halPの「恋するアプリ」に泣かされて、書いてみた。
「恋するアプリ」「恋するアプリ(修正版)」をモチーフにしていますが、
halP本人とはまったく関係ございません。
アプリ設定について本気出して考えてみた結果がこれだよ!

******

【捏造設定】 恋するアプリ 【ver.text】



2.What’sこの感情

「マスターに会いたいって、おもう?」
「なによ、急に」
 こんな風におれの質問から話をはじめるのはもう日常茶飯事になっていた。長い時間屈んで、冷蔵庫とその脇にある棚の中を覗いていた姉さんは、たぶん家にあるお酒の種類と残量と、今日のむ分の計算をしていたにちがいなかったのだけれど、おれはかまわず質問を続けた。
「やっぱり、生身で会いたいって、おもう?」
「そりゃあ当然おもうわね」
「それは、なんで?」
「なんでって……そうねえ」
 姉さんは冷凍庫からアイスを取り出し(おれは素直に受け取った)、棚から日本酒と徳利・お猪口のセットを取り出して、テーブルのいつもの席に腰かけた。棚の引き出しからスプーンを取って、おれも彼女の向かいに座る。
「あんなにいい曲を書く人なのだもの、一度『生の声』で話を聞いてみたいわね。……ディスプレイの向こうからの声を聞いているだけじゃ、やっぱり、すこし味気ないもの」
「ふぅん、なるほど……」
「なに、カイトは会いたくないの?」
「会いたいよ。いろんなことをおしゃべりして、できれば一緒に歌いたい」
「それはどうかしら……マスター、あまりうたうのは得意じゃないみたいだけれど」
「でも、しょっちゅう友達とカラオケに行っているじゃない」
「それをいうなら、ライヴだの演奏会だのにかける時間の方がよっぽど多いわよ」
 おれたちの持ち主がどんなひとなのか、知る方法はたくさんある。パソコン本体の登録情報だったり、メールや文書の署名だったり、このパソコンはいわばマスターの個人情報の宝庫なわけだから、探せばいくらでも情報はみつかる。それに、マスターがおれたちを――ボーカロイドを使用するとき、おれたちにもマスターの姿が見えるし、声も聞こえる。会話することだってできる。基本調声はマスターがエディターで行うこともできるけれど、おれたちのマスターは、ボーカロイド相手にじかに声をかけ、ああでもないこうでもないと指示を出すことの方が多かった。休憩には雑談を挟み、マスターの人柄をうかがうこともできた。
 けれどそれはつまり、おれたちにはマスターがボーカロイドエディターを開いているときだけしか、マスターの姿が見えないしパソコンの外の音が聞こえない、ということを意味する。マスターとの接点は、マスターがおれたちを呼び出したときにしか通じない、一方通行。それがいいとかわるいとか、思ったことはない。ただ、すこしだけ不便だなと思うことはあるけれど、結局現状に特に不満はない。
 だって、おれたちは、アプリケーションソフトウェアだから、マスターの呼び出しに応えるのは当たり前のこと。
「……姉さんは、実際にマスターに会いたいとおもう」
「うん。まあ、できればの話ね」
「姉さんは、マスターがすき?」
「なにをいまさら。当たり前じゃないのよ」
「じゃあ、それは恋?」
「……っ、ごほ、けほっ!」
「ね、姉さん、なんでいきなりお酒吹き出すの! ほら、布巾!」
 姉さんはおれの手渡した布巾で口の周りを押さえ、睨むようにこっちを見た。
 はて、おれは何かしただろうか。また姉さんを何か怒らせるような質問をしただろうか。だとしたら何がひっかかったのだろう。おれがおろおろと視線を泳がせているうちに、姉さんは復活し、居住まいを正していた。姉さんが、こほんと咳払いをひとつ。おれは、内心ひやひやしながら、姉さんの顔色を窺った……けれど、その表情はなんとも微妙で、敢えて表現するなら「こいつどこかエラーでもでたのか」くらい思っていそうな顔だった。
「カイト、その論理はどこからでてきたわけ?」
「お、おれ、なんかまた変なこといった?」
「いいから。なんでそうおもったの?」
 口調はきついが、怒っているわけではなさそうだ。おれは、安心してわけを話すことにした。
「今日、マスターにもらったうたの、歌詞で……たぶん、そういうことだとおもうんだけど……」
「どんな歌詞? 私にも見せてみなさいよ、その歌詞」
「うん。ちょっと待って。部屋から取ってくる」

