2-6.
結局、たこ焼き一つと焼きそば二つをおごってもらってしまった。量が多いのは、愛の分も買ってくれたからだ。
「実行委員なら、結構忙しいんじゃない?」
「それは、まぁ……」
私がつけている腕章を見てそう聞いて来るその人に、どう答えればいいか分からず、私は言葉を濁す。すると、私たちのことなんてお構いなしに焼きそばをかき込んでいた愛が、急に割り込んできた。
「そうなんですよ! あと十五分もしたらまた体育館のステージ裏に戻らないといけないんですから。なのに未来ったら黙り込んじゃってなんにも言わないし――」
「ちょ、ちょっとメグ!」
お願いだから、食べながら話さないで。いや、その、それだけじゃないんだけど。
慌てる私に、愛は半眼でこっちをちらりと見る。彼女が「こんなチャンス逃してられないんでしょ?」と目で言っているのがわかった。だけど、でも、こっちにだって心の準備ってものが――。
「昨日だって未来はあなたの名前も連絡先もわからないって泣きつかれて……」
「メグ!」
げし。
テーブル下で足を踏み付けると、愛はなんとも形容しがたい表情をしながらも沈黙した。まったく、放っておいたら言わなくていいことまで言うんだから。本当にやめて欲しい。
「仲、良いんだね」
はは、と笑いながらその人は私達を眺める。その視線に私は気恥ずかしくなった。
「あの研究室っていうのは……?」
「ん? ああ、俺は神崚大学で物理学を専攻してるから、その研究室のこと」
そう言いながら手帳になにかを書き留めると、ページを破って私に差し出してきた。受け取ってみると、そこには「海斗」という名前とケータイ番号、それからメールアドレスが書いてあった。
「海斗って言うんだ。俺のでよければ、どうぞ」
「あ! あ、あの、ありがとう、ございます」
その紙片を二つに折り、私は大事に胸元のポケットにしまった。
「ふふ、あ~珍しいもの見ちゃったなぁ」
いつの間にか復活していた愛が、たこ焼きを頬張りながら笑いをこらえるようにそう言った。いつの間にか焼きそばは食べ終わったらしい。
……どうでもいいんだけど、その細い身体のどこにそんなに入っているんだろう。確か私と一緒になる前にカレーを食べたと言っていたはずだし、ワッフルも食べてるはずだ。じゃないと「ワッフルが美味しかった」なんて過去形じゃ言えないはずだもの。
「こんなにテンパってる未来なんて初めて見たー。んー……、やっぱちょっと違うかな。テンパってるって言うより……ときめいてる、かな?」
「メグ?」
少しトゲのある声で愛に釘をさしたけど、遅かった。その人――海斗さんが首をかしげて尋ねてきたからだ。
「いつもは……違うんだ?」
爪楊枝にたこ焼きを刺したまま、愛はその質問を待ってましたとばかりに「そうなんですよ!」と意気込む。
「いつもは教室でも静かでたいてい本ばっかり読んでるし、成績優秀で容姿端麗、なんとなく近付きがたい雰囲気を出してるような気もするもの。その高嶺の花みたいな雰囲気のせいか、友達も少ない気がするし」
「メグ……メグってば」
「それが、そんなあたしの未来が、海斗さんの前にきたら顔を真っ赤にしちゃって、完璧に恋する乙女の顔をしてるなんて! あぁ、あのいつもの冷静な未来は一体どこに行ってしまったというの? あたしの未来は痛い! 未来やめてごめんなさい痛い痛い痛い!」
ぎゅ~。
だんだんと身振り手振りが大袈裟になって、たこ焼きを掲げながらそう言う愛に、私は彼女の脇腹をつねった。だってそうでもしないと黙ってくれないんだもの。仕方ないじゃない。
「そうなんだね」
「う。そ、それは……」
にっこりとほほ笑む海斗さんに、私はたじたじになって返事が返せなかった。否定したかったけど、だって愛が言ったことはだいたいその通りだ。容姿端麗とか高嶺の花とか恋する乙女とか、なんだかおかしなセリフも多かったけど。
海斗さんの笑顔に、私はクラクラしてしまいそうだった。だけど、隣りに座る愛になにを言われるかわからないから、必死に我慢する。今でもさんざんからかわれてるんだけど、でも、これ以上からかわれたらたまらないもの。
「未来、そういや時間大丈夫?」
「え? って、あ!」
愛に言われて腕時計を見ると、休憩時間を五分オーバーしていた。私は慌てて焼きそばを片付けて立ち上がる。
「あの、その、海斗さんごめんなさい。私――」
「いいからいいから。仕事なんでしょ? 行ってきなよ」
とっさに海斗さんの名前を呼んでしまって、私は自分でドキリとする。でも、海斗さんはあんまり気にしてないみたいだった。それに少しだけがっかりしながら、こんな時でも優しい海斗さんに、すごく申し訳なくなる。
「本当にごめんなさい」
そう言って体育館にかけだそうとしたところで、私はまた大事なことを忘れていたのを思い出した。
私、自分の名前を伝えてない。せっかく会えたのに、なにしてるんだろう。
「海斗さん」
「なに?」
「私、あの、未来っていいます」
今さら自己紹介なんかし始めた私に、愛がまた吹き出してたけど、今だけは気にしないことにした。
「ミク……ね。うん。覚えとく」
「あの、アドレスは……」
海斗さんはほほ笑んだまま、大丈夫という風にひらひらと手をふった。
「あとでさっきの番号に電話かメールかしてくれればいいよ。戻んないとまずいんでしょ?」
「はい……本当にごめんなさい。失礼します」
もう一度会釈すると、今度こそ私はかけだした。
「仕事、頑張ってね!」
背中にかけられた海斗さんの言葉に、私は振り返って大きく手を振って応えた。
本当は返事したかったけど、恥ずかしくてそんなことできなかった。
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