「はぁ～あ・・・」
放課後。
いつも一緒に帰ろうと言ってくるめぐみが、今日はそそくさと帰ってしまった。
（私、めぐみの役に立てないの・・・?）
めぐみはいつも私を励ましてくれていたのに・・・
「あ、ルカ」
「・・・・・」
振り向くとそこには
「レン」
レンはダルそうな顔をして、背中に鞄を背負っていた。
「あーもう、最近だりぃ・・・・」
小走りしながら私の隣に並んだ。
「私もよ・・・」
「何で?」
「レンは何で?」
「えー・・・なんか、好きな子に全然男として見てもらってねぇし、しかも・・・」
「ルカさーん!」
遠くから、ショートカットの女子が手を振りながら走ってくる。
「あ、カイコ!!」
「こんにちは～!」
はぁはぁと息切れしながら、カイコはニコッと笑った。
「お、カイコじゃん」
「はぅ!?レンさん!?!?」
私しか見えてなかったのか、カイコはレンを見るなり顔を赤くした。
「ルカ、カイコの知り合い?」
「まぁね。レンは?」
「カイトの妹だから知ってる」
「あ、そっか」
「カイコとは小さい頃よく遊んでて・・・」
「・・・・」
私がレンと会話を交わしていくごとに、カイコの顔が歪んでくる。
（そうだった!私の馬鹿!）
カイコはレンの事が好きなのに!!
「私用事あるんだった!先、行くね!」
「え、ちょ・・・」
慌ててその場を去る。

「やっと着いた・・・」
家に着くまでたったの20分程度だったのに、とても長く感じられた。
「ただい・・・」
「何考えてるんだ!!」
え!?
「うるせぇーな・・・」
慌ててしゃがんで、靴棚の陰に隠れた。
「お前は・・・お前は自分で何をしたか分かって言ってるのか!?」
いつもは仕事で遅いお父さんが、何で・・・
お母さんのすすり泣く声も聞こえた。
「相手の娘さんに・・・相手の娘さんに、何て説明したらいいの・・・・」
「母さん・・・」
ルキもいる・・・
状況が飲み込めない。
「父さんは反対だ!今すぐ相手に・・・・」
「俺達の問題だよ!!」
バンッ!
テーブルを勢いよく叩く音が、しんとした部屋に響いた。
「もう放っておいてくれ!!」
そう言うと、ルキは私に気づいていない様子で、家から出て行った。
「ルキ!!」
私はルキの後を追った。
「ルカ・・・・」
「どうしたの?何があったの?教えてよ!!」
「・・・・」
ルキは一瞬振り向いて、
「・・・ごめん」
そう一言言うと、走って行ってしまった。
「・・・・・」
その場にぺたんと座り込んだ。
何があったというの・・・・?
ふらふらとよろめきながら、何とか立ち上がって家に戻った。
「ルカ・・・お帰り」
「・・・・」
目を赤くしたお母さんに何も聞くことができなくて、黙って自分の部屋にこもった。
携帯を取り出し、ルキに電話をする。
『おかけになった電話番号は、電波の届かないところにあるか・・・・』
無機質な音が、虚しくも部屋に響く。
そのまま部屋に、何時間いただろう。
部屋は暗くなり、子供達の笑い声が聞こえてくる。
（そろそろ、戻らなくちゃ・・・）
窓の外を見て、ため息をついた。
「え、あ!!」
一瞬、目を疑った。
「ルキ!?」
藍色に包まれた闇の中で、うっすらと車とルキの姿が見えた。
（隣に誰かいる・・・?）
目を凝らしてみると、隣にいるのは女性だった。
「うそ・・・・」
嘘でしょ・・・
急いで窓を開けた。
「めぐみ!ルキ!!」
二人の名前を叫んだ。
「ル・・・カ・・・・?」
めぐみの口が、かすかに動くのが見える。
「・・・行くぞ、めぐみ」
「待って!!」
大声で叫んで、勢いよく階段を下り、外へ出た。
「めぐみ!ルキ!」
二人が乗っている車は、もう遠くを走っていた。
「説明しなさいよ!!」
叫んでも、届かない・・・
「・・・ルカちゃん?どうしたの?」
近所の人が、私に話しかけた。
「うあああああああ!!」
「ルカちゃん!?」
私は泣き叫んだ。
この嘆きが、二人に届くように。
何があったのか分からなくて、二人は戻ってくるはずなのに、戻って来ない気がして・・・