『これはとてもマズイよ』
未来の言ったその言葉と指紋という単語から、ふと、俺はあることを連想していた。
容姿も指紋も同じならDNAなんかも同じ可能性がある、もしそうなら、犯罪が行われてもその場で捕まえない限りは誰がそれをやったのかわからなくなる。
あと極端なことを言えば、状況によっては誰かと入れ替わることも可能だろう。
考えれば考えるほど、頭が痛くなる。
「まさかとは思ってたけど…未来ちゃんが小さい頃から、お父さんととてもよく似てるな、と思ってたんだ」
「どこから突っ込めばいいのかわかんねえよ!」
空気を読まない親父のボケにツッコミをいれる。
険しい表情をしていた未来も、きょとんとしたあと笑顔を作ってこのコントのような会話に参加してきた。
それはわざとらしい空元気に近いものだったが、それでもこうやってバカみたいな話をしていると心がどこか軽くなっていくような気がした。
…親父らしいなと思った、どんな時でも冗談を言ってくる、それはもちろん悪い面もあるけれどこれは親父なりの心遣いなんだと思う。
人生には考えてもどうにもならない時がある、そういう時は難しい顔をしているより意味がなくても笑っていたほうがいい。
そう親父が言っているような気がした。
ただ、未来の言った言葉が刺さった棘のように気になってしかたがなかった。
『これはとてもマズイよ』
未来がどこまでの想像をしてその言葉を言ったのか、それはわからないが、言いようのない気持ちの悪さがそれにはあった。
光が全くない場所を手探りで進んでいるときに何かを踏んでしまった、そんなような…そして何を踏んでしまったのか未来は知っている、漠然とだけれどなぜかそう思えた。
これは俺が嫌いな、嫌な予感ってやつになるのかもしれない。
【小説】俺と70億の鏡音リンちゃんと激しく降りそそぐ流星群(14)
ある日、突然、世界中の99.9999%の人間が少女(鏡音リンちゃん)になってしまった。
姿も声もDNAも全て同じ、違うのはそれぞれが持つ記憶だけ。
混乱に陥る人間社会の中で、姿が変わらなかった数少ない人間の1人・佐藤悟は…というお話。
なお、携帯電話で見ることを前提としているので、独特の文体で書いています。
・文の終わりに改行。
・段落ごとに一行空ける。
そのため、段落の一字下げなどは省いています。
見難くなっていたら、すいません。
意見があれば見直します。
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