※これはゆうゆp様の楽曲『深海少女』(http://www.nicovideo.jp/watch/sm11956364)の二次創作です。
『翻案・深海少女』日枝学
あの事件から一ヶ月、悲しみの海から抜け出すことの出来無いまま、私は無気力な毎日を過ごしていた。
そんなある日のこと。
一日を終え、自分のアパートへ帰る。私の部屋は三階だ。高校に通っていた頃なら階段を登る気力もあったかもしれないが、今の私にそんな気力はない。そういうわけでエレベーターのボタンを押す。
エレベーターを待っているとアパートの入り口の方から足音が聞こえてくる。嫌だなあ。他人と二人でエレベーターにいるときの雰囲気は苦手だ。
足音が近づいて、私の隣で止まる。
「あれ、もしかして初音さん?」
「はい?」
そこにいたのは、学生時代の友人だった。
私は××の部屋にお邪魔させてもらうことにした。××の部屋は、私の部屋の隣にあった。
お茶入れるからそこらへん座ってていいよと言われたので、言葉に甘んじて座る。
××は二人分のお茶を注ぎながら言う。
「いやあ何年ぶりだろうな。まさか初音さんとこんな所で再会するとは思ってもいなかった」
「ほんとそうだよね。私だってまさかこのアパートに、しかも隣の部屋に、××君が住んでいるとは思ってもいなかったよ。いつからここに住んでたの?」
「えーと大体一週間ぐらい前からだな。下の郵便受けの所に初音さんの名前が書いてあったから、もしかしたらと思ってたけど、いやあホントまさかの――はい、お茶どうぞ」
「ありがとう。ホント、まさかのだねー。ところで××君は今何のお仕事してるの?」
「それが結局博士過程に進んだもので、まだ大学院なんだ。初音さんは今は何をやっているの?」
「私? 私は今は音楽関係の仕事してるんだ」
「へえ、確か初音さんって高校の時から音楽関係の仕事就きたいって言ってたよね。夢叶えたんだ、凄いじゃん!」
「へへへ、ありがとう」
それから私と××は、懐かしい元同級生の話や、卒業してからお互いが何をやってきたかについて話して盛り上がった。
あれからこんなことがあってそんなことがあった。
今あの子はどこどこでこんなことをしているらしい。
あの時はあんなのだったけど今はこんな風になった。
そういえば一ヶ月前に――
一ヶ月前のことが口に出かり、はっとして止める。××が不思議そうに尋ねる。
「一ヶ月前に、どうしたの?」
「それが……」
私は喋ろうか喋らないでおこうか悩んだ。
別に私が喋ったところで、今更何も問題はない。××にあの事を喋ったところで、誰かが気にするということもないだろう。当事者の私が言うんだ。間違いない。
けれど、私の無意識が、私を抑えつける。言ってはならない。
言葉を途中で止めた私に、××は「うん?」と疑問の声をあげた。私は言葉を繋げる。
「いやそれが、一ヶ月前に、私が好きだった作品が完結しちゃってさー」
「ああそれは悲しいな。ちなみにその作品は――」
××と会話するのは楽しかった。長らく悲しみの海に沈んでいた私には、××は海面から射す温かな光のようなものだった。少し眩しくて、私は隠れてしまう。無意識に、自分の心を隠してしまったのだ。私はなんて駄目なのだろう。心を隠す癖が出来てしまったみたいだ。ああ、私は何をやっていたのだろう。私は、悲しみの海を更に深くへと沈み続ける。こんなことなら、もう誰とも関わりたくない。
だけどどうやら、私は××に心を惹かれてしまったようだった。関わりたくないと思う一方で、私は××のことを知りたいと思ったのだ。
それからの一ヶ月間、私の心は今までとは異なる方向性に揺さぶられた。人と距離を置きたい気持ちと、××のことを知りたい気持ちが葛藤していた。
一ヶ月が経った。私はまた××の部屋にお邪魔している。
「一週間、仕事お疲れ様! いやあ今週もこれでお仕事終了だね」
「うん、あとは休日をまったり過ごすだけ。ああようやく解放されたあ」
「ははは、おめでとう。腹も減ったことだし、ちょっと下のコンビニで夜食買ってくるよ。それまで待っててくださいな」
そう言って××は部屋を出る。
