発想元・歌詞引用:U-ta/ウタP様 『創世記』



 小さな足跡が、湿った林道を森の中へと進んでゆく。
 サナファーラは、迷いなく夜の森の中へ歩いていった。
 この日は満月。この星には、何とちょうどよい大きさの衛星まで回っていた。

「神様の星とおんなじだから、神様がこの星をみつけたときは、ずいぶんお喜びになったそうよ」

 そう、いつか檀上で巫女が話しているのを聞いた気がする。

 満月が照らしているおかげで、森は普段の夜よりは格段と明るい。
 それが、まるで自分たちパイオニアを造った神様がサナファーラを見守ってくれているようで、サナファーラの足は自然と早まった。

 森の奥へ。奥へ。

 やがて、道が突き当たった。
 太い幹のうねる、大きな樹が、広い樹冠を黒々と天に掲げていた。

「来たよ」

 サナファーラは、樹を見上げてにっこりとほほ笑んだ。

 泥にこすれた固い肌が、月に照らされて光った。
 足元を踏み出すと、薄い革製の靴をやわらかな苔が受け止める。
 にじみ出る水の感触をサナファーラは感じた。

 大樹の根元に歩み寄り、根の抱く湿った大地の上に、サナファーラは腰をおろした。
 樹冠を通して、高く上った月の光が、サナファーラに降ってくる。

 本当にうれしそうにほほ笑んだサナファーラは、靴を脱ぎ、素足になってやわらかな地面にその足を埋めた。そして、両手も、体の両脇の土に埋めた。

 コリ、と硬いものが手のさきにあたった。
 ふふ、とサナファーラは優しく微笑む。

「だれのご先祖様かな。……あたしも、あなたみたいに、大地をうるおして星をめぐる風になれるかな」

 月の光に照らされ、大樹の下にサナファーラが座り込む。

 それを、たくさんの、苔にうずもれた骸骨が囲んで見つめていた。



 ……人間とパイオニアの違いは、じつはもうひとつあった。

 パイオニアたちに、死への恐怖はない。

 誰もが死ぬのはあたりまえだ。
 そして、死ぬことは、土をうるおし、ひいてはこの星を豊かにし、生きている者たちのためになることだと考えられていた。

 生きて働き、死して星をうるおす。

 これがパイオニアたちの喜びであった。

 ほとんどのパイオニアの集落で、パイオニアは死ぬと、大きな樹の根元に葬られる。
 そこでゆっくりと土に還り、大樹の養分となり、その個人の願いは大樹によって空へと還される。

 そう信じられてきた。

「ちょっと早いけど、いいよね? 」

 だから、サナファーラは、少しわくわくしていた。
 土をうるおし、空に還った人生の先輩たちの骨が、サナファーラを応援するように、静かに囲んで見守っていてくれると、サナファーラは思った。

「あたしも、仲間に、してください」

 目を閉じると、月明かりがまぶたの裏に優しく透けた。
 手足を土の感触がひんやりと包み、サナファーラは指を動かした。

「気持ちいい……」

 遠くに太鼓の音がした。

「祭り太鼓かな」

 大地から響く鼓動のようなリズムに耳を傾けているうちに、サナファーラの意識は闇に溶けて行った。

       



……続く

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

小説 『創世記』 3

……本当にこの歌に惚れこみまして。

発想元・歌詞引用:U-ta/ウタP様 『創世記』
 音楽 http://piapro.jp/content/mmzgcv7qti6yupue
 歌詞 http://piapro.jp/content/58ik6xlzzaj07euj

閲覧数:143

投稿日:2010/04/07 20:46:40

文字数:1,319文字

カテゴリ:小説

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  • レイジ

    レイジ

    ご意見・ご感想

    先程はコメントありがとうございました☆

    今原曲様聴いてます。
    やばいっす。なんで殿堂入りしてないの(ニコニコで)
    今までこの曲を知らなかったことに後悔しました^^;

    大作の予感がバリバリしてます・・。
    続きを楽しみにしています!!

    2010/04/07 22:15:39

    • wanita

      wanita

      >レイジさま

      そうですよね!やばいですよねッ!!
      この感動をだれかに伝えたくて、思わず物語を打ってしまいました。
      おかげで今朝はぎりぎりで職場に駆け込む羽目に★

      完結させてありますので、週末に向けてじわじわUPしていきたいと思います!
      どうぞ、宜しくお願いします!!

      2010/04/07 22:30:05

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