オリジナルのマスターに力を入れすぎた結果、なんとコラボで書けることになった。
オリジナルマスターがメイン、というか、マスター(♂)×マスター(♀)です、新ジャンル!
そして、ところによりカイメイ風味です、苦手な方は注意!
コラボ相手は、かの純情物語師(つんばる命名)、桜宮小春さんです!
(つ´ω`)<ゆっくりしていってね!>(・ω・春)
******
パソコンを小脇に抱えて、私は見慣れた扉の前に立つ。聴き慣れたインターフォンのあとに、扉を開けて出迎えてくれたのは、明るい笑顔のそのひとだった。
「こんにちは、アキラさん」
私としてはあまり顔を合わせずにすめばいいと思っていたところだったのに、しょっぱなからこれか。ついていない――いや、そう思っているのは相手も同じか。
「やあ。邪魔するよ、初音さん」
あくまでふてぶてしく、私は笑う。うまく笑えているだろうか。初音さんの明るい表情に、めだった変化はない。どう対応したものか、と、一瞬悩んでしまうほど、初音さんの笑顔は自然だった。
無理して笑わなくていいんだよ、恨んでくれていいんだよ。キミは、私を嫌ってしかるべきなのだから。そう言いたいけれど、言えば言ったで面倒だし、そんな生易しい言葉は、十中八九初音さんを傷つける。だから、私は口を閉じたままで、その背中に従った。
―Grasp―
アキラ編 第十六話
「今日で、完成ですか?」
「ああ、そのよていだよ」
「楽しみです、マスターとアキラさんの作る曲」
楽しみ、ときたか。私よりすこしだけ低い位置にある頭を見て、思わず口にする。
「……私のことが、きらいなんじゃなかったのかい」
「キライです、よ」
初音さんの答えは、途中で淀んだものの、ほとんど即答だった。きらい、と、言われて、安堵と痛みが胸に走る。それでいいのだ。ここで、好きですよ、なんてウソをつかれても、お互い苦しいだけだ。
初音さんの表情は、すこしだけ作り笑いの様相を見せた。
「……でも、どんな曲ができるか楽しみなのは、本当ですから」
「意外と散々な出来だったりしてね」
悠サンの部屋の扉の前で、初音さんが扉を叩こうとした手をとめる。訝しげにこちらをうかがって、まるで何を言っているんだこいつは、とでも言いだしそうな瞳を寄越す。
その様子に、自然と私の口角は上をむく。
「今回、アンタのマスターも私も、たいがい正気じゃないからね。妙な出来になってたら、盛大に罵倒してくれる?」
きょとんとした表情のあと、初音さんは、困惑げに、それでもなんとかたのしげに、私に向かって言い放った。
「あたりまえです、いいものになってなかったら、怒りますからね!」
それは、いうならば、初音さんにとっては最大限遠回しで、屈折した表現の激励だったのだろう。私は、その声に見送られて、自分からその扉に手をかけた。
「……よう」
「……よろしくお願いします」
扉を開けると、メイコさんとおとうとくん、それに、悠サンが出迎えてくれた。
かんたんすぎてそっけない挨拶をして、持ってきたパソコンをセットし、起動させる。その間に、悠サンはメイコさんたちにうたってもらう準備をしている(筐体で歌を歌う仕組みというのが、私にはいまいちわかっていないので、なにをしているのかはよくわからないけれど)。
「なんか、緊張するな……」
「そうかい?」
別に、いつもの調声作業の延長じゃないかと思うのだけれど……何を思って緊張なんてしているのやら。
ボーカロイドのエディターを動かして、めーこさんとかいとくんを呼びだす。
「メイコさんとおとうとくんと合わせてみて、微調整というかたちでいいんだよね?」
「ああ、それでいい……なんだ、なにかあるのか?」
「いつもの声とは、少しパラメータの振り方を変えたんだ」
事前にパート割をして、合わせる前の調声は、お互いしてある。ここで、声質がぶつかりすぎたり、声が溶け合いすぎたりしたら、調整するつもりでいる。ある程度相手の調声を想定して調整しているところもあるけれど、今回の曲で、私はいつもとは違う調声にしてみたのだ。
「とくにかいとくん……いつもの声とはかなり違う調声にしてある。歌い方も、すこしクセをつけた。合わなかったら変えるけど、できればこのままがいい」
「まあ、とりあえず歌わせてみてからだな。そのへんの調整は、こっちもまだ甘いし」
声の質を変えること、歌い方にクセをつけることを、かいとくん本人はかなり嫌がったし、いまでもちょっと不貞腐れている。さっきからひとこともしゃべらないのがいい証拠だ。……尤も、悠サンを驚かす演出としては、とても優秀な対応だけれど。めーこさんが後ろでくつくつ笑っている。
「じゃあ、早速だけど、歌わせてみるか?」
「あ、先にかいとくんとめーこさんに歌ってもらっていい?」
さすがに、いつもと違う調声を、いきなり合わせるには不安があるし……ここできちんと聴かせてやりたい。不思議そうな顔をしながらも「ああ、べつにいいぞ」なんて余裕ぶっこいて言ってるこのひとは、私が施した調声の意味が、はたしてわかるだろうか。
