#4


俺は病院のベッドの上の眠っているリンをただ黙ってみていた。

あの後、男性が呼んだ救急車でリンは運ばれた。むろん、それに俺も乗ってきたわけだが、誰も俺の存在に気がついてはいなかった。



ガララッ!

「はぁ…はぁ…リン!!」


病室のドアが開いて、息を切らした母親が入ってきた。


「リン!リン!」


母親は目に涙を浮かべながら、リンの体を揺らす。

すると、リンは目を覚まして、虚ろな目で母親の顔を見た。


「…おかあ…さん…」

「リン!よかった!もう…あんたが街中で倒れたって聞いて、わたしがどれだけ心配したか…」


そういって母親はリンを抱きしめた。目からは涙が流れていた。


「…ごめんなさい…」


リンは素直に謝った。

親子はしばらくお互いを強く抱きしめていた。






しばらくすると、母親はリンから離れて、涙をぬぐった。


「リン、なにか飲み物でも買ってきてあげようか?」

「うん。ありがと。」


リンがそう言うと、母親はにっこりとほほ笑んで病室から出て行った。






病室内が静かになる。



リンは俺の方を向いて


「…ごめんね。」


といった。


「なにがだ?」


俺は座って目線をリンに合わせる。


「…だましていて、ごめんね。」

「いや…いいんだ。リンがこうなったのも、俺の責任だしな…」


「そか…やっぱり…思い出しちゃったんだ…」



リンはそういうとすごく悲しい表情をした。





「あぁ。全部…な。」

そう、俺は全てを思い出した。


俺とリンは恋人として付き合い始めたばかりだったこと。

初めてのデートには水族館にいく【約束】をしていたこと。

リンはそのデートをものすごく楽しみにしていたこと。

そして、そのデートに向かう途中で俺が事故にあったこと。

あの交差点で死んだのはリンではなく俺であること。

リンとの【約束】を果たすためにこの世に戻ってきたこと。

リンに自分が幽霊であると告げたこと。

この世の存在じゃない俺がこの世に存在しようとしたせいで記憶が混乱して、リンが死んだと思っていたことや、リンの母親やリンの家を自分の母親や自分の家だと思っていたこと。

そして、俺はリンに取り憑いていて、そのおかげでこの世に存在していられるということ。だから、一定の距離以上離れられないこと。

そしてその結果、リンの生命力が日々、奪われていっていること。


数日前から彼女の具合が良くなかったのは、まさしく俺が憑いていたからであった。





「…リン…俺…全てを思い出したよ。」

「…うん。」


リンはベッドに横になって天井を見上げていた。


「俺たち、付き合ってたんだよな…。」

「…うん。」

「また…水族館につれていくっていう【約束】を守れなかったな…。」

「…うん。」

「俺はその約束を守るために戻ってきたのにな…。」

「…そだね。」


俺が何を言っても、リンは簡単なあいづちをいうだけだった。




「どうして…どうして、もっと早く言ってくれなかったんだ!…【知ってたんだろ】!?」


俺は思わず悲痛の叫びをあげた。


「…うん。【知ってたよ。】」


リンは静かにそういうと起き上がって


「だって、【約束】を果たしちゃったら、レンはいなくなるんでしょ!?」


そう。俺は【約束】を果たすためにこの世に戻ってきた。

そして、最後の別れをいうために。



「わたしはレンにそばにいてほしいの!約束を果たさなかったらずっと一緒にいられるって思ったから…わたし…」


そういったリンの目には涙が浮かんでいた。


「俺は幽霊だ。実際にそこにいるわけじゃないんだぞ。」


俺はリンの涙から目をそむけて言った。


「そんなのわかってるよ!たとえ幽霊だって…周りから変な風に思われたって…わたしは…レンに会えてうれしかった!!いなくなっちゃやだ!!」


リンは泣きながら俺にそう訴えかけていた。



「俺だって…できることなら、ずっと一緒にいたい。でも…そんなことしたら、お前の命が…」


俺はリンの肩を支えて話した。


「いいの!たとえこのまま、死んじゃうようなことになっても、レンと一緒にいられるなら…わたしは…死んでもいい!!」

「…リン…おまえ…」


リンはもう覚悟ができていると言わんばかりに、強く俺の腕を握った。


「わたし、ここ数日…ううん…先週あたりから、もう自分の体がおかしくなっていたのに気がついていたの…もう、わたしにも時間がないんだって…けほっ!」


リンは俺の腕を持ったまま、顔を伏せ気味にした。

俺は何も言えずに黙っていた。




「…だから…最後に…一緒に【約束】を果たして、一緒にここからいなくなろうって考えてたの。」


俺は泣いているリンを抱きしめた。



「…リン」


俺はリンの耳元で話しかけた。


「…なに?」

「俺のこと、好きか」

「うん」

「そうか。俺もリンが大好きだ。」

「うん」


リンの肩はふるえていた。俺が生きているうちに、こうして、抱きしめてあげたかった。



「リン…だから…さよならだ。」



俺自身も涙をこらえるので精一杯であった。


「え…なに?…よく…きこえ…なかっ…たよ…」


「…俺はリンが好きだ。…だから、死なせたくない。…俺ができなかった、たくさんの事を体験して生きて欲しいんだ。…俺がいなくなれば、元のように元気で明るいリンに戻れるはずだ。…だから、俺は…もういくよ。」


