オリジナルのマスターに力を入れすぎた結果、なんとコラボ(2人)でお互いのマスターのお話を書けることになりました!
コラボ相手は、カッコいい素敵なお姉さんの生みの親、つんばるさんです!
上記の通り、私とつんばるさんのオリジナルキャラ(マスター)が登場します……というか、マスター(♂)×マスター(♀)です。
そして、ところによりカイメイ風味ですので、苦手な方は注意してください。

おk! という方は……。

(つ´ω`)<ゆっくりしていってね!>(・ω・春)




*****




少し風が冷たくなってきたな。そう思いながら、俺は扉の前で足を止めた。
今日は、いつも一緒に飲んでいる相手はいないからか、なんだか緊張する。
まぁ、緊張の原因はそれだけではないだろうが。
それでも躊躇わずに、扉を開けた。


「いらっしゃい。久しぶりだね」


懐かしい声に、俺は自然と微笑を浮かべる。


「お久しぶりです」


開店直後で、しかも明日は平日だからか、俺とマスター以外は誰もいない店内を横切って、カウンター席に座った。




―Grasp―
悠編 第八話




このカクテルバーに最後に来たのがいつだったか、実はあまり覚えていない。
それほど昔の事ではないと思うのだが、不思議なものだ。忘れてしまうほど、毎日充実していたという事だろうか。
だが、ここに来ると背筋が伸びる……とは違うかもしれないが、かしこまってしまうのは、昔から変わらない。
今着ているジャケットも、プライベートではあまり着ない。


「今日は誰と?」

「俺1人ですよ。ここのところ、誰かと飲むことが増えてましたから、久しぶりに1人もいいかと思いまして」


そう答えて、差し出されたグラスに口をつける。


「珍しいね、白瀬くんが1人なんて」

「そんな気分の日もありますよ。……覚えてて下さったんですか、これ」

「白瀬くんがここに来るときは、いつもそれだったからね」


グラスの中のカクテルは、男性より女性に好まれそうな、甘い味だ。
俺が美憂に連れられて初めてこのバーに来たときに、彼女にすすめられたもので、特に甘党でもないのだが、結構気に入っている。


「あれからもう5年か……早いね」

「ええ。本当に、懐かしいです」


先ほど、最後に来たのがいつか覚えていないと言ったが、初めて来た時の事は、よく覚えている。
俺が20歳になってすぐ……ようやくあの失恋から立ち直り始めたかという頃だ。
当時の俺は、酒にはあまりいい感情を持っていなかった。
高校在学中に荒れていた状態から抜け出せたとはいえ、美憂を泣かせてしまった記憶は鮮明に残っていて。
飲酒という行為に対して、拒絶しか感じなかった。
美憂が行きたいと言ったから、渋々ついていっただけで、そうでもなければ行こうとしなかったと自信を持って言える。


「あの時はすごく嫌がってたね、白瀬くん」

「はは……すみません。あの時はガキで、酒が美味いなんて、思った事もなかったものですから。……今ここに来れるのも、マスターのおかげです」

「私は何もしていないよ」


そう言われてしまったが、彼にはすごく感謝している。
今思えば、客に対する普通の対応をしただけだったのかもしれないが、あの日のマスターの笑顔がなければ、酒を飲む楽しみなんて理解できなかったし……アキラとの接点も減ってしまっていただろう。
……って、なんで今アキラの事が出てくるんだ!


「ああ、そういえば、昨日東雲さんと黒部さんが来てたよ」


この人はエスパーか何かだろうか。
そう思ってしまうほどのタイミングの良さで、マスターがそう口にする。


「あいつらがここに? 呼んでくれればよかったのに」

「女の子同士で話したい事もあったんじゃないかな」


女の子、ねえ。
美憂はもう数年したら三十路だが、この人にとっては"女の子"のうちに入るらしい。
じゃあ俺はまだまだガキなんだろうな。まぁ、こう見えて俺の倍近い時間を生きている人だ、当然かもしれない。
そう思うと、つい苦笑してしまった。


「黒部さんから聞いたんだけど、白瀬くん、最近は東雲さんと仲良くしてるんだって?」

「仲良くしてる……んですかね、あれは」


ただのコラボだと言って流す事はできなかった。
ここで否定したくはない。……仲良くしたいと思ってるのは、事実なのだし……。


「あいつ……アキラは、何か言っていませんでしたか?」

「いや、特に何も。気になる事でもあるの?」

「……いえ」


この人に訊いてどうする。
訊いたから、前に進めるのか?
訊かないと進めないような奴なのか、俺は?
……違うと言い切れないのが、寂しい。


「あいつが作った曲……なんだか、痛いんですよ、胸が」


聴いていて、何かが突き刺さってくるような、それでいて酷く優しいような、奇妙な感覚がある。


「不満ではないんです。むしろ曲の魅力の1つだと思っているんですが……何を思ってあの曲を作ったのだろうと思うと……」

「心配、なのかな?」

「……そうかもしれません」


余計なお世話だと言われてしまいそうだが、それでも、俺に何かできないかと探ってしまう。
俺が行動する事で、彼女の辛さを和らげてやれるなら、そうしてやりたい。
……変だな、気分転換にここへ来たのに、結局考えるのはアキラの事ばかりだ。


