「ごめん、ミク。……本当に悪かったと思ってるよ」
ミクの横に両膝をついて反省の弁を述べていたのは、カイトだった。
青い髪に青い瞳の、男性型として作られたボーカロイドである。その整った顔立ちの中で線を引いたように見える、細い柳眉が八の字を書いた。
それは言葉通り――いや、言葉以上に申し訳なさそうな表情で。ちらりと見やったミクは許してやろうかという気持ちを強く揺さぶられたが、すぐにきゅっと口を真一文字に結びなおし、両膝も抱えなおしてそっぽを向いた。
「ふんだ。お兄ちゃんなんて知らない」
「そんな……俺だって仕方なかったんだよ」
視界の外にある彼の顔は見えない。が、申し開きの声音はさも『だから許してよ』と続けたそうに耳へ響いた。
ミクは、その言葉を封じるように勢いよくカイトを振り返った。
「何よっ、自分が悪いのに言い訳するのっ!?」
と。
コバルト色の瞳が大きく見開かれ、下がる一方だった目尻がきゅっと吊り上った。
「――……っ、言い訳じゃなくて本当のことだっ!」
2人の問答が始まってから、初めて放たれたカイトの反論。
しかし、それも頭に血が上ってるミクには何ら抑止力を持たない。むしろ言い返してきたカイトを大きなエメラルドの目で睨みつけて、さらに声を大きくした。
「逆ギレするんだ! お兄ちゃんってそーいう人だったんだ!」
「逆ギレ!? それはミクの方だろう! 俺の話をちっとも聞かないで!」
「ちゃんと聞いてるもん! 聞いて怒ってるんだもん!」
「あぁそう! じゃあ俺は一体どうすれば良かったのか教えて欲しいねっ」
大音声で言い合っている間に、2人の顔の距離が徐々に狭まっていく。
もっとも、お互いがそれに気付いたのは鼻先がぴたりと触れ合ってからだった。怒りの刺々しさとは真逆なやわらかな感覚とぬくもりに、2人同時にはっと口をつぐみ――これまた全く同じ速さで――顔を離す。
コバルトとエメラルドの双眸は相手の顔を映したまま数度まばたきをしたが、少しだけ目をそらして気まずそうに口を開いたのは……カイトの方だった。
「だって仕方ないだろう? ……マスターが、どうしてもネギ焼き食べたいって言うんだ」
そらされた視線にならうように、ミクもカイトから視線をはずしてぽそり応える。
「でも……あれ、私が取っておいた大事な下仁田ネギだったのに……」
「わかってる。だから――……ごめん、ミク」
怒る前と同じトーンまで下がった声。ミクがゆっくり視線を正面へ向けなおすと、申し訳なさそうな顔に戻った、兄らしい顔があった。
さっきまでは見ていても苛立ちしか沸かなかった、その表情。
しかし今は不思議と心が和らいでいて、ミクはちょっとだけ笑ってみせた。
「……一緒に買いに行ってくれる?」
100パーセントの笑顔ではなく、誰が見ても苦笑ぐらいにしか見えない程度の微笑みだったが、それでもカイトには十分だったらしい。
相好を崩して長い腕を伸ばしたかと思うと、ミクの細い体をぎゅっと抱きしめた。
「もちろん! ありがとう、ミク」
「ううん。私こそ、ごめんなさい。お兄ちゃん」
言って軽く頭を下げようとした。だが、身じろぎする隙間もないほど抱きしめられていた為に、目の前のカイトの胸元に額をこすりつけるだけで終わる。
と、カイトの体がくすっという小さな笑いで揺れたが。
――それがどういう意味で発されたのか――
続けて髪にそっと押し当てられた柔らかな感触に自然と目を瞑ったミクは、問う気にもなれずに、ただカイトに身を預けていたのだった。
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ご意見・ご感想
アルクレイン
ご意見・ご感想
>甘音さん
はわわわ……あ、ありがとうございますっ(*ノノ)
即興で何書こうと思ったらこんなネタしか浮かびませんでしたが、お楽しみいただけたなら幸いですー!
ネギとアイスでの喧嘩は日常茶飯事な設定です。
特に下仁田ネギとダッツは貴重なので、毎度本気の喧嘩が勃発しますww
コメントありがとうございました!
2009/05/11 18:42:18
甘音
ご意見・ご感想
アルクレインさん、大好きです。
二人がかわいいですね。
ていうか、喧嘩の原因、ネギww
いえ、ミクにとっては一大事ですね!そしてきっとKAITOもアイスの事に関しては同じようになるのでしょうね。
そんな二人が大好きです。
2009/05/10 22:07:01