「じじ抜き、しませんか?」

シンプルなトランプを片手にそう喋りかけて来たのは泣いてばかりいたアイツ。いつも僕の隣にいた君だった。いつ泣きやんだのか、あんなに泣いてたのに、耳を塞ぎたくなるほど五月蠅かったのに。いつからそんなにへらへら笑うような顔になったのだろうか。

「良いですよ。暇ですしね。」

そんな僕は少し作り笑いで君に返事をした。楽しそうな君の笑顔に少しイラっときた。そんなにへらへら笑えるなら、ゲームで泣かせてやる。いつものように。

「貴方にシャッフル任せます。」

「あら、どうも。」と僕はカードを受け取り切り始める。しゃしゃとカードとカードの擦れる音が静かに響く。その間にも君はテーブルに膝を付きカードを切ってる僕を見てヘラヘラ笑っている。

君にカードを帰し、君はカードを裏返したままテーブルに1列にならべた。


「1枚、抜いて下さい。じじを決めましょう。」


無駄に奇麗に並べられたカードから1枚抜いた。抜いたカードは僕の手の中で燃えて灰になる。「これでじじは分かりません。」と君は言い、絶えない笑顔を僕に見せつけた。

君はシャッフルして順序がバラバラになったカードを僕と君の2人分に配りはじめる。手元カードを見て既に揃っているカードを捨てていく。淡々と燃えていくカード。不思議と机は焦げない。

「さて、始めましょう。お先どうぞ。」

相変わらずの笑顔で僕に最初の番を譲った。

「あーあ、最初から手札が少ない…。これじゃすぐ終わってしまいますね。今回は何処までもつか…。見物…、ですね。」

君は手札を見てクスクスとカードを並び変えている。少ない手札にも関わらずあっちにこっちにと何度も並び変えてはクスクスと笑い続けてる。

「……んふ、気になりますか?私の手札…。」

君は手札をチラつかせる。が手札の中身は上手く僕には見えない。焦らし焦らす君に飽きて、質問に答えるように僕は軽いため息をついた。

「あははは、ごむんごめん。さぁ、引いて。」

察してくれたのか君はやっと手札を僕に差し出す。君の手札は5枚。僕が静かにカードを引こうとすると君はカードを掴む力を強める。

「それで、良いの?」

僕の顔を覗くように語り掛けてきた。無言のまま僕はカードを引き抜き、そしていつものようにカードは燃えて消えた。

ハートのJ。恋のナイト。

「あー、恋のナイトが萌えちゃった!」

あははと笑っている。先程までの笑顔ではなくて、ただ単純に面白い事に対して笑ってた。

「萌え……っふ…、カードが燃えて萌え、なんちゃって。」

笑い涙を拭いて君は言った。面白くないよ、と内心つぶやく。僕は真顔のまま君を眺めた。「んー」と君は少し悩んで僕の手札からカードを一枚引いた。

「…君ってさ、そんなに笑わないものだったけ?ッムスとしちゃってぇ。……『笑の神様』なのにねー(笑」

最後の「わら」まで君は丁寧に言う。

「人の事言えないでしょ。へらへら笑っている『涙の神様』には言われたくないよ。」

君の手札からカードが2枚、スペードの8がテーブルの中央に投げ出され燃え消えた。

「そうだね。君の苛々は私の態度のせいかな?さぁ、君の番だ」

君の手札には3枚のカード。その内、真ん中のカードを掴んだ。引こうとしたら君は先程より強くカードを握った。僕が引き抜けない程、力強く。

「ふふ、それよりさっきの君の発言!人の事て、いったい私達神様は『人』なのだろうか?『人』と言う人種に捕えられるのだろうか?下で生きてる者達に見れば私達はふわふわした存在だ。居るか居ないか、はたまた、あるかないか。私達は何かで数が例えられるだろうか?疑問所だ…。」
「……。」

何も言わずにカードを引いた。ダイヤのK。紅く染まった醜い王座。

「あー、紅いキングもじじじゃなかったかぁー。私の手札ももう2枚…。次の駒がもう決まっちゃうね!早い早い!」

楽しそうに君は言う。その駒を決めるためだけに僕を巻き込み憎たらしい笑顔を見せ付けてくる。これほどまで誰かを憎むことはない。

「んー、前回の駒はつまらなかったし。今回は面白いカードが残ってるね!」

もう残り手札を見れば相手が何を持っているのか考えなくても分かる。僕の手札には、クローバーのK、ハートのA、そしてもう一枚…、そう〝じじ〟がある。

「キングにエース、中々いいカードが残ってるねぇ…。でもぉー、君の手札が3枚あるって事は、この2枚は〝じじ〟じゃないって事だよね。一体、何のカードがじじなのか…、気になるなぁ」

