翌日。
グミを加えた七人のボーカロイドが、ボカロマンションの上に立っていた。
ほぼ全方位をカバーできる位置に立って、いつでも迎撃可能な体勢だ。
しばらくの間携帯電話を耳に当てていたメイコが、ルカに向かって叫ぶ。
「ルカ!!ネルから連絡!!町民全員地下シェルターに避難完了……!!いつ始めても大丈夫よ!!」
「オッケー!!……みんな!!『心透視』広げて奴等を炙り出す!気ぃ抜かないでよ!!」
『りょ―――――かい!!』
全員の返事とともに、流歌が深く息を吸い込む。そして――――――――――
『オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッッ!!!!』
まるで獣の咆哮のような叫びをあげた!!
『心透視』を広げているとは到底思えない声量に、思わず全員がたじろぐ。
(なんて気合の入り方……!!)
(こいつは……荒れるぜ!!)
咆哮の後、一瞬の静寂が訪れ―――――
「!! そこかあああああああああああああああっ!!!!」
突如ルカが2本の鉄鞭を取り出して、跳び上がった。
そして鞭を持つ手を大きく振りかぶって―――――
『巡音流乱舞鞭術!! 龍斬鞭!!』
遠心力で鞭が剣の如く伸びるほどのスピードで振り下ろした。
木の切れる鋭い音と、地面の砕け散る鈍い音が重なる。
そしてその潰れた木々の隙間から、薄紅色の人影が飛び出してきた。
「……いろはっ!!!」
「……!!」
空中に漂うその人影―――――いろはは若干悔しそうな表情を浮かべていた。
「こうもあっさり見つかるとはね……」
「私相手に隠れんぼしようってほうが間違いなのよ。……さあ! 覚悟しなさい……闇に溺れたあんたら、懲らしめてあげるから!!」
鞭を構えなおしながら、ルカが猛々しく吼えた―――――。
その頃リュウトは、いろはが潜んでいた木で息をひそめていた。
彼の脳裏に、彼女の言葉が去来する。
『いい? リュウ。あんたはギリギリまで、絶対に出てきちゃだめよ。あんたが暴走したら、辺り一帯消し炭になりかねないんだから! あたし等の目的は町一つ吹き飛ばすことじゃなくて、静かに! 鮮やかに! 『C’sボーカロイド』をぶっ潰すことなのよ!! あたしが合図するまで、絶対に動いちゃだめだからね!!』
「……それじゃあ……ダメなんだ……!! 君を……守れないじゃないか……っ!!!」
悔しそうに握りしめたその右手には、血がにじんでいた。
「龍乱鞭っ!!!!」
ルカが吠えると同時に、荒れ狂う鉄鞭がいろはの頭上から降り注ぐ。
鮮やかに躱しながら、フォノンバスターの照準をルカに合わせた。
「喰らえバスターサウンd―――――」
「龍刃鞭!!!!」
音波が放たれるよりも速く、音速で振りぬかれた鞭から衝撃波が放たれた。
鈍い音がして、いろはの左手のフォノンバスターが砕け散る。
「ぐ……何の!!!」
ぐっ、と気合を込めると、瞬く間にフォノンバスターが再生する。リュウトほどではないものの、こちらもすさまじい再生力だ。
「大した再生力だこと……!! だけどその程度で私を倒せるか!!?」
「それがあたしの任務だ!!!! フォース・サウンド!!!!」
二機のフォノンバスターと、二機のコーラススピーカーがルカに向かって音波砲を放つ。
避けられない―――――そう判断したルカの腕が、凄まじい速度で振り上げられた。
「蛸足滅砕陣《破音》っっ!!!!!」
音もなく音波砲が8本の鞭に吹き飛ばされた後、つんざく様な破壊音と共に、獲物を襲う蛇のごとくいろはに襲い掛かっていく!!
「うわあっ!!」
当たりこそしない。だが、マッハ5で突っ込んでくる鉄鞭の先端を避けるのは、いろはでも厳しいものだった。大きく体勢を崩す。
その隙を、ヴォカロ町の天才刑事は見逃さない―――――!
「ハッ!!!」
手首のスナップのみで鞭を引きもどし、そのうちの二本を回転させながらいろはに向かって投げつけた。
きりもみ回転でいろはに突っ込んでいく二本の鞭。それを鮮やかに回避―――――
―――――したはずのいろはの体に、突然荒れ狂う鞭が絡みついた!!