画面のなかのふたりに目くばせして、MIDIデータを流す。ほどなく、スピーカーからふたりぶんの声が流れ出す。
最初はめーこさんの主旋律。かすれ声なので、音圧が足りないかもしれない。でも、あとで加工するし、現段階では充分だ。次いで、かいとくんが口を開き――徐々に、悠サンの顔色が変わる。
「これっ……」
「しっ」
なにか言いかけた悠サンに向かって、私は自分の唇に人差し指を当てる。相手が動揺しているのを知りつつ、唇だけ動かして「静かに」と言った。悠サンがたじろぎながらパソコンに向き直ったのを見て、私もいちおうの満足とともに、かいとくんとめーこさんのデュエットを見守る。
悠サンは、すぐにパソコンに向き直ったけれど、どちらかといえば、私から目を逸らした、という表現の方が正しい。きっと恥ずかしいのだろう、口元に手を当てて、耳まで真っ赤だ。
歌い終えためーこさんとかいとくんは、ちょっとすました礼をして、メイコさんとおとうとくんから拍手をもらっていた。
「めーこちゃん、かすれ声きれいね。曲に合ってるし、歌い方もちょっと不安定だけど、いいと思う」
「ありがとう、メイコさん。でも、マスターはまだまだっていうのよ」
「かいとくんも……なんていうか、思いきった調声だね。前と全然違う感じだ」
「……おれはいやだって言ったんですけどね」
そう言って画面越しに睨んでくるかいとくんの視線をかわし、固まったままの悠サンを小突く。
「なんとか言ったらどうだい」
「……なんのつもりだよ、アキラ……」
「なんのつもりとはご挨拶な。私は『参考音源どおりに』調声してみただけなんだけど?」
かいとくんの調声は、いつか初音さんの持ってきたUSBに入っていた悠サンの声に近く聞こえるように調声したのだ(もっとも、再現性はかなり低くて、サビのあたりにしか反映されていないけれど)。歌い癖も、悠サンの歌ったバージョンの音源を参考にしている。ところどころ素直な発音にならなかったけれど、これはこれで味があるんじゃないかと思うのだ。
しかし、当の本人は、かなり焦った表情で訊き返してきた。
「さ、参考音源?」
「え? あれを参考にしろってことじゃなかったのかい? この前初音さんが持ってきたUSBに入ってたろ、悠サンが歌ったやつ」
「あ……! いや、違、あれ、そういう意味じゃなくて……!」
参考音源じゃないにしろ、何を慌てふためくことがあるのだろう。
ふと気付くと、メイコさんとおとうとくんが、不思議そうな顔でこちらを見ている。
「……マスター、歌ったんですか、これを?」
「あ、いや、歌ったは歌ったが……!」
「へえ、俺も聴きたいです、マスターの歌ったやつ」
「音源ありますよ、出します?」
「わー! わざわざ出さなくていい、東雲カイト!」
大の男がパソコンの中身に向かって怒鳴っているなんて、ちょっと滑稽な光景かもしれない、なんて思いながら、その背を見遣る。ぎゃいぎゃいとディスプレイ前で、人間1人と筐体2体、それとアプリのふたりが何事か言い合っているけれど、私はと言えば、それをぼんやりと見ながら、微笑ましいなあなんて思っているところである。あの悠サンが、かいとくんやおとうとくんにまでいじられているなんて、珍しい光景だ。
「……アキラ」
散々いじられて若干疲れた顔で、悠サンがこちらを向く。
「なに」
「お前の調声技術の高さはよくわかった。だが、東雲カイトの声は元に戻せ」
「なんで? いいじゃない」
「歌い癖まではさすがによしとしよう、東雲めーちゃんのかすれ声も認める。しかし、この声はだめだ」
「だから、なんでだめなのさ」
「声まで俺に似せようとすんな!」
「だいじょうぶ、似てないよ」
「結果の問題じゃねえ! こんなことされたら恥ずかしいに決まってるだろ!」
あ、やっと羞恥心を覚えたか。なんて、見当違いの感想をもちつつ、私は笑ってそれに応じることにした。
「あー、はいはい。悠サンが恥ずかしいから、調声変えますね、かっこわらい」
「笑い事じゃねえ! わざわざかっこわらいって言わなくてもいい!」
まだ、このひとに、どこまで本当の自分を見せられるか、わからない。
それでも、不用意に拒絶してしまうことは、たぶんもうない。
まだ、このひとに、自分の全部を許せるかと問われたら、ノーというしかないだろう。
それでも、いたずらにひとの好意に怯えていた私は、いつのまにかどこかに消えている。
どうか、過去の私が見られなかった、ささやかな夢を、このひとと一緒に見られますように。
そうして私は、自分で自分の背を押すように、一歩ずつ、彼に近づいていく。
【オリジナルマスター】 ―Grasp― 第十六話 【アキラ編】
マスターの設定で異様に盛り上がり、自作マスターの人気に作者が嫉妬し出す頃、
なんとコラボで書きませんかとお誘いが。コラボ相手の大物っぷりにぷるぷるしてます。
******
アキラ、ちょっとだけこころをひらくの巻。
さて、Graspも最終話となりました!
