その次に響いたのは・・・
爆発音。
エレベーターから、振動が伝わってくる。次々と、どんどん侵食していくように。爆発音は、近づいているように聞えた。いや、近づいている。
鈍い音が、皆の頭の中に響いていく。誰一人、状況を飲み込めていなかった。
エレベーターの内側が、爆風でキィキィと悲鳴を上げ、扉が変形していく。
ガァン!!!
凄まじい音と共に、爆風に乗せられた金属片などが、弾丸のように壁を貫く。吹き飛ばされた扉は、一瞬で穴だらけになった壁を一緒に吹き飛ばし、直進を続ける。皆はいっせいに外へ出た。そこにあるのは、散らばった破片と、もうもうと立ち込める砂埃だけ。
次の瞬間、風を切る音が近づき、金属が曲がり、砕ける、高い音がした。ミクの足元に、鋼で造られた腕が転がってくる。
何度も、何度も、それが続いた。何かが落ちてきては、その破片が床に散らばっていく。
ミクが皆のほうを振り返り、叫んだ。
「奴にここがバレた!!!もうじき、レベルがAの奴らが攻めこんでくる!!・・・メイ姉!!!」
「分かってる!・・・カイトッ!新しく開発した『音響弾』使うわよ?用意はいい?」
メイコがすぐさま答える。いきなり名を呼ばれたカイトがうろたえる。
「え・・・。分かった。つか、あれ使うの?まだ試作段階じゃぁ・・・」
「細かい事言ってないで早く持ってきなさい!!試作段階なんていってらんないでしょ!それと・・・リン!」
突然呼ばれたリンは思わず大きな返事をした。カイトは倉庫へ駆け込んでいく。
「リン、あなたは対侵用のシャッターを下ろす準備をして。カイトが打ったら、すぐに作動させて。」
リンは、うん、と勢いよく首を縦に振ると、通路の奥のほうに向かって走っていった。
その時ちょうど、カイトが戻ってくる。右手には、あのライフル型の銃、左手には、ミサイルのような弾丸が握られている。
「よし。カイト。エレベーター目掛けてぶち込みなさいッ!!」
「了解、めーちゃん!!!」
短い会話をした後に、カイトが引き金を引く。
・・・ッ
飛んでいった弾丸が、目の前で閃光と共に弾ける。
その後聞えてきたのは、爆音ではなく、耳鳴りのような、甲高い音。まるで黒板を爪で引っかいたような、嫌な音も、時間の経過と共に混じってくる。
閃光が止み、音も消えると、エレベーターに、ばらばらと、ヒトの形をした鋼鉄の塊が落ちてくる。
そして。
エレベーターの方から、一枚、一枚、また一枚と、まるで鉄板か何かが降ってくるように、シャッターが閉まり始めた。
外にはみ出していた、ロボットの頭が、シャッターに挟まれ、嫌な音を立てて潰れる。
その破片が飛んでくる前に次のシャッターで遮られる。
ちょうど10枚降り終わったところで、あたりは静かになった。リンが駆けてくる。
「これで一応ひと段落。さて、入り口も塞がれたことだし。これからどうする?」
メイコが皮肉っぽい声で言う。
「地下階層Lv5に、ここから脱出するための『水平移動リフト』があります。」
テトが口を開いた。
「それに乗って脱出しましょう。」
「・・・Lv5か。あそこの電力は止まったんじゃなかったのか?」
と、カイト。
「とりあえず、行きましょう。敵さんも待ってはくれないようだし。」
シャッターを見ながらメイコが言う。
テトは、決心をしなければならなかった。
永いこと、使っていなかったせいか、階段に続く扉は錆び、蹴破るしか方法は無かった。しかも、その先にあるはずの螺旋階段は、足場が幾つも欠落し、いつ下に落ちてもおかしくは無かった。
もろくなった鋼は悲鳴をあげ、歩く最中にも、1本、2本と、下へと落ちていくものがあった。その度に、下から金属音が響いてくるのであった。
Lv5は、大きなフロアに、コンピュータが壁のように並んでいた。だが、電力が供給されてないのか、パソコンに光はない。その真ん中に、リフトとその操作基盤はあった。
「畜生ッ・・・。」
リフトの前に着いたカイトが、最初に言った言葉がそれだった。
リフトを動かすほどの電力は、最早ここには残っていなかった。
リフトを動かすためには、少なくとも一週間分の自家発電の電力を集めなければならないだろう。だが、シャッターで塞いだとはいえ、この基地にNOISがいる以上、待っている時間はないし、第一、皆の貯蓄電力が足りない。
その時、テトが口を開いた。
「皆さん。すみません。私は、少し隠し事をしていました。」
そういうと、テトは、自分の肩辺りの皮膚を、無理やり引き剥がした。
「・・・何してるの!テトッ!!やめなさい!」
すかさずメイコが止めに入る。だが。テトは、手を止めなかった。
左肩から首にかけて、鈍色をした鋼鉄が、露になる。テトはそこから、一枚、小さい基盤のようなものを取り出した。
「・・・これが、『聴析』の正体です。そして・・・」
テトは、右手をさらに奥へと突っ込んだ。
中でなにやら、金属の擦れあう音が聞える。
ブツッ!!
