カイコの体は変なバランスの取り方をしていた。明らかにどこかに不良が出ている。マスターはカイコの緊急手術を行った。
「何これ、酷い…」
あまりにも酷い配線だった。体を動かす導線が絡み合ってとても危険な状態だった。神経伝達の線が滅茶苦茶で、例えば腕を動かそうとすると足を動かしてしまったり、前を向こうとして転んでしまうなど構造上の問題が沢山出てきた。
何故こうなったのか?
原因を追求していくうちにメモリーの二重構造と言う問題点を発見した。
「これは…こんな事したらアカイトが壊れちゃう!何でこんな事したの?!」
聞かなくても分かっていた。アカイトのベースプログラムをそのまま使ったのではアカイトの記憶は消えてしまう。そのため、アカイトの記憶を保つために以前使っていたプログラムをサブプログラムとして使用していたのだ。配線を複雑化したのはこの二つのプログラムを併用するための最終手段だった。
手術後―――
アカイトの古いプログラムを抜いて配線を戻し、アカイトは素のアカイトになった。体は残念ながらすぐ使える物がカイコしかなかったので本人は不本意かもしれないがカイコのまま目覚める事になるだろう。
カイコの起動フラグは立てておいたので少し時間を置けば自然に目覚める。それまでに他のメンバーで今後について会議を行った。
「基本的には同じだ、大きな変化が無ければ同化させても問題は無い。実際、さっき簡易的だが同化させて平気だったからな」
最初に言ったのはリクだった。会議の内容は古いアカイトの記憶を新しいアカイトに移植するかどうか、である。
「そう、だね…タイトの技術には正直私も驚かされた。プロ級だよ。あそこまで成長してたなんて思わなかったな。お陰で新旧プログラムを同化させても問題はなさそうだって事は分かった」
「マスター…」
事実確認だけしてマスターは話を切った。
ボーカロイド達は心配そうにマスターの答えを待った。
マスターは黙ったまま口を開こうとしない。
「お前の好きにしろよ。お前がその気なら俺が綺麗に同化させてやる。安心しろ、今度はちゃんとやるから」
語らぬマスターの代わりにリクが言った。恐らく誰もが思うマスターの気持ちである。しかしマスターがそれを言い出せない理由も分かっていた。
アカイト…―――
「しめっぽい話してんじゃねぇよ。そんなのスパッと決めちまえ!」
「!!?」
話題に乱入してきたのは渦中の人。今は小柄な青いボーカロイド、アカイトその人である。
「俺の話だろ?それなら俺が決めてやる!俺は…―――」
『俺はお前の物だから、お前が望む俺でありたい。お前が昔話をしたいなら、俺は他人の記憶だって構いはしない。
俺はお前の物だから、お前と共に歩きたい。お前が俺を必要とするなら、俺は俺を捨てても良い』
――――――
抱きしめた、あんなに小さなカイコがとても大きい。赤いマフラーが一瞬頭をよぎる。
赤が好き。リクが好きな赤が好き。リクとお揃いの赤が良い。
昔々夢見てた、まだ付き合う前のリクの姿。まだ片思いのあの頃の、淡い記憶が蘇る。
あぁ、アカイト。あなたはあの日のあなたなのね…――――
事後―――
結局マスターはアカイトの記憶を同化させた。アカイトは以前と変わらぬアカイトのまま。あかの他人なんて思えない。別にどちらでも良いじゃないか。幸せならばそれで良い。
「…良くない!」
騒ぎ立てるのはアカイト。あの日以来ずっとこの調子だ。
「良いじゃん、この方が可愛いって。リクもこの方がたぶん喜ぶよ?」
「良くない!俺は男だ!何でこんな手の込んだ嫌がらせするんだよ!?」
マスターはアカイトの所有権をリクにしたまま、今まで通りアカイトを預かる事にした。けれどその姿はかつてアカイトと呼ばれたそれではなく、カイコと呼ばれた姿に近い。
少し小柄な女の子。青ではなく赤に変えられた髪や目、衣装の全て。カイコの体をモデルに作り替えた『アカイコ』があの日からアカイトの代わりにマスターの家のアンドロイドとなった。
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呼び覚ますように
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Oh,say "Hello,shadow"
Stay! Come on!かも?
もと...Dear You on Stage!
惑井
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また嫌なこと遭ったのかな?君はいつも頑張りすぎるから
週に2回の休みには僕と遊んでくれるけど
しかめっ面の君はいつも心に苦しみを隠してる
ならその想い歌にして僕に預けてくれればいい
疲れたときでも頑張る君に笑ってほしい
笑って、笑っていて 落ち込んだとき...笑って、泣いて(歌詞)
ひるくれ みお(RainP)
A 聞き飽きたテンプレの言葉 ボクは今日も人波に呑まれる
『ほどほど』を覚えた体は対になるように『全力』を拒んだ
B 潮風を背に歌う 波の音とボクの声だけか響いていた
S 潜った海中 静寂に包まれていた
空っぽのココロは水を求めてる 息もできない程に…水中歌
衣泉
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