「あららっ。とうとう降ってきちゃった。」
教室の窓から外を見ていたゆかりが声を上げた。
「おっ、よーやく天気予報が当たったか。」
ゆかりの声に、玲も窓際に寄って来る。
「はぁーっ、夕立かぁ。傘持ってきてないよ~。今日も晴れる予定だったのに。」
「今日は夕立があるかも、って天気予報で言ってたぞ。」
「天気予報って・・・。夕立があると言いつつここ何日も外してるんだもん。だから今日も降らないとふんでたのに。」
「ははっ、見事に外したな。俺はちゃ~んと持ってきたよ。」
得意そうな玲に対してゆかりが悔しそうに反論する。
「昨日だって、一昨日だって傘持ってきてたもん!」
「まぁ、でも肝腎なときに持ってなくちゃなぁ・・・。」
「なんでこう、丁度傘を持ってこない日に限って夕立が降るのよ~。」
空に向かって悪態をつくゆかりに
「やっぱりそれって、日ごろの行いセンサ・・・。」
「日ごろの行いセンサーだよね~。」
不意に声がシンクロする。
びっくりしてゆかりが振り向くと、いつのまにかつむぎがニコニコしながら立っていた。玲が動揺を隠せず半ば固まっている。
「つ、つむぎちゃん・・・びっくりさせないでよ。もうっ。」
「えへへ~。」
ニコニコしながらつむぎもゆかり達のそばにやってきた。
「そうか・・・つむぎも『日ごろの行いセンサー』を知ってたか。」
「もちろん。ゆかりちゃんて、ちゃんと1日3回歯を磨いてる~?」
「もう、つむぎちゃんまで!…いいでしょ、そんなこと。」
と、ゆかりはても悔しそうである。隣で玲が笑いをこらえて震えている。
ゆかりはそれを一睨みして、また窓の外を見た。
「もう、二人して失礼しちゃうわね・・・・あれっ?」
声につられて、他の二人も窓の外に顔を向ける。
「あそこにいるのって・・・、ご隠居だよね?」
ゆかりが指差す先、校舎の脇にある花壇に一人の男子生徒が立っていた。
「本当だ、御隠居いつ帰ってきたんだ?」
3人は教室から出て花壇に向かった。
「御隠居~。」
「おおっ、ゆかり達じゃないか。どうした?」
「御隠居、いつ帰ってきたんです?」
「たいそうな言われようだな。」
『御隠居』と呼ばれた生徒は苦笑した。
「今週はちゃんと通学してるぞ。」
「えっ、そうなんですか?でも全然部活に来ないから、てっきりまた放浪の旅に出たのかと思いましたよ。」
「ハハハッ。今週はちょっと補習がね…。」
「それは先月の分ですね~?」
「ハハハハハッ。つぐみちゃん、痛いとこ突くね。」
バツの悪そうに頭を掻く『御隠居』。時々、何日も授業をサボって何処か放浪してくる部の先輩は、その放浪癖から、ゆかり達に『御隠居』と呼ばれている。
「で、御隠居はこんなところで何してるんですか?」
.「ちょっとね、この間蒔いた種がどうなったか見てたんだ。」
「種って例の『月の花』のですか?」
「うーん、そうであればいのだけど、残念ながら別のもんだ。」
と、ポケットからなにやら小さな袋を、とりだしてみせた。赤い星型の背景に花の絵が描かれている。
「なんですか、それ。」
「近くで拾った。何かの種みたいだから、ちょっとここに撒いてみたんだけど。」
「大丈夫なんですか?そんな得体の知れない種なんて蒔いて。」
「まぁ、なにかあっても、うちの庭じゃないし。」
「あ~・・・(^^;」×3
「で、これがその種から育ったやつですか?」
「たぶんね。」
目の前にあるのは『御隠居』の背丈ほどに伸びた茎に大きな花のつぼみがついた植物だった。
「ひまわりか何かですかね。」
「ちょっと大きいけど普通のお花っぽいわね。」
「どんな花が咲くんだろうね~。」
「でも、ここまで育つのにたったの一週間だぞ。」
「えっ?!すごく成長早いですね。」
「この分なら、今日明日には花が咲くかも知れないな。」
「楽しみですね~。」
「楽しみなような怖いような…。」
「おっ、だいぶ雨が強くなってきたな。校舎に戻ろう。」
御隠居が促し四人は教室に戻った。
「すごい雨だね~。」
「あっという間に校庭が水浸し。あ~あ、傘がないのにどうしよう。」
「まぁ、そうぼやくなって。夕立だからしばらくすれば止むだろうに。」
遅れて入ってきた御隠居が窓際にいるゆかり達の方へやってくる。
「うんうん、見事に水浸しだな。…いや、何だかこういうのを見ると、水溜まりに金属でナトリウムの塊を投げ込んでみたくならない?」
「普通はなりませんって。」
ゆかりが反論する。玲も頷いている。
「つれないな~。」
「イヤイヤ、金属ナトリウムなんて水の中に投げ込んだら…」
「そっか~、そうすれば…、体育なんてなくなっちゃえばいいのに~。」
「…つ、つむぎちゃん?(・・;;」
小さなつぶやきに皆の視線が集中する。御隠居は仲間が出来たと大笑い。
「つむぎも案外黒いな~。」
「えぇ~っ、なんでですか~?」
「だって、校庭を穴だらけにしたいんだろ?」