中にあった配線を引きちぎるようにして、取り出した、さっきと同じような大きさの、3,4枚の基盤には、無様にコードがくっついていた。
「テトさん・・・何を・・・」
グミが震えた声を出す。それに対し、テトは、毅然とした声で言った。
「右から、"素粒子結合結界""電子砲""火炎一閃"あと・・・」
テトは、一つの基盤を左手に持ち替えた。
「これが、『神速』を超える速度のもの。『緑閃』と言います。」
テトは、一歩歩みでて、それらを全てミクの手の中に収めた。
「あなたなら、有効に使えるはずです。・・・お願いします。」
テトはにっこりと笑い、その後に、リフトの操作盤の場所に歩みを進めた。そして。
バチッ!!
テトは、自分自身に電源の供給コードを差し込んだ。途端に、リフトの操作基盤の電源が着いた。そして、大きく、『開』と書いてあるボタンを人差し指で押した。機械音と共に、鋼鉄の、幾層にもなった扉が順々に開く。
そして、また皆のほうに視線を向ける。
「今まで、本当にありがとうございました。皆さん、行って下さい。私が、ここに残ります。」
その声には、一点の曇りも感じられなかった。メイコの声が震える。
「何よ・・・何よ。それ。貴方、私達が『ハイ、サヨウナラ』なんて言うと思ってるの?少なくとも・・・私は残る。貴方を一人になんかさせない。貴方は、私たちの仲間なのよ?もう・・・もう、目の前で仲間が消えるのは嫌なの・・・だから・・・。お願い。やめて。」
「言うと思いましたよ。メイコさん。貴方は、絶対に、ただでは屈しないことも分かっています。でも、言っておきましょう。
私も、皆を守りたい。その為に、自分が消える事は厭わない。
こんな事言ったら、怒りますかね。メイコさん。ですが、もう決めたことです。変える気は、さらさらありません。」
テトの口調は激しかった。しかも、それでいて、冷淡な声だった。今までに、聞いたことの無いような。
「サヨウナラ。今まで楽しかったです。カイトさん、貴方が私を救ってくれなければ、私はここにいません。ありがとう。」
皆は、声一つ出せなかった。いや、出せなかった。声を出す事自体、テトの能力によって止められていた。
遠くで、金属がひしゃげるような嫌な音がした。足音による揺れが、基地を襲っている。
「時間がありません。最後に説明しておきましょう。私が残しておいた、最後の能力、
『絶対服従』。これも、あなた方に差し上げたいのですが、そうしたら、貴方たちを送り出す術を失ってしまうので。」
テトは、手を振りながら言った。
「すみません。・・・お元気で。」
途端、ミク達の体に、横向きの重力が圧し掛かる。そして、皆は、リフトにたたきつけられるようにして、転がった。
何とか、外に出ようと、足掻いて見るが、そもそも手足が、まるで自分のものではないかの様に重く、動かない。体の中で、モーターが空回りする、キュルキュルという音がする。無理に動こうとすると、さらに圧力が掛かり、押しつぶされ、破裂しそうな痛みに襲われる。
テトは、振っていた右手を、そのまま『閉』のボタンへと伸ばした。
ガシャン。
不気味な和音。扉が閉まるのと、NOISが非常階段から落ちてくるのが、ほぼ同時だった。
NOISが、フロアに雪崩れ込んでくる。
能力を使い、ついでにリフトに電力を供給しているテトからは、急激にエネルギーが減っていっていた。
テトは、その場に崩れ落ちる。
あと何秒持つか・・・。1秒でも多く。遠く。あのヒト達が無事でいられる為に・・・。
NOISが目前に居る。最早、腕すら動かない。
―――ッ。
痛みなど、存在しなかった。そこにあったのは、なぜか、幸福感。
彼女は、自らの死を感じながら、小さな、小さな声で囁いた。
『アリガトウ。』
『ゴメンナサイ。』
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