俺はリンから離れようとする。


「いやだ!レン、いかないで!わたしも連れて行って!」


そういってリンは俺を捕まえようとする。

が、リンの腕は俺の体をすり抜けた。


「取り憑きを解いたんだ…もう、触れられない…」


俺はそういうとドアのほうに向かって歩き出した。


「待って!レン!いかないで!」


リンはベッドから降りて、まだふらつく足取りで近づいてきた。


「ごめんな…リン。…【最後に一つだけお願い】聞いてくれるか?」


リンは涙を拭きながら、黙ってうなずく。


「最後に笑ってくれ。俺、リンの笑顔が一番好きだ。」


そういって俺は、自分の唇をリンの唇とあわせた。

もう、お互いに触れられないはずなのに、やわらかな感触を感じた気がした。

そして、お互いの顔をゆっくりと離すと、リンは一生懸命笑ってくれていた。




「リン、ありがと。さよなら。」



俺もほほ笑んで、病室のドアから出た。




しばらく、病室に静寂が続いた。

そのあと、買い物から戻ってきた母親が病室でみた光景は、娘が地面に崩れるようにして泣いている光景だった。











レンがいなくなってから、あっという間に五年という歳月が流れた。

社会人になったわたしは有給をつかい、とある墓地にきていた。

その墓地の中に鏡音家と掘られた墓石をみつける。


「レン…もう五年も経っちゃった。わたしだけが歳をとっていっちゃうわね。」


わたしはそういいながら、持ってきた花を供える。

線香をあげ、目をつぶって両手を合わせる。


【…リン】


その時、聞き覚えのある声がして、わたしはあわてて辺りを見渡す。

しかし、辺りにはだれもいない。

けれども、どことなくなつかしい、あたたかい雰囲気を感じた。

わたしはふふっと笑って墓石の前を後にする。



レン、わたしは大丈夫よ。

だって、あなたはきっとどこかでわたしを見てるんでしょ?

だから、わたしはあなたの【最後のお願い】を今日も聞いてあげてるんだから。

わたしが笑顔で日々を過ごす。

それがあなたの【願い】だから。





笑顔の理由【完】

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

笑顔の理由 #最終話

あっというまの最終回でしたww
え?長かった?
うんw #1でそういったじゃないww


この作品は、一人で悩み、苦しむリンちゃんサイドも書きたいなと思いつつ、面倒なのでやめましたwww


次は何を書こうか…ww


ここまで読んでくれてありがとうございます!!
ほんっと!ありがとうございます!!

閲覧数:597

投稿日:2012/03/29 21:29:52

文字数:3,244文字

カテゴリ:小説

  • コメント4

  • 関連動画0

  • イズミ草

    イズミ草

    ご意見・ご感想

    ずっと前、「幽霊列車」のときかな?
    「死」をテーマに書いてるって言ってて、読むって言ったのに遅くなりました……。

    4話なのに内容濃くて、良かったです!!
    面白かったです!!!

    やっぱり、リンレンは良いですよね(そこ?
    なんて言うか、切ないような悲しいような文章とか、物語書きやすいですよねww

    起承転結の転のところが「ぅぇええええ!!?」ってなりましたよw

    爽やか、かつ、切ない、感じでした!!

    ほかの作品も読んでみます!!

    2012/07/08 08:23:50

    • しるる

      しるる

      いえいえ…私だってイズミさんの作品をまだよんでないです(・へ・。)
      ごめんなさいです…

      褒めてもらえて嬉しいですw

      ぅぇえええええ!!?ってなってもらえたなら、狙い通りだったと思います
      ありがとうですww

      2012/07/08 20:53:01

  • 梅 

    梅 

    ご意見・ご感想

    神としか言いようが無いw
    フォローさせていただきます

    2012/03/31 18:36:43

    • しるる

      しるる

      フォローありがとうですww
      フォロー返しますねw

      楽しんでもらえてよかったですww

      2012/03/31 20:21:30

  • 亜梨亜

    亜梨亜

    ご意見・ご感想

    はじめまして!
    鏡音loveの亜梨亜です><


    「笑顔の理由」、全部読ませていただきました!

    超イイです!
    神ですよ、神!!!!

    めっちゃ感動しました;;
    いや、もう最終話の最後の方とか泣きそうに…w


    ということで、ブクマさせていただきます。。

    2012/03/30 14:42:21

    • しるる

      しるる

      はじめましてです!w

      ああぁぁ…ありがとうございますw
      そんなにいってもらって…泣きそうです(>_<。)

      あ、でも、神ではないです!
      よく言葉を噛みはしますがwwww

      2012/03/30 14:55:19

  • 中野めけ。

    中野めけ。

    ご意見・ご感想

    感動する!(T~T)
    泣ける!これは注目の作品に入って欲しい!
    すっげー!キャラクターの生長したところとか書けないから羨ましいです(え

    ブクマ貰い!

    2012/03/30 10:26:25

    • しるる

      しるる

      ブクマありがとうです!!ww

      あぁ…毎回、お褒めの言葉をいただき恐悦至極に存じます?

      レンリンがいい仕事しただけでごぜえますwww

      2012/03/30 11:15:45

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