翌日、雪に白く覆われた街にようやく朝日が昇って来た頃。
少年に朝早くから起こされたリンは、眠い目をこすりながら着替えを済ますと、トレードマークである白いリボンを整え、それから先に出た少年の後を急いで追いかけて朝一番の寒い外へ飛び出した。
「寒っ!」
言うと共に真っ白い息がふわっと見え、空に消えた。
どれだけ寒いんだ、と寒がりなリンは心の中で文句を言った。
「ねぇ、こんな朝早くにどこ行くの?まだ皆寝てるみたいだけど。」
「依頼の手紙を取りに行くんだよ、万屋の。ほら、早く行った方がいいの沢山選べられるだろ?」
「依頼ってどんなの?」
「そりゃあ何でもさ。万屋だから。ってか、行くよ。」
まだ玄関の前にいるリンは急いで階段を駆け降り、最後の段で軽くジャンプして昨日降り積もった雪にズボッと案外深く潜ってしまった。
こんなに積もってたんだ、と歩きづらさを感じつつ、急いで少年の隣りまで走った。
「そういえばさ、まだお互いに名前言ってなかったよね。私リン。よろしくね。」
「よろしく。俺は、適当に呼んでくれればいいや。」
「なんで?」
「言ってなかったか?俺こう見えて、実は記憶が無ぇんだ。」
「へぇー。」
・・・
「えぇ?!」
かなり驚いた。
「驚いたか?」
「驚いたっていうか、マジ?」
「マジ。」
「じゃあ、名前以外で思い出せたことは?」
「何も。随分前から思い出そうと頑張ってんだけど、欠片も思い出せないんだ。家にいてぼーっとしても何も浮かんでこねぇし、だから、万屋の仕事を初めて情報を集めたりし始めたんだ。それでも、未だにこの通りってとこで・・・はっきり言ってもうお手上げ、はは。」
困ったように笑うと少年はいきなり止まって、それを見てリンも止まった。
少年はしっかりとリンの方を向いて、
「けどそんな時、君を新聞で見つけた。」
リンは少し首をかしげた。まさか、新聞に載っていたなんて本人は知らないから。
「新聞に映ってた君を見た瞬間、初めて何か思い出せる気がしたんだ。何故か知らないけど、君と一緒にいたら全部思い出せるような気がした。」
「助けてくれた理由もそれ?」
「まぁね。」
すると、ようやく状況が分かったリンはにっこりと笑って、
「じゃあ、お世話になる分あなたの記憶思いださせるの手伝うね!!」
“レン”―――
一瞬、そう呼ぶ女の子の姿がぼんやりと見えた。見覚えのある感じがしたが、分からなかった。
「・・・・・思い出した。」
「え、もう?」
「うん。」
「何々?」
「レン。俺の名前。」
「へぇー、似てるねww」
「だなww」
「じゃあレン、行こっか♪」
「もう着いてるよ。」
にこっと笑って言った。
「え?・・・ここが?」
何か建物の前に止まっていたというのは視界の端で何となく確認していたが、ちゃんと見るとこれほど大きくてしっかりとした建物は見たことがない。
「そっ、入ろう!」
レンは先に駆け出した。
「え、ちょ、待ってよぅ!!」
建物はここらでは一番大きい市役所らしい。それにしては随分綺麗で立派な感じだが、それと比べて中はどこかのほほんとしているように見えた。
朝だからだろう、皆がまだ眠そうにしているのがちらほら見えた。レンいわく、ここで色々な仕事の依頼を受けることができるらしい。
「あ、あったあった。あの緑の掲示板がそう。」
「へぇー。」
「あら、久しぶりじゃない万屋の少年君。」
後ろから聞こえてきたのはボブっぽいブラウンの髪をしたお姉さんだった。ふと視線を移動させると、“メイコ”と書かれたものが付けられていた。
「あ、おはーっす。」
「おはようございます、でしょ?あれ?あなたが女の子を連れてるなんて珍しいわね。彼女?それとも新人さん?」
