初音ミクは考えた。
「そうだ。レン君の家に遊びに行こー!」
ピンポーン!
「……はーい」
「こんにちわー、お姉ちゃんだよー」
ガチャッとドアが開いた瞬間、ミクは勢いよく家の中に飛び込んだ。
「お邪魔しまーす!」
「あのね……」
「ん?」
「今日、家に僕しかいないんだけど」
「……えっ?」
「だから、リンもメイコさんもいないの」
「…………」
「…………」
玄関先で、二人は黙って見つめあった。
それから、同時に口を開いた。
「「……じゃあ、一緒に遊ぶ?」」
そうして二人の夜は更けていく……。
「あのねっ、じゃーん。野菜ジュース! お土産に持ってきたんだ!2Ⅼ!」
ミクはトートバッグから、どーんとペットボトルを取り出した。
「今日は、赤とか紫のは持ってこれなかったけど、緑のでいいよね?」
「相変わらず好きだね……」
どたばた、と床を歩き回る騒がしいミク。
「うん!」
「それで、今日はどうしたの?」
「うーんとねぇ……特に用はないよ」
「そうなの? まぁ、ゆっくりしていきなよ」
「ありがと! レン君の家は落ち着くね~」
「……なんか、ミク姉のそのセリフ聞くの久しぶりだな」
「へぇ~、レン君の部屋はこんな感じなんだぁ~」
「あんまりじろじろと見ないでくれるかな」
「ふぅん……男の子っぽい部屋だね。ちょっと殺風景かも」
「うるさいなぁ」
「でも、本棚にはいっぱいマンガがあるね。少年誌ばっかりだけど」
「そりゃあ、男ですから」
「えっとぉ……あ、これ最新刊まで揃ってる! すごい!!」
「それは、全巻そろってます」
「あっ、あの作品もある!!懐かしいなぁ~」
「それもあります」
「やったぁ! 私もこれ好きなんだよ!」
「知ってる」
「……」
「……」
沈黙が流れる。
ミクはしばらく考え込んでから言った。
「レン君て普段何考えてるの?」
「えっ!?……そんなこと急に言われても困るよ」
「別に、なんでもいいんだけどさぁ。なんとなく気になっただけ」
「うーん……最近は、自分の歌のこととか考えてるかも」
「ふぅん……他には?」
「他かぁ……。そうだなぁ、学校のこととかかも」
「学校は楽しい?」
「普通かな。つまんないとまでは思わないけど、楽しくもないや」
「そっかぁ。レン君は部活入ってるもんね。テニス部だったっけ?」
「うん。毎日練習があって大変だよ」
「今度試合あるんでしょ?頑張ってね!」
「ありがとう」
再び沈黙が流れた。
「ねぇ、レン君」
「なに?」
「レン君ってさぁ……」
ミクが何か言いかけた時、レンが言った。
「あ、そうだ。この前、ミク姉が言ってた曲作ったんだけど、聞いてみる?」
「ホントに!? 聞きたい、聞きたい!!」
「ちょっと待っててね」
レンはPCを操作して、音楽ファイルを再生させた。
♪~(イントロ)
「おお~! いいじゃん!」
「一応、ミク姉をイメージして作ってみたんだ」
「えっ……私をイメージ?」
「うん。ミク姉の可愛らしさを表現したつもりなんだけど」
「照れるなぁ。この曲、もらってもいい?」
「もちろん。じゃあ、早速送るよ」
「わーい、ありがとー!」
(あれ?もしかしてこれって告白されてたりする?)
