これは、遠い、遠い笑えない話。
奔放な君はきっと、いつか僕がいなくなったら、なんて事これっぽっちも
考えもしてなかったんだよな。
でももし、僕がいなくなったら、深い、深い森に落ちた君は、
一人で行くんだぜ。

繋いだ手には柔らかな体温。それを感じてる時間、僕は幸せだったぜ。
でも、握った指がゆるり、ほどけたら、枯れた音色の鐘が鳴ったら、
君は一人で行くんだぜ。
あの時そんな話をしながら歩いた影は、手を繋いでたから一つだった。
でももう、また会えるって君に嘘をつく声も、絶え絶えになった。

ふいに立ち止まって、二人うつむいた。両手を繋いで、額を合わせて。
影は一つ。
手も、額も離して、影は一つずつ。僕だって、一人で行くんだぜ。

君が淡い恋に落ちて、高い高い崖に咲く花を取ろうとした。君じゃ届かなくて、僕も手を伸ばして。でも、届かなかった。
「届かないなあ。」そう笑いあった場所も、今度は君一人で行くんだぜ?
心細くて、寂しいのも分かるぜ。でもそれは、僕も同じ。
だから、泣くんじゃないぜ。

遠い、遠い笑えない話。いつか僕がいなくなったら深い、
深い森に落ちた君は、一人で行くんだぜ。
君はあの頃、そんなことあるばずがない、そう言って笑ってた。
でも今は、その話が本当だったんだって、身に沁みたはずだぜ。
それから一人で僕の事を探して歩いて。でも、歩いた先でも君は一人。
「絶対この先で僕が待ってる。」そんな見え透いた嘘をつくのにも
もう疲れたはずだぜ。二人で居た黄金の部屋に、
君が一人でうつむいてる姿が目に浮かぶぜ。


P.S. 僕は深い森に落ちた黒く汚れてすすけた果実みたいに、
君に見向きもされないんだぜ。
だから、もう君には見つけられないんだぜ。それで終わり、それだけの話。
君は一人で行くんだぜ。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります

Alice 古川P

古川PのAliceです。

閲覧数:477

投稿日:2009/08/28 14:56:06

文字数:760文字

カテゴリ:小説

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