「番凩」の続きです。
‥夕焼け‥綺麗だったな‥‥。
縁側に腰掛け、足をパタパタさせながら、芽衣子はそう思った。
「芽衣子ー!そんなところにいると寒いでしょ?早く寝床に入っちまいなさい」
「えー!まだ眠くない!」
「文句は言わない!」
母親の声に、芽衣子は渋々、
「はぁい」
と返事をして、寝床についた。そして、目を閉じるが、夕方に見た景色が脳裏に焼きつき、なかなか眠れない。
「‥やっぱり起きとこうかな‥」
そう思って、上体を起こしたとき、カタリッと障子の動く音がした。
「‥‥!」
「あ、めーちゃん、起きちゃった?」
「か、海斗?」
その声に、彼女が外へ出てみると、野菜のたくさん入った籠を持った海斗が縁側に座っていた。
「な、なんでいるのよ?」
「いや、父さんから頼まれていた野菜、渡しにいくの忘れちゃっててさ、父さんにばれる前に夜にこそっと‥なんちゃって;;」
そう言って、舌をぺろっと出して、籠を縁側に置いてから、部屋に入ってくる海斗。
「だからって夜に来なくても‥‥」
「父さん、朝早いからさぁ、どんなに早起きしても無理、無理!」
そんな会話をずっとしたせいか、2人はそのまま寝てしまった。
──明け方。
「‥‥ちゃん、めーちゃん!めーちゃん、起きて!!」
耳を劈くように必死に叫ぶ海斗声。
ん‥‥?海‥斗‥‥?
半ば寝ぼけ気味に、芽衣子は、上体を起こした。寝起きで、まだ意識があまりはっきりしていない。
「大変だよ‥‥!早く逃げないと!!」
逃げる‥?それに、なんだろう、このにおい‥‥?焦げ臭いような、焼けるような‥‥。
そこまで思って、芽衣子は、一気に目が覚めた。
「‥‥っ!!」
芽衣子の視線の先では、紅の炎が、煌々と燃え盛り、すぐ近くまで来ている。
「ね!めーちゃん!早く逃げようよ!!」
「あ、うん、そうね──」
そう言って、海斗の手を取ろうとしかけて、彼女は、はっとした。
「ねぇっ!母さんと、父さんは‥?」
「‥分からない‥‥たぶん、逃げているんじゃないかな‥」
海斗は、当てずっぽうでそう答える。だけど、心のどこかで、こんな早朝に起きているはずない、そう思っていた‥。
「それより!めーちゃん、先に逃げようよ!!」
芽衣子を助けることしか、彼の脳裏にはなかった。
海斗に手を引かれ、芽衣子は、
「いやぁ!!母さんもっ!父さんもっ!一緒に逃げないと‥‥!!」
「だ、だけど‥‥!」
「やめてっ!離して!!母さんたちがいないとっ‥いやだっ!!」
「めーちゃんっ!!」
「‥‥‥っ!」
自分を引き寄せた、海斗の強い声に、芽衣子は、驚いて彼を見た。
「落ち着いて、めーちゃん!」
「だって!!母さんがっ!!」
「‥‥‥」
説得は無理だと判断したのか、海斗は、無理やり芽衣子の手を引いて、母屋から飛び出す。
「ちょっ‥‥!海斗っ!!離してよ!いやだ、いやだよっ!」
芽衣子の泣き叫ぶ声にも、無言で彼女の手を引いて走り出した海斗。
「いや!!いやぁっ!父さぁん!母さぁぁんっ!!」
無我夢中で走る海斗に手を引かれ、芽衣子は、海斗の家族の住む母屋に連れて行かれた。
「‥ひっ‥く‥父さぁん‥母さぁんっ‥‥」
彼は、しゃくり上げて泣いている芽衣子を、後ろめたそうに見た後、ドンドンッと、家の扉を叩いた。
「父さんっ!父さん!!大変なんだっ!!」
ガラッと開く木戸。
「ど、どうしたんだ、海斗?」
「めーちゃんがっ、めーちゃんの神社から火が出ててっ!」
「なんだと!?そりゃあ、大変だ!!」
海斗の言葉に、父親が、水が入りそうな、底の深い鍋を2つばかり抱えて、芽衣子の家の神社へ駆けて行く。
「お前は、その娘を頼むっ!!」
「気ぃつけてなぁ!」
そう返事をした後で、海斗の母親は、中腰になり、
「さ、芽衣子ちゃん、しばらくはここにいなさいな?外だと寒いからね?」
と言って、芽衣子の背中を押し、部屋に招きいれた。
「それにしても‥よく気づいとったなぁ、海斗」
「あっ!うん、朝早く目が覚めちゃってさ‥‥」
野菜を持っていくのを忘れていたことを悟られないうに、あわてて海斗はそう弁解する。
「あっ‥‥ちょっと待ってね‥」
芽衣子の、暗く沈んだ表情に気づいた母親が、そう言って、台所へと降りていった。
「めーちゃん‥‥」
何も言葉を発さない芽衣子。じゃあ、せめて、とばかりに、海斗は、芽衣子の手に、自分の手を重ねた。
「‥ごめんね‥めーちゃん‥‥」
「‥海斗の‥海斗のせいじゃないよ‥‥」
「だってっ!僕が無理やり連れてきちゃったせいで、めーちゃんは‥‥!」
「ちがう‥‥!」
突然上げた、芽衣子の声に驚く海斗。
「めー‥ちゃん‥?」
─そんな顔しないで‥私が‥早く気がつかなかったから‥‥。
「私が‥いけなかったんだもん‥‥謝らないでよ‥‥」
むしろ、謝るのは私の方、とばかりの悲痛な表情に、海斗は、言おうとした言葉を飲み込み、彼女にかける言葉が見つからなかった‥‥。
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ご意見・ご感想
enarin
ご意見・ご感想
再び今晩は、enarinです。続き、拝読させて頂きました!。
トラブル発生!。火事!。こういうときでも海斗は冷静で良かったです。このお話のめーちゃんは、この年頃の普通の女の子な感じで、読み進めやすいです。でもそういう人だけだとトラブルバスターできないので、海斗の存在が大きいですね!。
さぁ、どうなる!?。では続きに行きますね。
2010/03/18 16:13:16