「そんなことないですよぉ~。けd(ドカーン)」
表から急に爆発音がして、皆は窓に張り付いた。
「どうしたんだ?」
見ると校庭に小さなクレータができていて、そのまわりでなにかの破片がシューシューと、水溜まりの上を走り回っている。
「爆発だわ!ひど~い、誰がこんなことを?」
「誰か本当にナトリウムを投げ込んだ?」
「よかったな、つぐみ。これで明日の体育は休みだ。」
「ひどいですよぅ~。」
「…あ、まただ。」
今度は小規模の爆発が幾つも起こった。
「なにかが水溜まりに落ちた後に爆発してるし、あの水の上を走り回ってるのは、…やぱり金属ナトリウム辺りですかね、先輩。」
「そんな感じだな。俺の言ったことを、だれかが先取りして実行に移したかな?」
「でも誰が…?」
そのとき、
「見て見て、あそこ!」
つぐみの大声は珍しい。その指差す先には、先ほどの得体の知れない植物が大きな白っぽい花を咲かせていた。
「確かに花が咲いたのは気になるけど、今はそれどころじゃないでしょう!」
「え、でもぉ~、…あっ、ほらほら、またなにかピューっと…(ドカーン)」
見ると、白い花がなにか小さな塊を飛ばし、その塊が水溜まりに落ちると爆発を起こした。
「先輩!なんてもの植えたんですか!これじゃ校庭が…」
「あははは(乾)…、こうなるとは予想つかなかったな。…あっ、でもつぐみは嬉しいだろう?」
「えぇ~っ、そんなことなぃょぉ~…。」
「・・・。」(きっと嬉しいに違いない。)×3
「みんなしてなによぉ(:_;)」
「でもそれよりも、このままどうなっちゃうんだろう。」
四人はなすすべもなく!時々小さな爆発が起こる校庭を眺めた。
しばらくすると雨もこやみになり、爆発も少なくなってきた。
「おっ、雨は止んできたみたいだな。でももう、校庭は一面水酸化ナトリウムの水溜まりだな。」
「塩酸でも注いで中和しますか。」
「指示薬はBTBだな。」
「それ、難しすぎです。フェノールフタレインで真っ赤にするほうが無難じゃないですか。」
「う~ん。でも、そもそも強アルカリを強酸で中和するのは難しいでしょ。」
「弱酸でやります?でも、酢酸は臭いから嫌だな~。」
玲の本気とも冗談ともつかないような受け答えにのってくる御隠居。
「ちょと二人とも~!」
「このままだと、読者がいなくなっちゃいますよ~。」
「つぐみ、お前、それ誰に向かって言ってるんだ?」
「作者だよ~。」
「なるほど。理科とか数学の話が出ると、読者の半分は消えるというからな。」>作者
(…(^^; )
「もう、何訳のわからない事言ってるのよ!」
「まぁ、ゆかりも落ち着けよ。」
「これが落ち着いていられますか!」
玲がなだめるも、ゆかりは一向に収まらない。
「…ん?でも水溜まりのことならなんとかなりそうだぞ。」
「えっ、なんで?。」
「ほれ、あそこ。」
「・・・!(゜O゜」
「あ~、ムンクです~。」
御隠居の指差す先では、1隻のUFOが水酸化ナトリウムの水溜まりから水を吸い上げていた。
「なによ、あれ。」
「UFOだな。」
「いや、そうだけど。なんで…。」
「水酸化ナトリウムの回収に来たんだな。」
「回収って…。」
呆気にとられるゆかり達を横目に、UFOはみるみるちに水溜まりを吸い尽くしていく。
水溜まりの水を吸い尽くすと、UFOから重機のようなものが降りてきて、またたくまに穴だらけの校庭を整地してしまった。
最後に、頭の大きな細長い足が幾つもある生き物が出て来て御隠居の花を回収すると、UFOはどこかへ飛んで行ってしまった。
「・・・。」
「あれって…、やっぱり火星人?」
ゆかりが沈黙を破り呟いた。
「多分…。あの泥水どうするんだろう?」
「何かの原料にでもするんじゃないか。あんなんでも水酸化ナトリウムの溶液にはなっているだろうし。火星人なら泥があっても精製なんてお手のもんだろう。」
「水酸化ナトリウムって。普通そんな作り方しないでしょう!」
「まぁ普通じゃないけど、金属ナトリウムを飛ばすあの花の有効活用と思えば…。」
「しかし、苛性ソーダだけに火星人ですか…;」
「わはは。そういえば確かに、種の袋に赤い星が描いてあったな。」
「なんでそうなるのよ~。ねぇ、つぐみちゃん。」
ゆかりは窓の外を寂しそうに眺めているつぐみに同意を求めた。御隠居もつぐみに気付き、すっかり整備された校庭を見ながら、
「残念だったな、つぐみ。これじゃ明日の体育はつぶれそうにないな。」
(:_;)
「でも、御隠居さんのお花、持って行かれちゃたね~。」
「あっ、そうだ、俺の花~。」
御隠居は慌ただしく教室を出ていった。
・・・
数日後、御隠居が、
「今度はこんなの見つけたんだけど。」
袋に金色の星が描いてある植物の種らしきものを持ってきた。
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