「あーぁ、シチュエーションだけは完璧なのにな」
しんと静まった深夜。
頭上には無数の星々。
買ってくれた缶コーヒーはすっかり冷たくて。
あたしと君はふたり、ベンチに並んで腰かけている。
さっきからの沈黙に耐えかねて、あたしは一人ごちた。
隣の男にもちゃんと聞こえるように。
「……ごめん」
低く、呟かれた。
べつに謝って欲しいわけじゃない。
答えはわかっていたんだし。
だてにずっと見てたわけじゃあないんだよ。
「ねぇ」
正面を向いたまま、隣の男に呼びかける。
「ありがとう」
彼はこっちを見た、気がする。
そんな気配。
でも、ごめんね、あたしはまだ君を見れない。
「あたしの気持ち、聞いてくれてありがとう」
ここで君を見てにっこりほほ笑むことができたら。
かなりの出来た女なんだろうな。
そんなこと思いながら、でもあたしは正面を向いたまま。
声だけ思いきり明るくして。
「俺も、ありがとう」
しばらくの間のあと、ぽつんと声が聞こえて。
あたしの頬に一筋の水が伝った。
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