肘を付き顔を覗いてくる。僕は自分の手札を見て考える。どうすれば〝じじ〟を引かれないようにするか…。

「ねぇ、引いていい…?」
「いいよ。」

ゆっくりと手札を君に差し出す。

「真ん中は引いちゃ駄目だよ。真ん中は。」

僕は真ん中を強調した。君はどうでるか分からない。だが僕は君の顔を見ず手札の真ん中だけを見続けた。

「……ハメるつもりぃ?何とか効果ってあったよね。〝やるなと言われるとやりたくなる〟だっけ?でも私達は神様だ、ヒトの手口なんて効かないよ」

やっぱり…、後は運を信じるしかないか。神様が運頼み…、面白い話しだなあ…。

「でも、君が引いて欲しいなら素直に引いてあげるよ。最近は暇だからね。何か面白い事を考えてるなら、乗ってあげるよ…?」

面白い事か…、君が思う面白い事と僕が思う面白いものは多少異なるかもしれないが、でも僕にとって面白い事だ、嘘じゃない。

「面白い事だ、革命を起こすよ」

君は今までにない笑顔を僕に見せた。面白い事を見付けた笑顔。期待に満ち溢れたその笑顔。……だから、君に笑顔は似合わないよ。

「さぁ、早くカードを引きなよ」

ゆっくりと抜かれて行くそのカード、クローバーのK。自然を愛した傍観者。

引かれたカードはいつものように机の真ん中で燃えて灰になる。

順番通りに行けばこの番で君がカードを引き、僕の手札に〝じじ〟が残る。君がじじさえ引かなければ上手く行く。


「さぁ、君の番だ。カードをお引き。」


君の笑顔は耐えることなく続く。そろそろ疲れないのか。無理に口を上げ目を開く。そんな偽の笑顔。今の僕と同じ、君の笑顔は作り笑い。そんな偽の笑顔。今の僕と変わらない、目だけは笑ってない。

「どっちがじじかなぁ~」

僕らのじじ抜きは勝ち負けを競うゲームじゃない。

「右だ、右を引きなよ。」

僕らのじじ抜きは、次の駒を決めるためだけのゲーム。暇潰しさ。


「どっちを引いても、結末は変わらないよ。君は何を企んでいるんだろうね!」

君は優しいんだね。

引かれたカードは……、君側から見て右のカードがゆっくりと引かれていった。


君の手札からハートのエースが燃えて消えた。

「……じじが決まったね。さぁ、じじカードを見せてくれ!」


君の期待に答えられるか分からないけど、僕はこのカードに期待を掛けている。
裏側にしたままカードを机に置く。僕がカードから手を引くと君はゆっくりとカードを裏返した。


そしてようやく、君の顔から笑顔が消えた。

泣いている顔ではない。絶望でもない。驚いているわけでもない。単純に、今の現状が理解出来ていない。がために笑顔を作ることを忘れているのだろう。

逆に僕は……。


「なに…、笑ってんだよ…?」


僕は笑ってた。

これは勝ち負けを競うゲームじゃない。次の駒を決めるためだけの暇潰し。

巡り巡る1人のヒトの次の運命を決めるための暇潰し。別にじじ抜きをしなくても運命は決められるが、只の暇潰しの為だけにじじ抜きをしている。じじ抜きをして、じじとなったカードが次の運命。クローバーのKなら自然を愛す傍観者。別にダイヤのKなら刺々しい支配者。

そして今回、最後に残りじじとなったカードは…。


「無地の…カード……が今回の…、じじ?」


僕は小さく頷いた。

「それは予備カードだよ。無くなった時にそのカードを使う。無くなったカードの記号と番号を描き無くなしたカードを代用するための予備カードさ。何百年、君は下を見ていながらこんなことも知らなかったのかい?」

まぁ、君が用意したカードには入っていなかっただろうけど。あぁそうさ。イカサマをしたよ。神様だってイカサマをするさ。

カードを引くフリをして、その時に僕が用意した予備カードを入れた。と一緒に予備カードを引いた。デッキの中には予備カードが1枚。正直、カードを配る時が一番心配だった。もし君の手札に予備カードが行ってしまったらすぐバレてしまうからね。

たが、最後の最後まで運は僕に見方した。君には運も、もうウンザリだったみたいだね。

「……、どういうつもりかな?」

あぁ、ほらまた笑う。君には笑みは似合わない。そんな目をしながら笑わないの。

「さぁ、気紛れさ。」

僕は笑いながら答えた。
.喫襾 04/03 09:06 削除
 

「僕は君が気に入らなくなってしまってね。笑うな、とは言わないけど、君には笑みが自然と身についてしまってるみたいでさ。」

君は真顔のつもりでも、身についてしまった癖は正直に現れる。考えていなくても体が先に動くようにその笑みが離れなくなった。

「……、こうなったのも、君が1人のヒトで遊ぶ様になってからだッ」

さぁ、下に居るヒトの運命もココまで。この先からはまだ真っ白な未来。君の自由で未来は変えられる。君の自由だ。神に縛られず、ENDを迎えたまえ。

「嫉妬かあい?私に相手されなくなったからって、下のヒトに嫉妬とは神様も寂しくなったものだ!」

「君も哀れだよ。ヒトからの守護がなくなったからって、1人のヒトを作って死んではまた作る。何度も何度も巡る1人のヒト。しかも……毎回BadENDだ…。報われないヒトを見て何が楽しいんだ。何で笑ってるんだ…ッ!」

必然的に作られて、毎回BadENDで終わるヒトを何百年と眺めて君は楽しんでる。

「僕は予備カードに運命を託した。何にも縛られずに未来を描く白い未来。HappyENDを迎えて終わりにしよう。」

カードを手に乗り息を吹き掛けた。そうするとカードはたちまち青い炎となり1本の蝋燭に灯火が付く。



今、下で1人のヒトが生まれた。



「一緒に眺めないのかい?涙の神様さん」

君のその涙は、悔し涙かい?
君は弱虫だからね。ちょっとした事で泣くんだ。でも、そんな君が僕は好きだ。


不思議だ。予備カードのヒトは傍観者に似てる。いや、あれは傍観者と言うより〝凡人〟かな?
なんにせよ、ENDが楽しみだね。



        - END -


ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

神様のじじ抜き(小説)

地上にて、神様の暇潰しの為だけに作られる1人の人間。
その未来も運命も、1人の神様によって縛られる。
決められた道、変わらない未来、どうしようもない終わり。

そんな1人の人間の人生が大きく変わる、数秒前の話し。

閲覧数:113

投稿日:2012/08/01 00:01:03

文字数:4,405文字

カテゴリ:小説

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