Bad End Night
第二章「不気味な館」
日も暮れて、闇が支配する森の中を一人の少女が歩いている。
少女、『ミク』は明かりも持たずに足早に歩いていた。
自分が今どこにいるのかもわからないまま。
(どうして、森が開けないの?普段は二時間も歩いたら、森を抜けることができたのに。道を間違えたのかしら・・・?)
はあ、とため息をはき、近くの岩の上に座り込む。
月は、もう結構な高さへと登っている。
「やっぱり、勘違いだったかしら・・・。」
もう帰ろう。そう思って立ち上がり踵を返した時。
~♪~♪~♪
(歌声?こんな森の中に?)
たった今背中を向けた方へ、耳を澄ませる。
君が主役のCrazyNight…♪
(やっぱり歌声だ!でも、どうしてこんなところに?
・・・取り敢えず、行くしかないわね。)
ミクは、歌声のきこえる方へ歩き出した。
さっきまで森にかこまれていたのが嘘のように、急に視界が開ける。
「うそ、でしょ・・・。本当にあったなんて・・・。」
森にかこまれる中、それは異様な存在感を放っていた。
赤いレンガで作られたそれは、まるでおとぎ話に出てくるような、
その洋館は、ミクの目の前にひっそりと佇んでいた。
さっきから聞こえてくる歌声は、その館から発せられているらしい。
(本当にここが、手紙に書いてあった館?だったら、グレイ叔父様も、
この館に?)
懐にしていていた手紙を引っ張り出し、手に持つ。
その存在を確かめるかのように。
長い時間歩いていた足の疲れも、吹き飛んでしまっていた。
深呼吸をする。
ひとつ。ふたつ。
(・・・よし!)
ミクは意を決して扉の前に行く。蝶番が外れ、壊れた扉を叩く。
コンコンコン
・・・・・・・
コンコンコン
・・・・・・・・
何時の間にか歌声はやんでいた。
少しためらったのち、開けっ放しのドアをくぐりミクは声をかける。
「誰かいませんか?」
すると、
「おやおや?お困りですか?」
横から男の声がして、ミクは飛び上がらんばかりに驚いた。
「ああ、驚かせてしまいましたか。申し訳御座いません。」
そういって男は、頭を下げた。
「い、いえ。こちらこそごめんなさい。か、勝手に入ったりして。」
慌ててこちらも謝ると、
「お気になさらずとも結構ですよ。ああ、少々お待ちください。
明かりをつけましょう。」
男はそう言って、姿を消す。
しばらくすると、眩い光が館を照らした。
久しぶりの人工的な明かりに、ミクは安堵で涙がこぼれた。
「ど、どうなさいましたか?何かご不満でも?」
男は、急に泣き出したミクを見て慌てた様子で駆け寄る。
「い、いえ、ごめんなさい。なんでもないんです。」
ミクは涙を拭うと、目の前に立つ男をみた。
暗い中ではよくわからなかったが、男はかなりの整った顔立ちをしていた。
つややかな紫の長い髪を頭上でひとつにまとめ、服装は黒い燕尾服を
きっちりと着こなしている。どうやら執事らしい。
「あの、あなたの名前は?」
「ああ、申し訳ございません。まだ名乗ってませんでしたね。
この館の執事のガクと申します。以後お見知りおきを。」
「ガク・・・さん?あの、」
「ガクで結構ですよ。敬語も要りません。私は執事ですから。」
「じゃあ、お言葉に甘えて。私はミクよ。」
「ミク様はどうしてこの館に?」
「この手紙を見てきたの。何か知らないかしら。」
そう言ってガクに手紙を差し出す。
すると、ガクは顔色を変え、
「この手紙を、どこで・・・?」
「え?私の叔父様がもってたのよ。
・・・今は行方がわからないけど。」
すると、ガクは苦虫を噛み潰したような顔をして、
「お帰り下さい。悪いことは言いません。今ならまだ間に合います!