「新人に決まってます~。訳合ってしばらく俺んとこで働くことになったんだ。」
「ふぅ~ん、そうなの。」
「初めまして、リンです!」
「メイコよ、よろしくね。」
言うと、いきなり不思議そうにうーん、と唸りだした。二人を見比べて。
「ちなみに二人は双子か兄弟?随分顔がそっくりだけど。」
「いいえ?」
「俺はまだ思い出せてないからあれだけど、偶然だと思う。」
「そう。でもこんなこともあるのね、入れ替わっても全く見分けつかなそうw」
ふふ、っと軽く笑うと思い出したようにメイコはずっと持っていた箱の中から一つ取り、レンに渡した。
「この前頼まれたやつよ。また見つけたら渡してあげるね。」
「お、ありがとメイコさん。」
「じゃ、貼り付けるまで待っててちょうだい。」
そして数分後。貼り付けられた依頼をレンがぱぱっと幾つか選んだ後、レンがそのうちの一枚を選んで開けて中をのぞいた。
この時の時間はというと、ようやく皆が起き始めて活動し始めているころである。
「んじゃ、リンのためにまずはこの『ネコ探し』から♪」
「定番中の定番過ぎない!?」
「いいからいいから、じゃ依頼内容言うぜ~。」
探すネコは一匹のみ、模様はトラに似ているとか。なお、性格はおとなしいけど怒らすと切れるのでなるべく怒らせないように、とのこと。
以上、それだけ書かれていた。
「せめて何が好きなのかとか書いてよ・・。」
「ま、探しますか。」
「どっから?」
「まずはそこらを適当に。」
「やっぱりぃぃぃいい!?」
「地道なのが一番の近道!b」
「適当という時点でもう近道じゃない気がするけどね。」
そして3時間後、
「いたか?」
「いたいた。色が派手だからすぐ分かった。」
「どれどれ?」
依頼者はネコと言っていたが、ちゃんと見た所これはネコというより・・・。
「・・これ、トラじゃね?」
「え~?ネコでしょ?」
リンはどうやらネコと見ているようだ。しかし、大きさは大人のネコよりも明らかに大きく、模様もトラに似ている、ではなくそのものだった。
「デカイよ。」
「テレビでデカネコ見たよ?」
「それはおデブちゃんネコだろ。こいつはスリム。」
「デカチワワがいるから、デカヌコ。」
「種類違うだろww」
「ん~、トラもネコもネコ科だからいいじゃん。とにかく早くこっちに誘き出そ。おいで~、怖くないよ~。」
そうリンが手招きすると、案外トラらしきネコはすぐに出てきてくれた。
「結構人に慣れてるんだな。これならあまり噛まれる心配は・・。」
『ガブリッ』
「あぁっ!!」
「指噛まれたか!?」
「めっちゃ吸ってるww可愛い~☆」
紛らわしい、と思いながらレンはとりあえず安堵した。
「お腹空いてんじゃねぇの?」
「じゃあ、早いとこ飼い主んとこ行こ!」
「だな。」
そして数分後。依頼主宅到着。
「あぁ!!私のタイガーちゃあああん!!」
飛びついてくるかというほど凄い走りようで、女性は涙を流しながらリンからタイガーを受け取った。その女性は異国の人かと思える緑の髪が多くはねており、何故か額には赤いレンズのゴーグルを付けているという、何となく海の人というような感じがした。
「もう、ご飯も食べずにどこ行ってたの?心配したんだよ?」
ちょっと申し訳なさそうにして、それから思い切り大きく腹の虫が鳴り響いた。
「ははは、すっごい音w」
「はは、早く食べさせてあげて。」
「うん。ありがとう、万屋の双子さん!はい、これ!」
パッと出されたお金をレンが急いで貰った。一つ目の依頼は無事終えた。
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