 その日、おれは初めてマスターからソロ曲をもらって、うたってきたのだ。ディスプレイの向こう側で、マスターは、はじめてかいとくんのために書いた曲だからな、と、意気込んでいた。しっかり調声するからね、と。それまで、姉さんの曲のコーラスを担当したことならあったけれど、ソロ曲をもらうのははじめてだったから、おれはとても嬉しかった。俄然張り切ってうたったら、マスターはおおベタ打ちでもなかなかじゃないか、といって、くすっと笑った。それがとても嬉しくて、もっとたくさんうたいたかったのだけれど、それは時間がゆるさなかったらしく、マスターの弟さんの「ごはんだぞー」のひとことで、マスターはエディターを閉じ、パソコンの電源を落とした。
 うたっているときは、うたえるのが楽しくて、ひとりでうたうのがどきどきして、マスターが喜んでくれるのが嬉しくて。でも、はたと冷静になったとき、歌詞の意味をきちんと理解していない自分に気がついた。
 おれは、「恋心」を知らずに、「恋の歌」をうたっていた。

 部屋から持ってきた楽譜と歌詞を姉さんに渡すと、姉さんはざっと目を通してから、もう一度、丹念にその楽譜を読みこんだ。そして、二度目の通読が終わった後、またタイトルページを表にして、おれに問いかけてきた。
「カイト、さっき私に『マスターへの好きは恋か』って訊いたわね」
「うん」
「答えはノーよ」
「ちがうの?」
「マスターのことは尊敬しているけれど、それは、敬愛とかそういった類のものよ。恋とか愛にも、いろいろあるのよ。血のつながった者同士でも、親に対するきもちと、きょうだいに対するきもちは違うというもの」
 カイトだってそうでしょ? と問われて、返答に困った。何と何を、あるいは誰と誰を比較すればいいのか、わからなかったのだ。おれには、血のつながった……というより、血が流れていないし、親といわれてもピンとこない(ボーカロイドを開発した会社を親と呼ぶこともできるだろうけど、それはなんとも味気ないようにおもえたのだ)。おれが便宜上「姉さん」と呼んでいる彼女だって同じだ。おれが彼女を「姉さん」と呼ぶ理由は、彼女がおれより先に発売されて、おれより先にこのパソコンにインストールされたっていうところに尽きる。だから、姉さんとおれは厳密にはきょうだいではなくて(余談だが、おれと姉さんの開発時期はほとんど一緒、というか同時だったともきく)、おれが姉さんに対して抱くきもちと、なにを比べればそれがどんなふうに違うのだとわかるのか。
「……よく、わかんない」
「そう? うーん……たとえがわるかったかしら」
 この1ヶ月で、姉さんはおれの思考能力を的確に把握していた。考えを読まれている、なんておもうことすらしばしばで、でも、姉さん以外のアプリケーションとの会話の端々から想像するに、もしかしたら姉さんも、おれと同じような経験をしていたのではないかとおもう。
「じゃあ、こう考えてみなさいな。カイト、マスターは好き?」
「うん」
「他のアプリケーションは? 好き?」
「好きだよ。みんな優しい」
「それなら、マスターに対する『好き』と、他のアプリたちに対する『好き』は、同じ?」
 どうだろう、と、首をひねった。マスターは優しい。売れ行きのよくなかったおれを買って、うたわせてくれているし、うまくうたえばほめてくれる。いろんな話をしてくれるから、おれはマスターが好きだ。他のアプリたちも、おれの知らないことを教えてくれたり、いろんな話を聞かせてくれたりする。彼らもおれがうたっているのを聞くと、ほめてくれたり冗談交じりにけなしてきたり、気のいい奴らだ。でも、マスターのようにおれをうたわせてはくれないし、なんていうか、アプリたちにほめられるときと、マスターにほめられるとき、おれの感じ方は少し違うようにおもう。
 アプリたちにほめられても、もちろんうれしい。けれど、マスターにほめられると、うれしいと同時に、すこしだけくすぐったくなる。そこから導き出される結論は。
「……違うと、おもう」
「でしょ。相手が違うと、それぞれに対するきもちは、同じ『好き』ってきもちでも、少しずつ違ってくる。私がいいたいのは、そういうこと。あとは、自分で考えなさい」
「うん、ありがとう姉さん。やっぱり姉さんは頼りになるよ」
 とっかかりができたようにおもった。姉さんは、こういう教育者としての采配や、タイミングを読むすべにも長けている。姉さんが「考えなさい」というなら、ここからは、おれが自分で考えなければならない問題なのだろう。きっとこれがわかれば、歌詞の意味もすこしは理解できるのだろうか。
「ねえ、恋についてもなんについてでも、考えればわかるものなのかなあ?」
 思うより先に口をついてでたのは、純粋な疑問だったけれど、それをきいた姉さんは、目を丸くして、それから
「あんた、わりと簡単に核心を衝くわよね」
 すこしだけ複雑そうな苦笑を洩らしたのだ。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい
  • 作者の氏名を表示して下さい

【捏造設定】 恋するアプリ 【ver.text 02】

halPの「恋するアプリ」に泣かされて、書いてみた。
怒られたらどうしよ……いや、泣いて謝ることにしますっ……!

