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 キヨテルさんがリン様の罪状をすべて読み上げた。
 今の罪状を聞くとリン様は悪逆非道の限りを尽くしたようにしか聞こえない。実際はどうだったのだろう。
 確かにリン様が王女となってから亡くなった人数は……表現は悪いがそれこそ山のようにいる。
 飢饉のさなかの増税、黄緑戦争、そして先日の赤の革命。本当に多く罪のない人が犠牲となった。
 多くの王家の従者たち、カムイくん、ネルちゃん、メイコちゃん、レン……私のよく知る人物はほとんど私の前からいなくなってしまった。
 これを一概にリン様の責任とするのには疑問が残る。なぜなら、殺す人間、見捨てる人間がいて初めて人は死ぬのだから。



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 その革命が起こった日、私は相変わらず地下牢にいた。いつものように何もすることなく、牢の隅でじっとしていた。
 すると、誰かの足音がした。どうせ、看守だろうと思い気にも留めなかったが、いつもと違う音がした。
「カチャリ」
「──えっ?」
 どう考えてもカギの開く音がした。その人物はどうやら私の牢のカギを開けたらしかった。
 誰だったのか確認したかったが、もう去った後だった。
「これは、どういうことですの?」
 あまりに唐突な出来事で、何がなんだかさっぱり分からなかった。もしかしたら何かあるかもしれないと思い、しばらくじっとしていた。が、誰かが来る様子も剣が飛んでくる様子もなかった。
 私は恐る恐る、牢の外へ出た。
 地下から地上へ出る階段は目の前だった。しかし、平穏なはずの地上からは雄叫びや悲鳴が聞こえてきた。
「何かあったみたいですわね」
 私は慎重に階段を上っていった。ここの地下牢の階段は少し特殊なところに出る。それは城のある一室のクローゼットである。
 なんでも、この地下牢はもともと城が攻め入れられた時に王族が隠れ、逃げるために作られた空間だったらしい。そのため、はるか昔には脱出用の通路もあったらしい。
 しかし黄ノ国が大きくなるにつれ城が攻められることはなくなり、この空間も無用の長物となってしまったのだった。
 そうして現在では地下牢に改造されていたのだが、出入り口は変わっていなかった。
 私は出入り口まで着くとその両開きの戸に耳をつけ城内の様子を知ろうとした。
 聞こえてくるのは、逃げ惑う人々の声とそれを狩ろうとする人々の声ばかりだった。
「どうやらついに革命が起きたみたいですわね。でも、まさか城内にまで革命軍が入ってくるとは……軍隊は何をしていますの?」
 ともあれ、今この状況で出ていくのはまずかった。もっと、落ち着いてからの方がいいと判断した。
 奇しくも、十年前の弟や妹たちと同じ状況に私は陥っていた。全く運命とは残酷である。
 どれぐらい経っただろうか、城が静かになった気がした。私はそっとクローゼットの戸をあけた。部屋には誰もいなかった。
 そのまま私は辺りを警戒しながら、身を隠しながら外へと向かった。
「誰だッ!!」
 まだ革命軍がいたらしい、私はとっさに身を隠したが、もう駄目だと思った。一歩一歩、革命軍の兵士だと思われる男性の足音が近づいてきた。
「オイ、お前! まさか、姫の従者か!?」
「は、離して!」
 どうやら、見つかったのは私ではなかったようだった。
 物陰からその様子を見ると、なんと捕まっていたのはレンだった。どうにかして、兵士の手をほどこうとしている。
「ちくしょう、じっとしやがれ、痛って! くそっ、誰かそいつを捕まえろ!! 例の召使いだ!!」
 レンは兵士の腕をかんで逃走した。本物の軍隊の兵士ならガントレットをしているからそんなことはできないが、革命軍の兵士にそんな装備はなかった。
 しかし、レンの逃走は一瞬にして阻まれた。六人ほどの革命軍の兵士がぐるりとレンの周りを囲んだ。
「くっ……」
 レンは悔しそうに歯噛みしたが、どうあっても逃げられそうもなかった。兵士たちの剣が光った。
「死ね、王女の手駒」
 その言葉を合図に一斉に六方向からの剣がレンを貫いた。
 十四歳の少年は血潮にまみれながら絶命した。
 この時、何らかのアクションを起こせばレンを助けることができただろうか。もしかしたら、できたかもしれない。
 追いつめられているのがリン様だったのなら、私は何も考えずに飛び出したに違いない。と言うより、レン以外だったら私は何かしていただろう。
 私は告白する。
 ──レンが殺されるのがうれしかった。
 この日の私の運勢は最高潮だったのかもしれない。その証拠に、その後私は誰にも見つかることなく城を脱出し、生き延びることができたのだ。
 唯一悪かったことと言えば、黄ノ国が滅び、リン様が捕らえられてしまったことだった。



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 ついにその時はやってきた。
「ゴーン、ゴーン」
 すべての終わりを告げる鐘が鳴る。
 キヨテルさんがリン様に尋ねた。
「何か言い残すことは?」
 リン様はふっと笑みを浮かべるとこう言った。
「あら、おやつの時間だわ」
 刑吏が斧を下ろした。
 リン様の首から光るものが見えた。
「──あッ」
 これで黄ノ国は完全に死に絶える。これからは革命軍が政治をしていくのだろう。けれども、この赤の革命の絶対的指導者であったメイコちゃんは死んだ。誰がこの国をまとめ上げるのか……おそらく誰にも出来まい。ともすれば、いずれ他国に攻め入られるのは必至だろう。
 だが、三大国はどこも死んでいる。緑ノ国は焼け野原と化し、青ノ国は絶対的国王が死に王族が絶え、黄ノ国は革命で倒れた。
 さて、天下を取るのはどこの国だろうか。私はそれを遠くで見物しよう。もう、一番の特等席なんてごめんだ。三等席の方が普通では見ることのできない角度で演劇が見えて楽しいに決まっている。
 さぁ、今度はどこの誰が主役だろう?



       緋ノ侍女・完

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《悪ノ物語~第二章・緋ノ侍女・6~》

閲覧数:168

投稿日:2010/06/04 22:13:32

文字数:2,502文字

カテゴリ:小説

  • コメント1

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  • 零奈@受験生につき更新低下・・・

    全部読みました!
    にしても、二人とも死んじゃうなんて・・・
    テトが入れ替わりの真実を知ったらどうするんでしょうか?
    気になります。

    2010/12/11 10:40:41

    • 牛飼い。

      牛飼い。

      メッセージありがとうございます!!

      悪ノ物語シリーズは続きを書こうと思っているので
      そこでいろいろと
      語っていくつもりです

      ところで
      零奈さんも書いていらっしゃるようで
      読まさせてもらいました
      特にtrick and treatは自分も書いたので
      読んでいてテンション上がりましたし
      よかったです

      これからもお互い頑張りましょう(^^)/


      2010/12/11 15:55:21

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