しゅんとしたまま、カイトはしかられた子供のようにうつむいて、ぼそぼそと話をしていた。
「…で?」
 頬杖をついていかにも不服そうな表情でキカイトが続きを促した。
「いや、だから、その…。本人の意思を尊重して…」
「言い訳や建前はいりません!…結果を報告してください」
「…レンを、人間界においてきました…。スイマセン」
「…まあ、君に行くように促したのは私ですし、君が王子の意思を尊重しようと考えていることも知っていますし、王子が戻ろうとしないだろうとは思っていました」
 あきらめたとでも言うようにキカイトが深くため息をついて、回転椅子をキィキィと鳴らしながら一回転した。その言葉を聞いて、カイトは嬉しそうに、まるで子犬が尻尾を振っているように笑顔で、弾むような声で言う。
「じ、じゃあ、許してくれま…っ」
「許すと思います?」
 苛立ちと不満と悪意が入り混じった引きつった笑顔で、キカイトはカイトの言葉をさえぎった。
 瞬間、カイトの顔がこわばる。それを楽しむかのような不敵な笑みで、キカイトはカイトをみあげ、白いシルクの手袋をつけたままの割合大きな手につかんでいた万年筆を、表情一つ変えずにへし折った。…正しくは、カイトが「レンを人間界に」といった辺りで、すでに万年筆にひびが入っていたことを、カイトは知っている。
「…そうですね、どうしましょうか」
「な、何を…」
「勿論、決まっているでしょう」
 さも嬉しそうに爽やかな笑顔で、キカイトは答えた。
「お仕置きですよ」

 そのころ、レンは今までにない経験をしていた。
「い、いやっ!あの、じ、自分で着れますっ!いや、むしろ着ます!出てってくださいぃ!」
 それは、メイドたちの『身の回りのお世話』、というものだった。王子サマなのだからそんなことはいくらでも、と思うのだが、この王子様にあるまじき身勝手な自由奔放な性格から、レンはメイドや執事に身の回りの世話をほぼさせたことがない。させたことがあるといえばあるのだが、決して身体には触らせない。虫唾が走るのだ。男であろうと女であろうとどちらでもなかろうと、親戚だろうと友人だろうと関係はない。絶対に、触れさせたくない。もはや人間(ヴァンパイア)アレルギーとも思えた。
 どうにかしてメイドと執事たちを部屋の外に追い出し、着替えを始める。着慣れない素材やらデザインの服ばかりで、どれを着ていいのか、正直迷ってしまって、結局着替えるのに三十分もかかってしまった。
「あ、おはよう、レン?」
「んあぁ?…ああ、おはよう」
 兎に角起きてきた、というように髪をぼさぼさにして、あたかも不機嫌そうに返事をしてから挨拶をして、レンはリンが座っているソファの端のほうにすわった。
「何食べる?パン?ご飯?麺ものはないよね。…あ、血はダメだよっ」
「腹減ってないからいらない。もう一回寝る」
「ダメぇ。あ、髪、結んであげるよ。ほら、後ろ向いて」
 そう言ってレンからヘアゴムを受け取り、レンに背中を向けさせると、うつらうつらし始めたレンの頭を押さえながら器用に髪を結い始めた。きれいな金髪の一本一本が透き通るような光をもちながら、まとまりを持ったように滑らかにリンの指先をすべる。
 黒いヘアゴムと金髪の対比が美しい。
 何度か結い直して、五度目にやっと綺麗に結えた。自然とリンの表情が明るくなった。
「レン、できたよ。綺麗に!」
「…」
「レン?」
 返事がないレンを不審に思い、リンがレンの頭をしっかりとつかんで顔をぐっと自分のほうに向けさせると、レンは、
「…ぐぅ」
「…コイツ…寝てる…っ!!座ったまま寝るって…器用…」
 唖然としたままリンが手をどけると、レンはバランスを崩してリンのほうに倒れてきて、リンが上手くそれを受け止める。結局、レンはリンの肩にもたれてぐっすりと眠っていた。

「――リン、ここにいるの?」
 しばらくして、メイコが部屋のドアを開いた。大きなドアを押し開け、中に入ってきたメイコは驚いた表情を見せて、それから優しげに微笑んだ。
「――何であんなに仲良くなるのかしら」
 あんなにくっついて寝て――。などと思いながら、メイコは毛布を出してきてそっと二人にかかるように優しく毛布をかけた。先ほどのカイトが犬であるならば、この二人はまるで双子の子猫のようでもあった。

 高いヒールの音が廊下に響き渡る。
「…どしたの?」
 少年が聞いた。
「むしゃくしゃしますわっ!あんの変態、セクハラしか能がないのでしょうかっ!?」
「ああ、今回の同盟の件?仕方ないよ、気にすることはない」
「…ルキはいいですわね、いつも冷静で。でも、たまには一気に行動を仕掛けたほうがいいですわ」
 軽いアドバイスのつもりでいった女性は、少年の前を通り過ぎた。
「…」
「…ルキ?どうしました?いかないんですの?」
 そういって振り返ろうとしたとき、視界が暗くなった。
「る…っ」
 女性の手を強く抑え、壁に押し付けられた状態の女性は少し痛そうに顔をしかめて、先ほどの怒り顔とは打って変わって不安そうな顔で少年を見上げた。
「…一気に行動を仕掛ける…こういうこと?」
「…ルキ、離してください」
「…ああ、ごめん。じゃあ…あとで」
 少年は微笑んだ。女性は無理やり微笑を返した。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

遠い君 7

こんばんは、リオンです。
今日は特に話題もなく…。
リ「りーんりーんにしーてやんよー」
レ「や、やめろよ、何があったんだよ!?(汗」
メ「…やめなさい、恥ずかしい」
カ「リン、さすがにいきなりそれはどうなの」
ル「ミクからもいってやりなさい」
ミ「リンちゃん、違うよ。『みっくみっくにしーてやんよー♪』だよ」
リ「そっかー」
全「違う。」
そんな今日のボカロたち、今日も元気に生きております。
…次のボカロは一体どんなものだろう。個人的には三つ編み推奨です。
では、また明日!

閲覧数:317

投稿日:2009/12/08 23:23:18

文字数:2,189文字

カテゴリ:小説

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