「東雲さんは、ああ見えて寂しがりやだからね」

「あいつが、ですか? 想像できませんけど……」

「そのうちわかるよ。白瀬くんが、東雲さんをちゃんと見守ってあげてたらね」


そう言って、マスターはにこりと微笑む。


「好きなんだよね? 東雲さんのこと」


からかわないで下さい。そんなわけないでしょう。
……普段なら、すぐにそう言い返すのだが……今日の俺は、随分と無防備だったらしい。


「そりゃ……好き、ですよ。じゃなかったらここまで悩みませんって」

「……ハルちゃん先輩、アンタまで美憂先輩と同じような妄言を……」

「!?」


本音を溢した直後、店の入口から聞こえてきた声に、硬直する。
そんな俺をよそに、マスターはあの穏やかな笑顔を声の主へと向けた。


「やあ、東雲さん」

「マスター、このイトコふたりをあんまりからかわないでください。調子に乗るんで。……忘れ物取りに来ました」


東雲晶の、淡々とした声と足音が近付いてくる。


「ああ、これだね。はい」

「ありがとうございます」

「あ、アキラ……」


彼女が忘れ物とやらをマスターから受け取って、やっと俺は声を発する事に成功した。
酷く掠れた声ではあったが、アキラの耳には届いたらしく、彼女の目が俺へと向けられる。


「なんですか」

「あの、さっきの……」

「妄言?」

「そう、そのもうげ……じゃなくて! 妄言とか言うな!」


相手のペースに乗せられそうになって、思わず叫び返す。
こっちは真面目なのに、妄言だなんて、冗談じゃない。
そう思ったのだが、アキラは怪訝そうに僅かに眉を寄せた。


「……まさか本気だとでも?」

「……!」


しまった。油断して墓穴を掘ったか。
必死で言い訳を探している間にも、アキラは言葉を続ける。


「んー……まあ、そこまでストレートに言われるとは思ってなかったですけど、嫌われるよりましですかね。
 いちおう、ありがとうございます?」

「ちょ、あ、いや、そうだけど、いや、そうじゃなくてっ……!」

「何に対しての肯定と否定ですか。要領を得ませんよ、ハルちゃん先輩。なにがいいたいんです」


彼女の声に、苛立ちが混じりだす。
これ以上下手な言い訳をしたら、怒らせるだけだ。
ちらりとカウンターの向こうに視線を飛ばしたが、マスターの姿はいつの間にか消えている。
空気を読んで店の奥に引っ込んだのだろうが、こんな状態で2人きりは、少々辛いものがある。
それにしても、いつからいなくなっていたのだろう。
……仕方ない、観念するか。


「……アキラ」

「はい?」


俺の声の調子が変わった事を感じ取ったか、アキラの表情が少し強ばる。


「1回しか言わないからな」


嗚呼。
今、急にこんな事を言っても、彼女の邪魔にしかならないのに。


「……好きだ」


それでも、抑えきれなかったなんて。
俺は馬鹿だな、と、思った。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • 作者の氏名を表示して下さい

【オリジナルマスター】 ―Grasp― 第八話 【悠編】

実は前からこっそりそういう事を考えていたんですが、なんとコラボで書ける事になってしまった。
コラボ相手の方とそのオリキャラさんが素敵すぎて、緊張しております……!



わっふー! どうも、桜宮です。
悠さん、1人で飲みに行く、の巻。
何気に悠さんの敬語は初めてだったりします。
不覚にも萌えたと言っていただけたのが嬉しかったです(*´∀`*)

そして、今回悠さんが飲みに行っているカクテルバーですが、アキラ編六~七話と同じく、+KKさんのraison d'etre ep.7,5に登場するお店です!
本当に、このバーのマスターかっこよすぎます……!
+㏍さん、許可を下さって本当にありがとうございます!


さて……ここまでくるのに長かったですね~。
八話かかってやっと、です。
この後どうなるのか……また読んでくださると嬉しいです。

アキラ編ではどうなっているのか……そちらもぜひ!


東雲晶さんの生みの親で、アキラ編を担当しているつんばるさんのページはこちらです。
http://piapro.jp/thmbal

今回、すごくお世話になってしまいました、+KKさんのページはこちら!
http://piapro.jp/slow_story

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投稿日:2009/11/03 13:49:55

文字数:3,471文字

カテゴリ:小説

ブクマつながり

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