「あれっ? あんなところにクリスマスツリーがある。」
ゆかりが、ふと立ち止まる。
12月に入ってしばらくした頃。水上ゆかりと沼田玲、大島つむぎはいつも
の3人で学校からの帰り道を歩いていた。
「本当だ~。誰か飾り付けたんだろうね~。」
「あれだけの木を飾り付けるのも大変だったろうな。」
つむぎと玲も後に続く。
3人の先には野原が広がり、その向こうにクリスマスツリーが立っていた。
「昨日まではあんなのなかったよな?」
「うん。昨日までは普通の木だったよね。」
玲とゆかりの言う通り、元々そこには大きな木が1本立ってるだけだった。
それが今、十数メートルもありそうな大きな木が、頭に三日月を乗せ、星を散
りばめたような電飾を身にまとい、殺風景に広がる冬の野原に輝いていた。
「きれいだね~。もうすぐクリスマスだもんね~。」
つむぎの、ほわっとした声もする。
「でも、こんなところにツリーを飾ってもほとんど誰も見に来ないよね。」
ゆかりが辺りを見回しながら軽く苦笑する。この時間、この道を歩いている
のはゆかり達と、他には同じ学校帰りの数人くらいである。三人はしばらく留
まってクリスマスツリーを見ていた。
・・・
「っくちゅん。」
つむぎが小さくくしゃみをする。
「・・・今日も冷えるわね。ずっとここにいたら風邪ひいちゃうよ。いこ。」
ゆかりは二人を促し、三人はその場を後にした。
・・・翌日。
「今日も光ってるね。」
ゆかり達はいつもの様に三人で帰っている。
「本物のお月様とお星様が飾ってあるみたいだよね~。」
つむぎが光るクリスマスツリーに見とれながら言った。
ふと玲は空を見上げて、
「・・・?。今日の天気、晴れだよな?」
「何言ってるの。今日もこれ以上ないくらい晴れてたじゃない。」
ゆかりが答える。
「むぅ・・・でも星が見えないぞ。」
その声にゆかりとつむぎもも空を見上げる。
「あれっ、本当だ。お星様、みえないね~。」
「そういえばそうね。・・・夕方になって突然曇ったとか?」
「この空の色は曇ってる色じゃないだろう。」
鋼のように暗く透き通った冬の夜空が広がっている。
「・・・もしかしてあそこだったりして?」
玲が光るクリスマスツリーを指差す。
「んなことあるか!!」
直ちにゆかりが否定にかかる。
「じゃ、ちょっと確かめてみようか。」
と玲が光り輝くクリスマスツリーの方へ歩き出した。
「あ、ちょっと待ってよ~。」
ゆかりとつむぎもそれに続く。
・・・
「やっぱり、あれ、本当に星と月じゃないか?」
歩きながら玲が同意を求める。ツリーに近づけば近づくほど月や星は本物っ
ぽく見える。
「う、うぅ~ん。」
「きれいだね~。」
信じたくないゆかりと、ただ見とれているつむぎ。
木を見上げるくらいまでに近づいたとき、
「っとと。」
歩いていたゆかりが何かにつまづき・・・、
「わわわっ!」
よろめきながら足元に転がっていた木の枝を盛大に踏み割った。
バキッ!! ミ☆
その途端
バサバサバサッ
「きゃ~っ」
突然ものすごい羽音とともにクリスマスツリーから一斉に光の点が空に舞い
上がった。飛び回る光の点の中で思わず逃げ出す三人。その間に光はあっとい
う間に空を昇って行き
星になった。
ツリーの天辺にあった月も、空に戻っていた。
辺りが暗く静かになると、三人は逃げるのをやめ、木の方を振り返った。
「・・・。」
しばらく、声も出ずに立ち尽くす三人。
「お星様、逃げちゃった。」
静寂を破ったつむぎにゆかりと玲が続く
「あ~びっくりした。でも・・・クリスマスツリーじゃなくなっちゃったね。」
「ゆかりのおかげで、光の正体も分かったし。ふっふっふっ、俺様の名推理。」
「うぐぐぐっ。」
ゆかりは反論できず言葉につまっている。
少しして、三人はクリスマスを前に真っ暗になってしまった元クリスマス
ツリーを後にした。
しばらく歩いて、いつもの道に戻ってふと木の方を見ると・・・。
「あっ・・・。」
いつのまにか、星や月が木に舞い戻っていた。
「やっぱり町にあふれるクリスマスツリーを見て、星とか月がそれをまねした
くなったんだろうな。」
「・・・いいけどね。」
得意満面の玲と、今ひとつ納得の行かないゆかりの声が残った。
・・・
クリスマスが終わり、クリスマスツリーも姿を消したある日。ふとした用事
でゆかりが例の木の見える道を通りかかった・・・
「時期が違うだろっ!!」
木には明るく「大」の文字が浮き上がっていた。
~END~
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