今回は曲がテーマの作品というわけではないですが、いちおう悠サンとアキラが
コラボしたときのイメージ曲は、アカサコフさん(にいとP)の「本当の自分」を
そっとうPがKAITOとMEIKOでカバーしたものです。どちらもオススメなので、
どうぞ聴いてみてくだしあ!
途中で卒論とか試験とかいろいろはさんだので、かなりゆっくりペースでしたが、
お付き合いいただいた皆さま&コラボ先のこはさんには頭があがりません!
それと、ぷけさんにも、作中でキャラとかお店の設定借りたりお世話になりました。
みなさん、本当にありがとうございました!
悠編では、先輩がいじられて顔真っ赤にしているようなので、こちらも是非!
******
本当の自分(そっとうPによるカイメイカバー)はこちら!
⇒http://www.smilevideo.jp/view/5005331/3326931
本当の自分(アカサコフさん/にいとPによる原曲)はこちら!
⇒http://www.smilevideo.jp/view/4327767/3326931
白瀬悠さんの生みの親で、悠編を担当している桜宮小春さんのページはこちら!
⇒http://piapro.jp/haru_nemu_202
作中にてカクテルバーとマスターの設定をお借りした、+KKさんのページはこちら!
⇒http://piapro.jp/slow_story
コメント2
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ご意見・ご感想
sunny_m
ご意見・ご感想
こんにちは、sunny_mです。
お疲れ様です。そして素敵な話をありがとうございました。
ここまで来るのに何度、悶え死にしそうになったことやら。
このアキラちゃんと悠くんの距離感がたまらなく好きです。
最終的には手を伸ばせば届く距離にいる。ってかんじの距離感。
たまらない、、、(笑)
更に言うと、たまに、アキラちゃんがわざと手の届くぎりぎりの距離に離れて立ってみると良いと思う。
そして悠くんがそんなアキラちゃんに全力で近寄ってしまえば良いと思う。
(変態発言でごめんなさい。自分は何かの病気なんじゃないかと思う。)
本当に素敵な話をありがとうございました~!
2010/03/28 22:56:39
つんばる
コメントありがとうございますー!
お祝いのお言葉ありがとうございますー! って死んじゃダメ! 生きて!(笑
やきもきしたとは思いますが(笑)、悶えていただけたならうれしいです!
アキラと悠サンの距離感は、よくある「すきすきあいしてる付き合って!」みたいな
感じを極力なくして、すこしでも現実ありそうな成人男女をめざしたつもりなので、
好きと言っていただけて嬉しいです……!
そして妄想までしてくれてありがとうございます、sunny_mさんの妄想おいしいです^p^
ではでは、こちらこそありがとうございましたー!
2010/03/29 01:18:07
+KK
ご意見・ご感想
二人は俺を殺す気だな、と思いつつやってきた+KKです。
何はともあれ、完結おめでとうございます。そしてお疲れ様でした。
相変わらずアキラ嬢にきゅんとしてました。
きっとこれからもこんな感じでちょっとずつ歩み寄るんだろうなぁとか、もうニヨニヨが止まりませんどうすれば(落ち着け
アキラ嬢も随分やわらかくなったような気がしますが・・・それも悠さんの影響かなぁとまたニヨニヨ・・・。
素敵すぎてお腹いっぱいですありがとうございました!
桜宮さんのとこでも叫んでますけども、こっちでも叫んで去ります。
二人ともお幸せに!(アキラ嬢に蹴られるなら本望d(ry
2010/03/26 19:22:44
つんばる
コメントありがとうございますー!
死んじゃダメ! 生きて! なにはともあれ、完結お祝いありがとうございます!
こちらこそ、途中で間があいたりしたのに、読んでいただけてうれしいです!
アキラはもうちょっとデレるとより一層イイと思います、読者と悠サンにとって(笑
悠サンの影響は大きいと思います、自分もこはさんから影響受けたとこ多いです。
しあわせになるかどうかは、彼ら次第なので、自分もによによしてることにします!
ではでは、ありがとうございましたー!
2010/03/28 01:03:46