××とは、あの再会した日以来、こうして時々、どちらかの部屋で会話することが増えた。私が今いるのは××の部屋だ。その日一日の出来事を話し、時々昔のことを話し、話すことが無くなったら帰る。そういうことを繰り返していた。
しかしまだ、あの事件のことについては打ち明けることが出来ないでいた。不思議にも、あの事件のことを話さないでおこうと思うと、他の全てのことも打ち明けることが出来なくなっていった。
だから、再会して一ヶ月間が経ったこの頃には、私が××に対してついた嘘は数えきれない寮になっていた。自分を偽り、××も偽る。こういうのは苦しい。とても苦しい。
私は馬鹿なんじゃないだろうか。こうなったのも、何もかも、全て私のせいじゃないか。分かってながらも変わることをできないでいる私はどこからどう見ても、大馬鹿者だ。
「ただいまー。とりあえずカップ麺と――って、初音さん、大丈夫? 何かあった?」
「え?」
いつになく真剣な表情をする××に言われて気付いた、いつの間にか私の頬に涙が伝っている。
その瞬間、私は、見られてはいけないものを見られたような気分になった。してはいけないミスをしてしまったような気分になった。理由の無い怒りが込み上げてくる。きっとこの怒りは八つ当たりだ。すぐに、今すぐにここを去らなければならない。
私は早口で言う。
「私今日はもう帰るね」
「ちょ、ちょっと待て。事情ぐらい話してくれないか。心配だ」
「ごめん、私、嘘ついてばっかりだ」
「ちょっと、初音さん!」
××の声が後ろから聞こえてきたが、私はここを飛び出て、私の部屋に閉じこもった。何度か扉をノックされたが、全て無視した。今の私は閉じこもることに関しては自信がある。
やがてノックする音は消えた。籠城戦は私が勝ったのだ。そんな馬鹿なことを考えて、私は一段と心が沈んだ。何も嬉しくない。ここにあるのは悲しみだけだ。
溜め込んでいた涙が溢れ出る。私は床に座り込んで嗚咽を漏らす。私は馬鹿だ。大馬鹿者だ。私が打ち明ければ良かったのに。最初から、悩むこと無く全て打ち明けておけば良かったのに。最初のあれを隠したから、私は自分の殻にさらに閉じこもった。
泣くだけ泣いて、ようやく涙が止まると、今度は後悔と絶望がやってきた。
私は××を遠ざけてしまった。××は歩み寄ってきてくれていたのに、私のせいで、××は傷ついたかもしれない。××に失望されたかもしれない。嫌われたかもしれない。そのことを考えると、また少し泣きそうになる。
そんなの、そんなのは嫌だ。
もう手遅れでは無いだろうか。まだ間に合うだろうか。不安になった私は、ほぼ衝動的に、立ち上がって勢い良く部屋の扉を開けた。そこには――
「嘘じゃないだろ」
××が立っていた。
「え?」
「初音さんは、やりたくないまま仕方なくやったの?」
「いやそんなことは……」
「ほら違うでしょ。だからさ、君だって出来るじゃないか」
――心を打ち明けることを。
「さっきだってそうだ。言葉じゃないものの、初音さんは涙を流して心を打ち明けたじゃないか。言葉の代わりに行動で打ち明けてくれたじゃないか。せっかくだから、ぼくもこの際打ち明けよう」
そう言って××は私の手をとって、そして――
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ご意見・ご感想
魔熊
ご意見・ご感想
メッセージありがとうございます。
日枝学さんの作品読ませていただきました。
ミクちゃんが可愛いです!!
文章力すごいですね!
尊敬しちゃいます。
私も曲の自己解釈していますが、何故だかおかしくなることが多いんですよね(--;)
フォローさせていただきます。
2011/06/26 16:10:02
日枝学
>>魔熊さん
おおお読んでいただけるとはありがたいです!
最近は自分が文章力あっても面白い展開作るのが苦手なことがよく分かったので、そこを努力していきますよー
曲を解釈するのって、案外むずかしいですよね 自分も、書く前段階の解釈だけでかなりの時間をとってしまったり
フォローありがとうございます!
2011/06/27 00:45:09