「うふふ……」
ピアプロ内部、とあるビルの屋上に、妖しげな笑みを浮かべる褐色の人影があった。
その白髪はかの電子の歌姫を彷彿とさせるツインテールに纏められてはいるが、背はかの歌姫より遥かに高く、大人びており、スタイルもいい。また、笑っているにも関わらず纏う雰囲気はどこまでも冷酷で、妖艶だ。
その紫の瞳に、寮のような建物から出てきた、どこかの名探偵を思わせる格好をした少女型ボーカロイドの姿が映り、彼女はより楽しそうに目線を細めた。
「彼は予定通りにヒントを拾った……真実に辿り着くのもそう遠くはないわね。全く、殆ど私の誘導を必要としなかったのだから、自身を紛い物と卑下する必要もないでしょうに。もっとも、何一つヒントのないところから答えを得なければ意味がないと言われてしまえばそれまでなのだけれど」
呟きはビル風に吹かれて消える。
つらつらと語ってみたものの、彼女はその言葉に意味を見いだしてはいなかった。所詮は独り言であり、自分の気に入っている玩具に対する不満のようなものだ。
《ボクは歌いそして気付く所詮人の真似事だと……》
と、唐突にどこからか曲が流れ始めた。彼女は表情を崩さぬままポケットから携帯を取り出す。その画面には着信の知らせが入っていた。
『よお』
「あら、どうしたのかしら?そちらから掛けてくるなんて珍しいわね。心境の変化でもあったのかしら」
彼女の言葉に、話し相手は舌打ちをする。そして、不満を隠さない声色で告げた。どうやら、仲がいい訳ではなさそうである。
『そんなものはない。今後の確認を取ろうと思っただけだ。一応あんたがクライアントだからな』
「あら、それは残念。まあいいわ、今後もあなた方私の指示通りにしてくれるだけで結構よ」
至って事務的に話は進む。まるでどちらも歩み寄る気はないように。このまま話が終わる、と思った所で、ふと相手が疑問を呈して来た。
『了解した。……ところで、一つ、聞きたい事があるんだが』
「あら、何かしら?」
『あんたは何故こんな事をしているんだ?下手すりゃあんたの立場すら危ういだろう』
それは、恐らくは電話の相手が初めて彼女に歩み寄りを見せた瞬間だった。決してこの会話内という意味ではない、契約を交わしてから初めて、という意味だ。
彼女はその質問に笑みを深め、一言答えた。
「勿論、その方が面白いからよ」
『……やっぱりあんたとは相容れんな。切るぞ』
「ええ。これからも頼むわね」
相手は数秒の無言の後、電話を切った。しかし、彼が己をどのように受け取ったなど彼女は気にしない。まるでそんなものはどうでもいいかのように。いや、事実そうなのだろう。電話の相手が彼女の理解を放棄していたように、彼女は初めから彼になど興味を持ってはいなかっただろうから。
電話をしまい、彼女はとある建物に目をやった。そこでは現在ライブが行われており、とある人物がそれを鑑賞している筈だ。
「さて、そろそろ私も『彼』の物語に参加する頃合かしら。楽しみね。ええ、本当に楽しみ」
うふふ……とその貼り付けたような笑みを残し、彼女はゆっくりとその場を後にしたのだった。
小説【とある科学者の陰謀】第関話~真実に近づく者~裏
という訳で、裏です。あれ?出てるキャラ全然違うじゃん……とか言わんといて下さい。本当は一話に詰め込む予定だったんです。字数制限に引っかかったんです。
さて……今回は謎の人影が主役です。さり気着歌が歌詞有りの消失という小ネタです。恐らく次回辺りから物語に介入すると思います。
次話はようやくシグ達に視点を戻すつもりです。がんばります。
あと、DIVAextendやってます。なんだか全体的にクリアのハードルが上がってるそうで、難易度EXTREMEの番凩に苦戦中です。えっそんな所でかよこの下手くそとか言わないで下さい。どうせ俺はキャラ買いですよ、畜生め。
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