この森に降り続ける雪は、僕を隠してくれる。
僕を愛さない世界から、僕が愛せない世界から。
その中央には、僕だけが住む、雪で作った家。
その中に、ポツンと僕は座っている。
それは僕にとっての日常だった。
*
凍った湖を覗き込むと、幼い僕が映っている。
あれから、10年経つのに。
僕は生涯、このままだ。
それが、魔女にかけられた魔法だった。
*
あなたは千年生きる魔女。
僕は森に捨てられた子供。
他に愛する者を知らない僕らが互いを家族のように思ったのはいつからだろう。
僕にとってあなたは、母であり姉であり親友だった。
僕は少年だった。
青年になり、老人になり、死んでしまった。
あなたは僕を生き返らせた。
出会った頃の姿にした。
禁断の魔法を使ったあなたは、今も森の奥で眠っている。
いつ目覚めるかわからないし、僕はいつまでひとりでいるのかわからない。
僕以外の人間はこの森にはいない。
孤独だから、湖に姿を映す。
僕は生きているのだろうか?
ひとりぼっちは生きていると言えるのだろうか?
*
朝が来る度、僕はあなたに口づける。
だけど、あなたは僕を見ない。
僕に触れない、話さない。
あなたは完全な眠りにつくまで、僕を離さず、「ごめんなさい」を繰り返した。
僕は、あなたが眠りについた後、「ひとりぼっちは嫌だ」と顔を歪めた。
あなたは母であり姉であり親友だったけど、今では思うんだ。
あなたの孤独を、あなたが眠るまで気づかなかった。
当たり前だと思っていたあなたの笑顔に、「ありがとう」が言えず、後悔してるって。
「目覚めてください……」
あなたに逢いたいよ、と呟いた。
*
いつの間に眠っていたのだろう。
傍らにはいつも通りのあなたがいる。
だから口づけて、哀しくなって涙。
「好きだよ。好き……」
抱きしめたら温かいあなたが好きなんだ。
*
いつかあなたが目を覚ましたら、僕は言うよ。
「おかえりなさい」と「ありがとう」を。
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