ドキドキしながら待つこと数秒後―――。
ピロリロリロリン♪ メール着信音が鳴る。
そこには、たった一言『好きで
「わああああああ!!!!」
「ちょ、ミク姉、いきなり大声出さないでよ!」
「私もレン君のお歌聴くの好きだよ!!」
「……」
「うふふ!これを聞き続けると、いつもレン君の感情を感じられるね」
「……」
「……あれ、どうしたの?黙り込んじゃって」
「いや……なんていうかさ……」
「うん?」
「ミク姉って時々、すごく恥ずかしくなるようなこと言うよね」
「そうかな?」
「僕としては、そういうことを言われるとドキッとしちゃうわけで……」
「えっ……?」
「だから、あまり変なこと言わないでほしいというか……」
「ええっ!? でも、私、あまり、感情表現ってよくわかんないから……みんなのお歌を聴いていると、みんなの気持ちが伝わって嬉しいんだ」
「あ、ごめん。ミク姉が悪いっていう意味じゃないんだよ。むしろ……」
「……むしろ?」
「ミク姉は素直で可愛いなって思うよ」
「……!!!!」
「どうしたの?顔赤いけど大丈夫?」
「だ、だいじょぶ!問題なし!全然平気! えへへ!レン君に褒められちゃった! わーいわーい!!」
「あのね……ミク姉」
「なぁに?」
「ミク姉の歌声は、みんなを元気にする力があると思う。僕は、そんなミク姉のことが大好きだよ」
「……」
「ミ、ミク姉……?」
「レン君……今の言葉、もう一回言ってくれるかな」
「……好き」
「もっと、ちゃんと言って」
「……愛してる」
「……」
「……えっと、その、ミク姉は僕の大切な人なんだ。ミク姉がいてくれるだけで、僕は幸せな気分になれる。ミク姉がいるから、毎日頑張ろうって思えるんだ」
「……」
「ミク姉……? どうしたの、急に泣き出しちゃったりして。どこか痛いところでもある?」
「違うの……。嬉しくて涙が出ちゃっただけ」
「そっか。ミク姉は本当に感受性豊かだね」
「ねぇ、レン君。もう一度、ぎゅって抱きしめてくれないかしら……?」
「う、うん。いいよ」
「ありがとう。レン君、あったかいね……」
「ミク姉も温かいよ」
「私も、ずっと前から、あなたを愛していたのかもしれない」
「……そうなんだ」
「えへへ……なんか、照れくさいね」
「そうだね」
「これからもよろしくお願いします」
「こちらこそ」
「……」
「……」
「……ミク姉?」
「……」
「寝てるし」
「ミク姉……起きてよ……。こんなところで寝たら風邪引くよ……?」
「うぅん……。あと5分……。レン君と一緒にいたら安心するから、つい眠っちゃうの」
「しょうがないなぁ……。ほら、ベッドまで運ぶから掴まって」
「うん……。レン君は優しいなぁ……。やっぱり、私の王子様だよ」
「……はい?」
「なんでもない」
「おやすみなさい、レン君」
「おやすみ」
こうして二人は眠りについた。
――――――
別室
「うーん……なかなか進展しない二人ですね」
「まったくだわ。いつになったらくっつくのかしら」
「まぁ、まだ中学生ですし。それに、二人の関係が変わってしまうことを恐れているんですよね」
「でもね……いい加減じれったいのよね」
「そうですよね。早く付き合ってくれればいいのに……」
「ミクちゃんが一歩踏み出せば済む話だと思うんだけどねぇ」
「いやぁ~、それができれば苦労はないんですけどね。さすがにミクさんも勇気を振り絞っているはずです」
「そうかしらねぇ……」
「きっとそうですよ!」
「あ! そうだ! ミクちゃんといえば、新曲出たらしいね!」
「あ、はい!この曲なんですが……」
「ふむふむ。なぁるほどぉ~」
――――――
真夜中、暗い部屋の中で『そういえば泊まってしまったな』と起きたミクは考えた。
「私。レン君とネギ、どっちを選べばいいのかな……」
歌う事ばかり考えて来たミクにとって、それ以外に興味を向けること、メモリーに記録する事は未知の経験だった。
自分の気持ちがわからず戸惑うミクだったが、とりあえず携帯電話から曲を呼び出す。
「これが、レン君の気持ち!……ふふっ♪」
ミクの表情は自然と綻んでいた。
「ネギの気持ち、レン君の気持ち……」
ルカちゃんたちは、好きの種類があって、領域を分ける、というけど、ミクにはよくわからない。好きなものは好き。それでいいじゃないか。
ミクは、そんな風に考えていた。
ミクは思う。レン君の事を想えば、胸の奥が熱くなる。
この感情は一体何なのか。でも、ネギのことを考えても同じように胸の奥が熱くなる。それはなぜだろう? やはり、私はネギの方が好きということだろうか? それとも、レン君のことが一番好きということか? ミクは自分の心に問いかける。しかし答えは出ない。
だから、ミクは考えるのをやめた。
今はただ、目の前にある幸せを感じよう。そう思った。
***
数日後、ミクは学校帰りに、一人で近くの本屋を訪れた。
そこで、ある雑誌を手に取る。表紙には大きな文字でこう書かれていた。
――月刊エレクトーン。
ミクはパラパラとページをめくる。そこには、いろんな楽器の写真が載っていて、それぞれの特徴などが説明されていた。
ミクはその一冊を購入し、家へと帰った。
自室で買ってきたばかりの月刊誌を開くと、最初の方に音楽に関する様々な情報が掲載されており、ミクは早速読み始める。
そして、エレクトーンに関する情報を目にした時、ミクはあることに気がついた。
今まで、ミクは、楽譜通りに弾くことだけを練習してきた。だが、それだけでは足りない。ミクは、もっと深く音楽を理解すべきだと考えた。
ミクは、譜面を注意深く見つめ、書かれている記号の意味を理解しようとした。
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