早くこの館から出て!」
「え?ど、どうしたの?急に?」
「早く!」
ガクのあまりの気迫に思わず扉へ向かおうとした時。
「あれ?お客さんだよ!レン。」
「お客さんだね!リン。」
何処からか可愛らしい声が聞こえた。
気が付くと扉の前に二人の少年と少女が満面の笑みで立っていた。
「始めまして!私は人形のリンだよ。」
「僕は人形のレン。」
「「ようこそ!不思議の館へ。」」
「お前たち。このお方はもうお帰りになられる。道を開けなさい。」
ガクは先程とは打って変わり、無表情でレンとリンをたしなめる。
「え~、もう帰っちゃうの~?」
「僕たちと遊んでよ!」
「レン!リン!」
「そんなこと言ったって、どうせガクが勝手に言ってるだけじゃないの?」
「そうそう。こわいんだろ?これから起こる事が。大体、客人をもてなせって言ったのはご主人様だろ?招待状だって持ってるし。」
「貴様ら・・・、あまり図に乗るなよ。」
三人の雰囲気がどんどん悪くなる。
「あの、大丈夫よ。そんなに怒らなくても。そういえば、ここには主がいるの?いるのなら、ご挨拶をさせてもらえないかしら?」
「確かにいらっしゃいますが・・・。」
「「じゃあ、(僕・私)たちが呼んできてあげる!」」
そう言って二人が駆け出して行ったあとも、ガクは何かを耐えるような顔をしていた。だが、急にふいっと顔をあげると、
「こちらへ。ソファにお座りください。・・・申し訳ありません。本当にごめんなさい。」
「え?」
「いえ。何でもありません。メイドにお茶を持ってこさせましょう。」
そう言ってガクは何処かへ行った。
一人になり、ミクは考える。
(どうして、あんなにガクは私を帰らせようとしたのかしら。それに、これから起こる事ってなに・・・?あの二人もすごく可愛かったわね。
まるで人形みたいな、そういえば自分のことを人形って言ってたような・・・。考え過ぎよね。)
「お待たせ致しました。」
後ろから声がかけられる。振り向くと、とても可愛いメイドさんがやって来た。歳はミクと同じくらいだろうか?
「メイドのグミといいます!」
黄緑の髪は、柔らかそうで、首のところではねている。目がぱっちりしていて、元気が有り余っているのが見て取れる。
「お茶を召し上がれ!」
「あ、ありがとう。」
礼を言うとにこっと嬉しそうに笑った。
その笑顔に和んでいると、何処からか扉の開く音が聞こえた。
「あ、ご主人様!」
グミが嬉しそうな声を上げる。
振り向くと、そこには青い髪をした整った容姿の青年と綺麗な栗色の髪をした美女と、長い桃色の髪をした美少女がいた。
「はじめまして、人形たちから話は聞きましたよ。ようこそ、この館へ。主人のカイトと申します。」
「あなたがミクさんね。聞いていた通り可愛らしいお方。私は、カイトの妻のメイコよ。」
「よろしくね、ミクさん。私、ルカ。ルカって、呼んで・・・?」
「あの、初めまして。ミクです。急に訪ねてごめんなさい。」
「いいんだよ。気にしなくて。招待状も持ってるようだし。」
カイトの視線が手に持つ招待状に注がれたのを見て、慌てて否定する。
「あの、違うんです。これは私の叔父様が持っていた招待状なんです。
あの、十年ほど前に此処に叔父様、グレイという人が来ませんでしたか?貴方が招待状を送った人です。」
「グ、レイ?」
叔父様の名前が出た時、カイトの顔色が変わるのがわかった。
「・・・、いや。すまない。覚えがないな。その人は本当にここにきたのかい?」
「それは・・・、分かりません。ごめんなさい。勘違いだったかも。」
「そう、それならいいんだ。」
嘘だと思った。本当なら、この招待状は一体誰に送られてきたのか知っているはずだった。手紙にはカイトの名前が記されているのだから。
(それにしても居心地が悪いわね。すごい見られてるし、まるで値踏みをされてるみたいだわ。)
「ミクさん・・・。せっかく来たのだから、泊まっていって・・・。」
「ルカさん!でも・・・。」
「あら、いいじゃない。もう夜も更けてるし、女の子が一人で帰るなんてオオカミに襲われちゃうわ。」
メイコがそう言った途端、何かが走ってくる音がした。その瞬間、
バンッと、扉が乱暴に開かれ、ガクを連れた双子が姿を表す。
「「ならパーティー、パーティー!!」」
「お前たち!ドアの開け閉めは乱暴にするなと言っただろう!」
「「ごめんなさーい!」」
双子達を怒ると、カイトはこちらを見て微笑んだ。
「でもこうして会うのも何かの縁だ。」
「「「歓迎しよう。」」」
そばに居たグミが歓声をあげる。
「やった!どんちゃんどんちゃん騒ぎましょ!」
「では、ワインをついでまいります。食堂へまいりましょう。」
今だ浮かない顔をしたガクは、そう言って先に歩き出す。
その様子が気になり声をかけようとした時、
「ガク、
「あの、ミクさん・・・。」
「え?」
「良かったら、一緒に乾杯しましょう・・・?」
「ええ、もちろんです!ルカさん。」
「二人とも、ついたわよ?」
「ふふふ~。じゃあ、いくよ?Are You ready?」
「準備はいい?」
「「「「「「「さあ始めよう!」」」」」」」
第三章へ続く
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