閲覧室は書庫の隣にあるのですが、
「執事～？まだぁ～～～～～～～～～～～～？」
なにしろ書庫が広すぎるので移動するのも大変です。
「もう３０分も歩いてるのよーー？いくら私でもキツいわ」
アリスは手をつないでいる執事に向かって言いました。頭につけているうさ耳も不満そうに揺れます。
「・・・弱音を吐くなんてアリス様らしくありませんよ」
アリスと手をつなぎアリスより少し先を歩くおそろいのうさ耳をつけた執事は苦笑しました。
「執事の僕はもちろん、メイドたちにも弱音なんて一度も言わなかったのに・・・・」
もしかして、僕のことが好きだからですかとは言えなくて代わりにぎゅっと強くアリスの手を握りました。
「あら、いくら私でもね、ずぅぅぅぅぅぅぅぅっっと歩いていれば弱音の１つや２つ言いたくなるものよ。貴方が好きだからとかじゃ、な、い、ん、だ、か、らっ！！」
アリスはプィとそっぽを向いて、嫌味をたっぷり染み込ませて言ました。うさ耳も、そうだそうだと言わんばかりに揺れ動きます。
「・・・・・・・」
考えていることを見事アリスに見透かされた執事は、黙り込むしかありませんでした。
「・・・あら、もしかして図星かしら？」
執事が黙りこくったのをいいことに追い討ちで攻めるアリス。その瞳は楽しそうに黒く輝いていました。
「はい、図星ですけど・・・何か？」
「・・・っっ！？」
執事の反撃に、アリスは少しだけ驚いて目を丸くしてから、
「へえ、執事って意外と妄想が好きなのね。じゃあ、いつも私をどうこうしようとかそういう目で私のこと見てたのね？」
と、これまた嫌味っぽく言い返しました。
「・・・いえ」
これにはさすがに頷く事は出来ません。とは言っても、全くもってその通りなのですが。つまり、完璧な図星です。
「・・・んー？どうなのよ、これで頷けばどうなるか・・・分かってるでしょうね・・・？いくら執事といえども「そう思ってはいけないんですか？」
「・・・ほえ？」
執事の言葉に、アリスは気の抜けた声を上げました。
「そう思っては・・・いけないんですか？」
もう一度繰り返す執事。一種の開き直りとも自暴自棄とも言える執事の言葉にアリスは、
「・・・・・貴方って、ほんとにズルいわよね。なんだか、いじめがいがなくてつまらないわ」
それだけしか言いませんでした。言えませんでした。
「・・・・でも、あれ・・・。んんっと・・・」
しかしアリスは不意に何か疑問に感じたようで再び執事を見ました。
「だとすると・・・。ねえ、執事。もしかするともしかして、今この瞬間もそう思っているの？」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・え、嘘よね？嘘・・・じゃないの・・・？」
「・・・」
不意に歩いていた足を止め、執事はアリスを抱きしめました。まるでそれだけでいいという風に。
「・・・・え、え、ちょ・・・っと。し、執事っ・・・。まままさかほんとに私をどうこうしようって訳じゃ「アリス様」
挙動不審になるアリスの言葉を遮り、執事は言いました。
「・・・告白の件ですが、この件が無事終わった後に夜、アリス様の自室で告白の返事をしますから待ってて下さい」
少し照れつつもしっかりと言い切る執事。そんな執事の言葉にアリスは、
「・・・分かったわ。ちゃんと貴方が来るまで・・・待っているから」
と少しだけ、ほっぺたを赤くしてそう言ってから、
「分かったから、早く行きましょう？この件が最優先なんだから」
と言って執事から離れました。うさ耳もそそくさと離れるように揺れました。
「・・・でも」
アリスは呟きます。
「執事がそういう目で見てたなんて・・・少し引くわね」
そうして執事との距離を微妙に空けるアリス。
「・・・・」
執事は心の中で、この件が終わった夜にほんとに襲おうかと半ば本気で考えていたのでした。


　　　　　　　　　　　　　　　　　　　ＥＮＤ