秋も深まる所を過ぎて、木枯らしが吹き付ける肌寒い夕方。神谷 悠介(かみや ゆうすけ)は、ある少女と向かい合って立っていた。その少女の名は、木崎 美奈(きざき みな)。彼女と悠介は、共に同じ高等学校に在籍する高校1年生だ。学校内でのクラスは違う。

「急に呼び出して、ごめんね」

 後頭部を掻きながら、恥ずかし気な表情で美奈を見る悠介。視線の先にいるその彼女は、どうするでもなく、真顔でいる。

「なんの用?なるべく、手短にお願い」

 何の抑揚もなく、鮮烈な言葉を悠介に放る。あまり物怖じしない性格なのだろうか、大して面識の無い彼に対して、辛辣な態度で向かい合う。

「僕と、お付き合いして頂けないでしょうか?」

 確かに短い用件ではあるが、応えるには時間がかかる問いだ。

「神谷 悠介君、だっけ?来年の今頃。季節がかわる頃にもう一度、この場所で応えるわ。これから1年、友達として過ごしましょ?
ただし、あまりに不甲斐無いと、その時は縁を絶たせてもらう」

 そのような難問に、彼女は数分と経たない内に解を示した。その内容は、究極の二択とも言えるだろう。しかし悠介には、最初から失う関係も無い。そんな彼からすれば、選ぶべき選択肢は1つしかないのだ。

「OK。それじゃあ、これから1年の間、よろしく」

 そう言って悠介は、美奈に手を差し伸べた。彼女はその手に、紙切れを握らせて後ろを向いた。

「それ、ケータイの番号とメールアドレス。誘ってくるなら、何時でもいいわよ」

 あっさりとその場を立ち去って行く美奈を後目に、悠介は渡された紙に目を通した。そこに書かれているのは彼女の言ったとおり、彼女自身の連絡先だ。
 
「……」

 無言で紙を見つめる悠介を避けるように、小さく冷たい風が吹いた。それは彼の横にある、紅葉の色が褪せた葉を巻き込み、美奈の去った方へと流れてゆく。

 しばらく無言に徹した悠介だったが、思い出したように言葉を発する。

「寒っ…!」

 それもそうだ。たかだか数分とは言え、空風の中で立ち尽くしていたのだ。本格化し始める寒さを身に浴びていれば、四肢は震える。

 彼はその身を打つ風に尻尾を巻くように踵を返し、自らの帰路である、美奈が向かった方とは反対へと向かい始めた。

 これからが、悠介と美奈にとっての波乱の1年になるのかもしれない。この、悠介の人目惚れから始まった奇妙な恋は、どこへ帰結するのか。しかし、腑に落ちない点も多い。よく知りもしない人物に交際を申し込まれたのなら、彼女の性格上一蹴するであろうに。 
 
 不運かな、悠介。去り際の彼女は、口に薄ら笑いを浮かべていた。

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季節がかわる頃にもう一度(プロローグ) 

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投稿日:2011/03/28 16:30:49

文字数:1,111文字

カテゴリ:小説

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