「疲れたぁ～…」
今日は残業で、夜中までかかった。
本当は通りたくなかったけど、近道のキャバクラ・ホスト街を歩いた。
キャバクラとホストの仕事はよく分からないけれど、やっぱりいいイメージは沸かない。
なるべく下を向いて、目立たないように歩いた。
「お姉さん、遊ぼうよ」
「いや、ちょっと…」
私に話しかけてくるくらいなら、そこらへん歩いてる派手な格好してる女の子に話しかけてよ!
「何で～?いいじゃん」
話しかけてきた男は馴れ馴れしく私の肩に手を乗せてきた。
「急いでるんです!」
イラついて、男の手を払う。
「分かったよ!じゃあ、これだけ言わして」
帰ろうとしたけど、反射的に体が男の方を見る。
「お姉さん、綺麗な顔してるのに下向いてたらもったいないよ!それと、もうちょっとおしゃれしてみたら?絶対今より綺麗になるから!」
「よッ…」
顔がかあっと赤くなる。
余計なお世話!と言おうとした。
「お姉さん、きっと会社でも目立たないんでしょ?ちょびっと髪型変えるだけで、絶対一番存在感ある人に変身しちゃうから!!」
「…ありがとう」
「どーいたしまして!じゃーね!」
口から出てきた言葉は、『ありがとう』。
男は私に手を振ってきた。
私も男に手を振りかえした。
私が…
もしもおしゃれをして。
おしゃれをして、綺麗になったら。
がくぽは喜んでくれるだろうか。
あの…
がくぽとヤッた女の子より勝る、綺麗な人になれるだろうか。
「・…よし」
小さくガッツポーズをして、走って家に帰って行った。


「おはょ…」
「おはよー…え!?ルカ!?」
私の姿を見たメイコは、驚きのあまり手に持っていた資料を落とした。
「だ…だめじゃん、大切な資料なんだから・…」
私はメイコが落とした資料を拾った。
「超!カワイイ!!!」
「わぁ!?」
メイコは私に抱きついて頬ずりをした。
「あっ、はよーメイコ…ルカ!?」
カイトも驚きのあまり手に持っていた資料を落とした。
「どうした!?」
「あ…うん、ちょっとね」
今日の私の格好は、服装はいつもと同じだけど、小さなハートが付いているネックレス、いつもストレートの髪をふんわりと（盛るって言うのかな?）して、その髪に紫の蝶のピンをつけた。
「カワイイカワイイ…」
「く、苦しいメイコ…」
実はメイクもこった。
目元に紫のアイシャドウを塗って、唇にピンクのグロスを塗った。
「いい匂いする～!!」
「んー!んー!!」
香水のせいだろう。
いつかもらったラズベリーの香水もつけた。
「変わるもんだな～人って…」
カイトは私の髪を触りながら言った。
「仕事しろ仕事ー…ん?」
オフィスのドアを開けて、がくぽが来た。
がくぽは私の姿を見て、目を見開いた。
「がくぽーどうする?ルカがもーっと可愛くなっちゃったら…」
「ばっ…馬鹿じゃねぇのお前そんなカッコしてきて!」
がくぽはイラだった口調になる。
「へ…変?」
がくぽ、喜んでくれると思ったのにな…
「変っつうか…にあ」
「せんぱぁい!」
また…
ため息をついて、自分のデスクに戻る。
「どうしたんですかぁ?」
「や、別に…」
がくぽがあの後なんて言うか聞きたかったのに…
女の子達は私の方を見て言った。
「い、いきなりあんなカッコさせられても、困りますよねぇ～」
「そうそう、あの歳で!?みたいなぁ…」
「え、いや…」
「この子の方が、ベッドの上で可愛かったでしょぉ?」
「へ!?」
がくぽとヤッた女の子をがくぽの前に出して、女の子二人は言った。
「彼女さんとこの子、どっちが可愛いですか?」
もう…
わざとそういうこと言って。
もう嫌…
「お前ワザとそう言うこと言うなよ!!」
へ?
「何よアンタ」
「そうやってルカ先輩の悪口言いやがって…お前らよりルカ先輩のが何倍も上だっつうの!!」
「はぁ!?」
女の子達の同期の子かな…
男の子っていうのはおかしいのかもしれないけど、私の後輩だから男性というのはもっとおかしいと思う。
「意味分かんない!馬鹿じゃないの!?」
「先輩…大丈夫ですか?」
「うん…ありがとう」
男の子はにこっと笑った。
「さわやか好青年だな…」
「どうすんのがくぽ～」
「うるせぇ!」
そんな声が聞こえたような気がした。