◇飾りの映える深い緑髪
薄く笑むは赤い紅
殊更大きな外八文字に
覗かせたるは足の白

◇もう身に慣れた衣裳の重さ
裾の先まで気を払う
吐息一つも意図したままに
ほら、見惚れていて

◇ゆるり、ごとり
ゆるり、ごとり

◇ふと 気が付けば暖かく
想いの眼差しくれる方
静かに深く息を吸い
あなた、見せつけるように


◆気付いていますか

◇疾うの昔に

◇絡まる視線の先の方
◆絡める視線の先の方


◇わたしは

◇◆気高き花街（はなまち）太夫

◇あなたは

◆替えのきく有象の妓夫（ぎゅう）


◆決して触れ合うことは ありません


◇なれど、

◆そう、せめて今だけ

◇◆今だけは


◆見つめていたい
少しでも

◇見つめていたい
もう少し


◇鉛のような胸に蓋をして
次の まばたきのあとには
知らぬふりを



◆貴女は出会った当初から
強く輝く花でした
幼いその手を女衒（せげん）に引かれ
静かに隣を ひた歩む

◆音なく流す涙に濡れる
頬には消えない涙跡（なみだあと）
それでも 見据える瞳の色に
捕らわれるまで 間（ま）は無くて


◆（◇）ゆるり、ごとり
ゆるり、ごとり

◆枷を纏いて凛と咲く
花の歩みよ遅々とせん
どんなに過酷と知りながら
それでも私は希（こいねが）う


◇お分かりですか

◆分からぬはずが

◆◇焦がれる視線の先の方



◆私は

◆花を売るための妓夫

◇わたしは

◇◆咲き誇る 一（いち）の太夫


◇決して触れ合うことは無いのです


◆ならば、

◇そう、せめて今だけ

◇◆今だけは


◇見つめていたい
本当は、…

◆見つめていたい
叶うなら、…


◆焼き切れそうな胸、抑え付けて
知らぬふりする貴女を
目に焼き付ける



◇もしも今、
一歩 道を外れたのなら

◆もしも今、
この手 貴女に伸ばしたなら

◇わたしを連れて

◆この手を取って

◇◆逃げてくれますか？


◇…下駄を外す恥は忍べても
いのちは 奪えないわ



◇わたしは
◆貴女は

◇◆気高く咲く 一の太夫

◇あなたは

◆貴女を売るための妓夫


◇触れ合うことなど 許されない


◆なれど、今

◇視線の先は

◇◆自由だから


◆見つめていたい
いつまでも

◇見つめていたい
永遠に


◇玉響（たまゆら）さえ満たさぬ逢瀬

◆まばたき さえも惜しんで
目に焼き付ける


◇次に この目を開けた時は
知らぬふりを







【ひらがな】


◇かざりのはえる ふかい りょくはつ
うすくえむは あかいべに
ことさらおおきな そとはちもんじに
のぞかせたるは あしのしろ

◇もうみになれた いしょうのおもさ
すそのさきまで きをはらう
といきひとつも いとしたままに
ほら、みとれていて

◇ゆるり、ごとり
ゆるり、ごとり

◇ふと きがつけば あたたかく
おもいのまなざし くれるかた
しずかにふかく いきをすい
あなた、みせつけるように


◆きづいていますか

◇とうの むかしに

◇からまるしせんの さきのかた
◆からめるしせんの さきのかた


◇わたしは

◇◆けだかき はなまちたゆう

◇あなたは

◆かえのきく うぞうのぎゅう


◆けしてふれあうことは ありません


◇なれど、

◆そう、せめていまだけ

◇◆いまだけは


◆みつめていたい
すこしでも

◇みつめていたい
もうすこし


◇なまりのような むねにふたをして
つぎの まばたきのあとには
しらぬふりを



◆あなたは であったとうしょから
つよくかがやく はなでした
おさないそのてを せげんにひかれ
しずかにとなりを ひたあゆむ

◆おとなくながす なみだにぬれる
ほほにはきえない なみだあと
それでもみすえる ひとみのいろに
とらわれるまで まはなくて


◆（◇）ゆるり、ごとり
ゆるり、ごとり

◆かせをまといて りんとさく
はなのあゆみよ ちちとせん
どんなにかこくと しりながら
それでもわたしは こいねがう


◇おわかりですか

◆わからぬはずが

◆◇こがれるしせんの さきのかた



◆わたしは

◆はなを うるためのぎゅう

◇わたしは

◇◆さきほこる いちのたゆう


◇けしてふれあうことは ないのです


◆ならば、

◇そう、せめていまだけ

◇◆いまだけは


◇みつめていたい
ほんとうは、…

◆みつめていたい
かなうなら、…


◆やききれそうなむね、おさえつけて
しらぬふりする あなたを
めに やきつける



◇もしもいま、
いっぽ みちをはずれたのなら

◆もしもいま、
このて あなたにのばしたなら

◇わたしを つれて

◆このてを とって

◇◆にげてくれますか？


◇…げたをはずす はじはしのべても
いのちは うばえないわ



◇わたしは
◆あなたは

◇◆けだかくさく いちのたゆう

◇あなたは

◆あなたを うるためのぎゅう


◇ふれあうことなど ゆるされない


◆なれど、いま

◇しせんのさきは

◇◆じゆうだから


◆みつめていたい
いつまでも

◇みつめていたい
えいえんに


◇たまゆらさえ みたさぬおうせ

◆まばたき さえもおしんで
めに やきつける


◇つぎに このめをあけたときは
しらぬふりを