手のジョークは、免疫を持っている者には季節外れの蚊ぐらいに気にする程度だが、慣れない者には慌てさせる効果があった。
「テ、テトさん!」
「紹介しよう。百瀬桃(ももせ・もも)さんだ」
名前に聞き覚えのあったテッドは自然に反応できた。
「百瀬、って、研究所の?」
「おろ? 覚えてくれてたか」
「テト姉を雇ってくれる奇特な企業だから、ね」
テッドの記憶では、テトは百瀬研究所の研究員の一人だった。
テトは笑顔のまま片方の眉をぴくっと上げた。
「テッドくーん、ずいぶん、お利口さんになったようだねぇ。お姉さんは、炎天下で待たされたことは、パンケーキに免じて、忘れようとしていたところだったのにねえ」
テッドは背筋に冷たいものを感じて口をつぐんだ。
「さて」
テトは咳払いをして、やっと本題に入った。
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