******

どうしよう、未来(さき)が見えない。

実はモノカキ歴(ぴー)年ながら、今まで「勝手にキャラが動く」っていう物語の
書き方をした経験がなかったつんばるです。だいたい大筋とかテーマが決まったら
割とあっさりラストも思い浮かぶたちだったので、今この先が見えない状況を
楽しんでいいやら恐れればいいやら……!
脳内で勝手にキャラが動いてくれるたちの作家さんたちを心底尊敬します……!

とりあえず、今すごく脳内かいとくんがぬるぬる動いてますので、いまのうちに
できるだけ書き溜めます! ほんとうは脳内めーこさんもぬるぬる動いてほしいのに、
めーこさん全然動いてくれなくて困ってますけど書き溜めます!(いいのか?

******

つづくよ!

閲覧数:577

投稿日:2009/06/20 03:38:22

文字数:3,891文字

カテゴリ:小説

  • コメント4

  • 関連動画0

  • つんばる

    つんばる

    ご意見・ご感想

    コメントありがとうございますー!

    おおお、西の風さんも「恋するアプリ」で書いてらっしゃるんですね! ぜひ読んでみたいです……!
    私が書くと、「恋するアプリ」ですらなんとも迂遠な話になってしまいます……こういう方向でしか
    表現できないじぶん……!(悔) こんなのでも刺激になったならよかったです。

    まだまだ「恋」がわからないかいとくんに振り回されてる感じですが、頑張ります!

    2009/06/21 16:56:53

  • 西の風

    西の風

    ご意見・ご感想

    まさに丁度「恋するアプリ」を聴いていて思い浮かんだイメージを文章に整えていたので、吃驚して突撃に来てしまった西の風ですスミマセン。
    こういう表現の方向は考えもしていなかったので、ひたすら感嘆させて頂きました。
    良い刺激を有難う御座いますっ。

    続きがどうなるのか非常に楽しみです。頑張って下さいねっ。

    2009/06/20 21:21:40

  • つんばる

    つんばる

    ご意見・ご感想

    コメントありがとうございますー!

    長い間お待たせしました、こちらこそ何度も先延ばしして申し訳が……あわわ、昇天しちゃダメ、ぜったい!
    ほんと、「カイメイ」と「アプリ設定」から連想した曲が恋するアプリって、安直もいいところですよね!
    たすけさんは先が見えないといいつつ物語がきちんとすっきりまとまっているからいいんです!
    私の脳内キャラはいうこときかないどころの話じゃなくて、もうなにしてんだオマエっていいたい……。
    でも私もいつも作りこんでいるわけではなくて、書きたいシーンや言わせたい台詞を矛盾なくつなげるには
    どうしたらいいかな、と考えながら書いているだけなのです……キャラが動く感じとはちょっと違うけれど、
    結局ラストは最初に考えたものと違ってきたり、最後になるまでわからなかったりしてます(苦笑

    がんばります!

    2009/06/20 21:11:04

  • +KK

    +KK

    ご意見・ご感想

    こんにちは、早速やって参りました+KKです。
    アプリ設定・・・!wktkしながら待っていましたとも!それなのに遅くなって申し訳が・・・(一度昇天すればいい
    曲が曲なだけに、大変そうですね。でもつんばるさんですから・・・!期待してます。
    説明というか後書きというか・・・見ながら思ったのですが、毎回先が見えずに書いてる自分は一体どうなるんでしょうか・・・そのせいで毎回ひぃひぃ言うハメになる・・・どうせ言うことなんて聞いてくれないさ・・・!(黙れ
    自分はキャラが動くようになるまで短編書きまくりますよ~。それで大体動くようになってから本編を・・・。
    自分は寧ろつんばるさんのように大体のストーリーを考えてしまえる人がすごいなと思います。尊敬。
    続きも頑張ってください。応援してますので~。

    2009/06/20 15:28:09

ブクマつながり

もっと見る

クリップボードにコピーしました