「なっ!!?」
驚く間もなく―――――いろはの体は鞭と共に地面に叩き付けられる。地面と建物が砕け散り、粉々になりながら空に向かって舞い上がっていった。
その様子を、ミク達は何もできないまま呆然と見つめていた。
「な……何あれ……鞭で地面が砕け散った……!?」
「一体どうしたらあんな風に地面が砕け散るんだよ……!?」
「……まさか、ルカの奴……あの鞭を使ってるの……!?」
メイコの一言にミク達が振り向く。メイコは苦笑いと、そして同時に何か感動を覚えたような表情をしていた。
「え……どういうこと?」
「……2か月ほど前、ルカはネルに100セットほど鞭の改造を頼んだのよ。今持ってる数の半分ぐらいね。どんな改造をしてもらったのか聞いたら……これがビックリよ! 柄の部分にはネル特製の超高密度合金『ネルネル・メタル・硬』を使い、鞭の先端にも同じ金属で直径3センチ程の金属球を仕込んで、鞭本体は凄まじい柔軟さを誇る特殊合金『ネルネル・メタル・柔』で、クモの糸も真っ青の伸縮率と強度を実現したらしいの。でも何より驚いたのはその重量……すべて合わせて、一本30㎏だそうよ……!!」
「30キロォ!!!? なるほど納得……ルカさんの腕力で叩き付けたら、地面も建物もぶっ飛ぶわけだよ……!!」
リンが感心している横で、ミクはある恐ろしいことに気が付いた。
「……ん!? ちょ、ちょっと待ってメイコ姐さん!! もし今ルカ姉が使ってる鞭が、その強化鞭だとしたら……!!」
『あ……!!!』
リンとレンも気づいたようだ―――――ルカが今、成し遂げていることの真意に―――――!!
「ええ……あの子は今、最大片手で120㎏もの超重量を『操っている』のよ……!!」
全員の顔が真っ青に変わる。想像しただけで恐ろしいからだ。
ただ重いものを持つだけなら、基本は生体ロボットであるミク達は誰でも同じことができる。ミクやリンたちでも両手を使えば、200㎏以上の物も持ち上げることができる。メイコに至っては10tや20tは朝飯前だ。
だが―――――30㎏の物体を4本、『指の間に挟んでコントロールする』ともなれば、話は別だ。
例えるならば、50㎏以上のバーベルを持ち上げることができ、尚且つ繊細な作業ができる人間でも、8㎏以上の棒状の物体を4本それぞれ指の間に挟み、重りの付いた紐をその棒の先につけて、絡まないよう、そして更に相手を四方八方から攻撃する―――――などという曲芸じみた真似ができるか? ―――――普通はできない。
30㎏の鉄鞭。それを指の間に挟んで自在に操る。これを可能にするには、ミリ単位の指のコントロール、長時間金属の棒を掴んでいても衰えない握力、そして遠心力に痛めつけられない強靭な筋肉と骨格が必要だ。
作られたままの体や、天賦の才では支えきれぬ、地道な努力によって鍛え上げられた強固な肉体が……!!
「ルカ……この戦いの時のためにあんた……………!!」
―――――一体どれだけの鍛錬を重ねてきたのよ……!!!―――――
ルカは地面に打ち込まれたいろはを見据えながら、前日の事を思い出していた。
グミにリュウトの強さを教えられた時、恐怖で震えが止まらなかった。
死ぬかもしれない。いや間違いなく殺される。そんな恐怖が、体中を駆け巡っていた。
だけどマスターの―――――アンドリューの言葉を思い出したその瞬間、続いて思い出したことがあった。
警察学校での訓練。
16年間町を守ってきた中で生まれた確かな業。
強化鞭を得てから鍛え上げてきた力。
そうだ。思い出せ。自分には己が身を支える力がある。地道に高めてきた力がある。
――――――――――もう、ルカは恐れない。圧倒的な力も。絶望的な状況も。
なぜなら彼女には、経験と、強い想いに裏付けされた“力”があるのだから――――――――――
「―――――さぁ!! 立ちなさいいろは!! あなたは私たちがこの手で倒す!! そして救ってあげる……邪悪な魂を持つ者から!!!!」
仔猫と竜とEXTEND!! Ⅶ~激突!! VOCALOID軍団①開戦~
激戦の始まり!!
こんにちはTurndogです。
いやー長らく止まってすんませんwww少しほのぼのして気持ちを落ち着けてきましたww
というところでルカさんがいきなりパワーインフレしてます。
鞭についてはかなりあ荘での話を覗いてくれば『ああ、あれか』って話になるよ。
鉄の棒を指の間に挟んでコントロール……普通なら指が潰れますね。流石ルカさん何ともないぜww
さあ、ショータイムの始まりだ!!
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ご意見・ご感想
しるる
ご意見・ご感想
しばらくみないうちにこんなことになってたのね
いろはの感じとかを見ると、どっちがいじめているのか……
ルカさんがドSに磨きがかかったことで、ちょっといろは側に同情票
2013/12/07 19:22:47
Turndog~ターンドッグ~
こんなことになっております!
ま、まぁルカさんはもとより真正のドSだから……w(真正の変態が何を言うか
2013/12/07 20:00:42